私!嫁ぎます!
その日の夜、私をお父様は自室に呼びました。
オード家は質素を旨としておりますがお客様を招く客室とこの
執務室だけは豪華なつくりになっています。
「フローラ、お前に話がある。」
いつに無く真剣な面持ちに私もひどく緊張してお父様の言葉を待っていました。
けれどお父様は言いづらそうに顔をしかめています。
そんなに言いづらいことなのでしょうか・・・。
「お父様?」
私が心配になって尋ねるとお父様は重い口を開きました。
「フローラ、突然だがお前にスタルフォスに嫁いでもらうことになった。」
嫁ぐ? こんな非常事態にどうしてでしょうか、
と少し考えて合点がいきました。
「政略結婚というわけですか。」
「ああ・・・。」
お父様は非情に悲しそうです。 ですが、この国の惨状は最早筆舌に尽くしがたい。
私一人で戦況が覆るなら願っても無いことでしょう。
ですがお父様はそれを今までしませんでした。
当然、私の幸せを願ってのことでしょう。 そうでないならばいままで他家の
縁談を蹴ってきた理由がわかりませんもの。
父は恋愛結婚でしたし、母も私の意志をいつも尊重してくださいました。
けれど今この状況に至ってそれはゆるされません。
「お父様、私はその申し出喜んで受けましょう。」
「いいのか?!」
その言葉にお父様は驚いたように言う。
そのやさしさが見に染みます。 ですが今は戦時です。
「私とて将軍家の娘。 覚悟はできています。」
「すまんな・・・。」
その日に早馬がスタルフォスに走りました。
書状にはスタルフォスの出した条件を呑むというもの。
それからの戦況は一変しました。
お父様の軍も精強でしたがスタルフォスの軍の強さは質で五分
進軍速度と量では遥かに上回りました。
歩兵が騎兵と同じ速度で走るのはかの国の戦士にしか出来ない芸当です。
しかしそれ以上に相手が条件を飲まないとタカを括っていたのが
大きかったです。 スタルフォスはボークリンデ国から野蛮な国だと
思われていましたからその国にサマル帝国軍の象徴とも言える
オード将軍の娘を差し出すとは思っていなかったのでしょう。
スタルフォスは国境でボークリンデ軍を分断、国内のサマル帝国軍と共同して
撃破し、神速の行軍で瞬く間に帝国の所領を取り戻しました。
春も中ごろに迫る頃、戦争はようやく終結しました。
領民達は戦争の終結を大いに喜び、ボークリンデから多額の賠償金を
得たことで皆もようやく復興に取り掛かれる状態でした。
復興にはスタルフォスの兵も参加し建物の被害は早期に復興させることが
できるだろうとのこと。
お父様が治める領地 リンク地方も復興を目指して領民とスタルフォスの兵が
日夜汗をながしていました。
「将軍様、スタルフォスの将軍がぜひお会いしたいとのことです。」
「わかった、今行く。」
昼ごろにスタルフォスの将軍から呼ばれてお父様はでかけていきました。
きっと私のことでしょう。 どの家に嫁ぐのかは聞かされていませんでしたが
どの方に選ばれても恥ずかしくないように支度しなくてはなりません。
「マリー、どうやらその時が近づいてきたようです。」
我が家のメイド、マリーに言うと彼女は頭を下げて私に跪きました。
「お嬢様、このマリー地の果てまでもお供するつもりです。」
「ありがとう。」
私はマリーに出かける準備をしておくように言うとご先祖様にお別れを
言うべく屋敷の地下にある霊廟へと向かいました。
薄暗い階段を降り、厳重ないくつもの鍵を開けて地下の奥へと進むと
歴代の将軍・・・ご先祖様を祀った霊廟が姿を現します。
お父様は戦場へと向かう時いつもこの霊廟を訪れてご先祖様に
勝利をお与えくださいと祈っていました。
私は女ですが今から赴く場所はおそらく女にとっての
戦場と言っていいでしょう。
スタルフォスの兵は約定に従い誠意を見せた。
これを反故にすればきっとサマル帝国は信用を失墜し、スタルフォスを
敵に回すことになるでしょう。
「ご先祖様、私に力をお与えください・・・。」
私は将軍家の始祖、オルトラン侯爵の大剣に祈りを捧げます。
将軍は身の丈が人の三倍という異常な身長を持ちその身長に見合った
大剣は刃渡りが二メートルに及びました。
始祖様は帝国の最初の将軍となりこの地を拓いたお方。
見知らぬ土地へ嫁ぐ私にとってこのお方ほど加護を求めるに
適した方はいらっしゃらないでしょう。
「私は今から他国に嫁ぎます・・・ですが私の身の振りで祖国に咎が
及ぶかと思うと今にもつぶれてしまいそうです。」
どうか困難を乗り切る力を・・・そう祈りました。




