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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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七話

「美味しいです」

「うむ。スタルジックにも良い料理人がいるものだ」


ザシド先生にお勉強を教えて貰うようになって10日ほど経ちました。

私はお勉強の合間の休憩でザシド先生が買ってきてくださったケーキを食べています。

お勉強はザシド先生から教わるようになって、難しい物になっていましたが何とかついて行けています?

……ついて行けていると思いたいです。


ザシド先生もレスト殿と一緒でケーキなどのお菓子が大好きなようです。

最初はスタルジックに来た時は王城の料理人に焼いていただいていたようですが……昨日は1人で街に美味しいケーキを探しに行ったらしく、大騒ぎになったとお世話をしてくれている方にききました。

そうですよね。元々は財政を立て直すためにスタルジックにお越しいただいたのになぜか私のお勉強を見ている以外はお仕事をしていないと言う話も聞こえてきていますから……これでは元々、スタルジックに仕えていた者達から反発があるんではないでしょうか?


「あ、あの、ザシド先生」

「どうした? 口に合わなかったか?」

「い、いえ、とても美味しいです」


ザシド先生がきっかけでスタルジックとシュゼリアの争いが起こってはいけません。

お勉強を見ていただける時間を減らしていただければ、本来のお仕事の時間が取れるのではないかと考えて、ザシド先生の名前を呼びます。

ザシド先生はケーキを食べている手を止めるのですが、どうやら、私がケーキの味を気に入らなかったと思ったようです。

今日のケーキももちろん美味しいため、笑顔で答えるとザシド先生は小さく笑みを浮かべてくれました。


「ザシド先生、ケーキの話ではないんですけど、私の相手をしていて良いんでしょうか?」

「迷惑か?」

「いえ、そうではなくて、ザシド先生が私のお相手をしてくれるのは嬉しいんですけど、元々のお仕事の方があるのではないかと」


ケーキを食べ終えてから、紅茶を飲んで一息を付く。

ザシド先生には言わないといけないと思い、小さく深呼吸をして覚悟を決める。

迷惑かと聞かれて迷ってしまい、言葉がつまりそうにあるのですが何とか言葉を続ける。


「元々の仕事? 気にする必要はない。私の仕事は元々、メリル様の家庭教師をする事だ。シュゼリア王からも許可は貰っている。当然、アーガスト王からも。後は趣味の甘味屋めぐりをするためにスタルジックにきたんだが」

「……」

「どうかしたか?」


しかし、返ってきた言葉は予想とは斜め上の物であり、言葉を失ってしまいます。

どう反応して良いかわからない私の事を気にする事無く、ザシド先生は首を傾げています。


「……本当に私の家庭教師をするためだけにスタルジックにきたんですか? ザシド先生はシュゼリア王の右腕と言われている方ですよね?」

「そのように言われているようだが、私は元々、ただの教師だ。人手が不足して政を手伝う事にはなったが、今では充分に育った教え子達がいるのに私が出て行くわけにはいかないだろう。次代を作るのは若い者達だ。いつまでも年寄が表舞台にいるわけにはいかない」


ザシド先生のお噂を聞いていれば彼の言う事を信じられるわけがなく、たまに言う冗談だと思い聞き直してみます。

それなのにザシド先生はすでに引退をしたつもりになっているようです。


……このままで良いんでしょうか?

ザシド先生は多くの優秀な方達がいるから、すでに自分は必要ないと言っておられますがそうは思えないです。

実際、私のお勉強を見ていただいている時にもシュゼリアから派遣された方達がザシド先生の考えを聞きに来ています。

ザシド先生が街にケーキを買いに行った時も王城内が大騒ぎになっているんです。

絶対にザシド先生は重要な位置にいるはずですし、頼りにされているはずです。

シュゼリア王の右腕とまで言われるザシド先生がやる気になれば……兄様のお時間ができて私に会いに来てくれるかも知れません。


……何とか説得できる方法はないでしょうか?


兄様が王様になられてから私に会いに来てくれるかも知れない。

何をすれば良いんでしょうか?

ザシド先生を本来のお仕事に興味を持たせる方法……まったく、想像がつきません。

お話から何か情報を得られないかとも考えるのですが、私はザシド先生の私生活はケーキがお好きだと言う事しかわかりません。

でも、何もしないわけにはいかない……兄様とお話しするために。


「ザシド先生はどうやって、こんなに美味しいケーキを探してこられるんですか? スタルジックにくるのは初めてなんですよね?」

「スタルジックに来るのは初めてだな」

「それなのに2日続けて美味しいケーキを探してくるなんて凄いですよ。私にはできないです」

「以前に古い友人から聞いた事があるのだ。スタルジックの王都には良い料理人がいると」


ザシド先生が単純に本当にケーキを探してくるのに長けているのでしょうか?

