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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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八話

「……なぜ、ハルト、お前がここにいる?」

「いや、せっかくだから、メリル=スタルジック嬢でも眺めておこうと思ってさ」

「……公務はどうした?」


私がレクサス家でミルアちゃんから情報を集めて3日後、レストを含めた数名の外交官とその使用人がスタルジックに向かった。

使用人の中にはミルアちゃんも入れられており、私もいろいろと手を回してその中に紛れ込んだ。

そして、何とかレストに見つからず、スタルジックの王城に到着して笑顔でレストの肩を叩く。

レストは表情を変える事はないけど怒っているのがわかる。


気にはしないけどね。


「私が本気を出せば、他の人間に公務を押し付ける事など簡単さ」

「……押し付けるな」

「さすがに冗談だけどね。それに私にもスタルジックに用事があるんだよ」


私にだって優秀な者達は仕えてくれているんだよ……文句は言われたけどね。

冗談にしておかないと父上に何を報告されるかわからない。

実際、目的もあるのは本当だし、用事があると言うのだけどレストはまだ私へと疑惑の視線を向けている。

まったく、失礼な話だよね。


「……その用事と言うのは何だ?」

「あれだよ。ミルアちゃんの養子縁組の話」

「その話は断ったはずだ。ミルアをどこかの養女にする気はない」


メリル王女を見に来たと言う理由だけではレストにシュゼリアまで強制連行される可能性が高い。

そう考えてミルアちゃんの養子縁組の話を出すとレストの表情が小さく歪む。

レストはミルアちゃんをスタルジックの貴族に養女に出す事でシュゼリアと新たな絆を結ぼうと私が考えていると思ったようだ。


違うんだよね。

確かにそれも考えたけど、レストとミルアちゃんが嫌がる相手を選ぶわけにはいかないよ。


「わがままを言わないでくれないかな。だいたい、レストは私の婚約者の話を進めていても私に文句を言わせないんだから、レストとミルアちゃんの話を私が進めていてもレストに何も文句を言う権利はないと思うよ」

「……」

「安心しなよ。私がミルアちゃんの嫌がる相手を選ぶわけがないじゃないか?」

「……お前は胡散臭い」


……レストが疑っているから、答えたのに酷い言いがかりだ。

ため息が漏れるのだけど、レストからの疑いの視線が晴れる事はない。


「レスト様? ……どうして、レオンハルト様がここに居るんですか?」

「来ちゃった」

「……来ちゃったじゃないです。レオンハルト様は何をしているんですか? まさか、メリル様を見たいって理由だけでスタルジックに来たわけじゃないですよね?」


その時、ミルアちゃんがレストを呼びに来たのだけど、私の顔を見て眉間にしわを寄せた。

笑顔を作ってみるのだけど、彼女の眉間のしわはさらに深い物になっており、この反応に口元が緩んでしまう。

ミルアちゃんは私の顔を見て、何か察したようでレストの背中に隠れる。

彼女はレストの背後から顔を覗かせながら、私に何をしに来たかと聞く。


これは完全に疑っているね。

まあ、元々、ミルアちゃんから得た情報で動いたのはあるけどね。

今回、何の目的があったかわからないけど、ミルアちゃん達使用人も同行していなければ私が紛れ込むのは難しかったわけだし。

お礼の意味も込めてしっかりと説明してあげなければいけないと考えるのだけど、彼女の反応が楽しみなためか口元が緩んでしまう。

そんな私をミルアちゃんは危険を察知したのかレストの背中に隠れる。


……と、確かにミルアちゃんで遊ぶのは楽しいのだけど本題は別にあった。

ここでメリル王女を確認するためにはある程度、自由に動けるようにしなければいけない。

あまり、ミルアちゃんをからかってレストを敵にするわけにはいかない。


「私の目的はザシド=レンディル先生にミルアちゃんの養父になって貰おうと思ってね。先生、今はスタルジックでメリル王女の家庭教師をするって隠居を決め込んでいるから、スタルジックまで来ないといけなかったんだよね」