でも、そんな事ができるようには思えません。

私の疑問にザシド先生は小さく口元を緩ませます。

ただ、その笑顔は少しだけ寂しそうに見えます。


「その古いご友人と言うのは先日、お話してくださったベルダー殿の事でしょうか?」

「そうだ。元々はこの国に住んでいたのだが、いろいろとあって生活が立ち行かなくなったらしく、シュゼリアに逃げていたと笑っていた」

「それは……父様の責任と言う事でしょうか?」


ザシド先生のご友人の名前に聞き覚えがあったため、ザシド先生のご友人の名前を挙げる。

その名前にザシド先生は小さく頷くとご友人はスタルジックから逃げてシュゼリアに渡ったと話してくれます。

いろいろの中に父様が強いていた悪政もあると言うのは直ぐに察しが付いてしまう。


「そうだな……王族や貴族は民に支えられて生きていると知らなすぎる。もう少し、その辺を学んでくれると助かるんだが、アーガスト王も少しはわかっているようだがまだまだだ」

「それはどうやって学べば良いんでしょうか?」

「ふむ。それなら……せっかくだ。行ってみますか?」

「行ってみる? あの、行ってみると言うのはどういう事でしょうか?」


王族としては民の生活を見る必要があると言われます。

それを行えば兄様のお仕事もうまく進むのではと思い、その方法を聞く。

ザシド先生は小さく口元を緩ませるとイスから立ち上がります。

何を言われているのがわからずに首を傾げてしまいます。


「街の様子を見てくるのだ。メリル=スタルジック様としてではなく、個人として街や民の様子をいろいろな物が見えてくる」

「個人として?」

「アーガスト王も昔から民の声に耳をかたむけてはいたのだろう。ただ、それは王子として王族として民の声を聞いていたのだ。王やそれに準じる者に本当の事を言うとは限らない」

「それが兄様をまだまだだと言われた理由でしょうか?」


ザシド先生は楽しそうに口元を緩ませていますが私にはよくわかりません。

首を傾げてしまうとザシド先生はまだ民の声に耳をかたむけられてはいないと言います。

確認するように聞くとザシド先生は小さく頷いてくれました。


「そんな事をしても良いんでしょうか?」

「優秀な護衛をできる人間がいれば何も問題はない……1人で歩き回るような事は止めてくれればな」


ザシド先生が1人で街を歩いただけで王城内でも騒ぎになっているんです。

兄様が街を歩けば王城でどんな騒ぎになるかがわかりません。

でも、兄様ならばザシド先生の言葉を聞けば、街に出て行ってしまうかも知れません。

兄様の安全を確保できる方法があればと思い、その件もザシド先生に尋ねてみるのですが、ザシド先生は何かあるのか額に手を当てています。


……何かあったんでしょうか?


ザシド先生の様子を見れば、何か問題があるのはわかります。

それが何かはわかりません。


「あの、ザシド先生?」

「……私の教え子に1人で王都を歩き回るのがいる。友人なんだ。せめて、ロゼット=パルフィムでも連れて歩いてくれれば良いのだ」

「それはレスト殿ですか?」

「確かにレスト=レクサスも1人で街中を歩いているが、あの者の場合はまた違っている」


ザシド先生の教え子で私が知っているのはレスト殿だけです。

そして、先日、お会いしたロゼット殿のお名前も聞こえましたのでその教え子がレスト殿ではないかと思ってしまいました。

しかし、私の予想は外れているようでザシド先生は首を横に振ります。


「違うんですか? そうですよね。レスト殿はそのような事はしませんよね」

「そうだな。その点に関して言えば、レスト=レクサスの方が常識はある。あれは1人と見せても警護の者を付けているからな」

「それなら、その方はどなたですか?」

「ふむ。別に言っても構わないか。レオンハルト=シュゼリア、私の教え子でもあるのだが、メリル様の婚約者だな。どうも、ふらふらとしていてな。もう少し落ち着いてくれれば、シュゼリア王も安心して王位を譲れるのだがな」


レスト殿ではないと聞き、どこか安心してしまったのですが、その後にザシド先生の口から聞いた名前は私の婚約者様でした。

レオンハルト様はずいぶんと自由奔放な方のようです。







……後、さすがに何度もザシド先生に王城を抜け出されるわけにはいかないと考えていた兵士達の妨害にあり、王城を抜け出す事はできませんでした。

ホッとしたような残念なような複雑な気持ちです。


次話はレオンハルト視点となります。

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