「ザシド=レンディル? この間、レスト様に言われてケーキを送った方ですよね?」


確かにメリル王女の顔も見たかったのだけど、ミルアちゃんの問題も解決したかったと言うのが本音だ。

早くそれを解決しないと私の仕事が減らない。

でも、レストがそれなりに信頼している人間を選ばないといけない。

そう考えた時に思い浮かんだのが、私やレストの恩師であるザシド先生だったりする。


ザシド先生の名前にレストの眉は小さく動くのだけど、ミルアちゃんはザシド先生の名前を知っているようだけど面識がないのか首を捻っている。


「どうして、ザシド先生を選んだ?」

「だって、レストが納得しそうな人間って限られているだろ。そうそう、ザシド先生がイヤならルーディスか私の義妹になって貰うよ」

「……レオンハルト様とルーディス様と家族になるのはなんかイヤです」


レストは私がザシド先生を選んだ理由を知りたいようだけど、理由は単純だ。消去法でしかない。

自分の利を考えている人間をレストとミルアちゃんの間に入れるわけにはいかない。

個人的には私の妹になって貰っても良いと思うし、父上も面白そうだと言っていたけどミルアちゃん本人から了承は得られそうにない。

同様に私とレストの共通の友人であるルーディスの妹にもなりたがらない……現に今も疑いの視線を向けられているわけだし。

他にもレストとの共通の友人の関係者を選ぼうとしたんだけどね。

やっぱり、余計な物が付いてきて面倒な事になる。

そう考えた時に思いついたのがザシド先生だった。

ザシド先生はレストと甘味仲間だし、立場のある身なのに独り身。

この後に遅い春が来るかも知れないけどあまり興味もなさそうであり、このままだとレンディル家の財産を引き継ぐ人間がいない。

レクサス家の力が強くなって嫌がる人間も出てくるかも知れないけど、その辺はレストの顔で表向きは黙らせる事ができるだろうし。


「ミルアちゃんもこう言っているしね。消去法でザシド先生しか思いつかなかったんだよ。ザシド先生ならレストも文句ないだろう。と言うか、誰かがレンディル家の管理をしないといけなくなるんだ。本人は学問として内政だなんだってのは好きだけど、自分の家の事はまったく気にしないからね」

「……それは確かにそうだが」


ザシド先生は父上の右腕とまで言われている。

彼が父上の補佐をしたくれた事で5年前の流行り病でも多くの人間を助けられたんだと私は思っている。

それは父上や他の臣下の者達も同様のようで彼の功績に見合った身分と恩賞を保証したのだけど本人は自分の事には興味が薄い。

甘い物だけ食べていればそれで良いと良い出す始末である。

そのため、現在のレンディル家の領地やその他もろもろは父上が人材を派遣しているんだけど、優秀な人間を遊ばせておくのはもったいないのでレストに押し付けてしまおうと私は考えている。

レストも私が何を考えているのか、理解できているようで文句はありそうだけどミルアちゃんの事を考えれば納得するしかない。

ミルアちゃんを政治的に利用される事を嫌っているのはわかるからね。

その点に関して言えば、ザシド先生は絶対にそのような事はしない。


「納得してくれたかな?」

「……納得はできていないが、ザシド先生が了承すればな」

「了承させるから、私がザシド先生に会えるように手配してよ。王城内を自由に歩き回るように手配してくれれば良いからさ」


ザシド先生が断る事に期待を込めたようにレストは言う。

その言葉に笑みがこぼれてしまう。

ザシド先生が了承してくれなければ、ザシド先生に会うための時間さえ取れれば良い。

時間が取れれば勝手にメリル王女を探せば良いだけだからね。


「……そうはいかない。お前が王城内を勝手に動き回って、スタルジックの者達に迷惑をかけるわけにはいかないからな」

「迷惑って、私だって子供じゃないんだから、バカな事はしないよ」

「王子様が馬車に紛れ込んで隣国まで来ちゃうのは充分にバカな事だと思いますけど」

「ミルアちゃん、それは言わないお約束だよ」


私が何を企んでいるのか、付き合いの長いレストには想像がついているようだ。

ただ、私も簡単に引き下がるわけにはいかないんだよ。

せっかく、ここまで来たのにメリル王女の事をつかめないで帰るわけにはいかないんだよ。

真剣な表情をして、レストに心配ないと言うのだけど私の事をいまいち信用していないミルアちゃんから横やりが入る。

ため息を吐くのだけれど、ミルアちゃんは私へと疑いの視線を向けたままだ。

まったく、これでもミルアちゃんの応援だってしているし、それなりに力を尽くしているつもりなんだけどね。


「……それに関して言えば、私が許可を出す事ではない。まったく、頭が痛い事をしてくれる」

「レストや父上が隠し事をするから悪いんだよ。安心しなよ。婚約者が気に入らないからってわがままを言うつもりはないよ。その辺の聞き分けは良いつもりだよ」

「ミルア、しばらくハルトを見張っていてくれないか。スタルジック王に状況を説明してくる」

「わ、わかりました」


自分に婚約者を選ぶ権利がない事は理解している。

これに関して言えば嘘はない。

私の言葉を聞いて、レストは待つように言うとスタルジックの者達と一緒に国王の元に向かってしまう。


「レストが機嫌悪いと案内する者が可哀そうだよね」

「そう思うなら、おかしな事をしないでください」

「はいはい。わかったよ。とりあえず、ミルアちゃんはどうして、レストに付いてくるようになったの? 婚前旅行?」

「違います。お仕事です。どこにも行かないでくださいよ。レスト様に私が……怒られるんですから」

「……口元、緩んでいるよ。逃げた方が良い?」

「に、逃げないでください!!」


レストが私のせいで機嫌が悪いのはスタルジックの者達にも伝わったようで逃げるようにレスト達を案内して行く。

その背中に同情してしまうのだけど、原因は私にあるためかミルアちゃんにため息を吐かれてしまった。

遊び相手もいなくなったため、ミルアちゃんで時間つぶしをしようと思ったんだけど彼女は忙しいようで私の相手はしたくないと言う。


ただ、レストに怒られる状況が頭をよぎったようでドMの彼女にしかわからない快感を見つけたようで口元が緩んでしまう。


……私にはわからない世界だね。


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