表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
4/37

四話

「……要約するとスタルジックの第3王女のメリル=スタルジック様とお前の婚約が決まりそうだ」


目の前には若いながらも、我がシュゼリア王国の外交の多くを担っており、私の古くからの友人である『レスト=レクサス』。

大問題を報告してきたのにも表情筋はまったく動きはしない。

いつも通り、淡々とした口調で表情を変える事無く、私、『レオンハルト=シュゼリア』に隣国であるスタルジック王国の王女と婚約が決まると告げている。


……意味がわからない。


だいたい、レストはシュゼリア王国の農業が不作だったため、スタルジックから食料の輸入に付いて働いて貰っていたはずだ。

それも私とレストの旧友のである『ルーディス=フェルミルア』が領主代行を務めるフェミルアが予想外に豊作だったため、最初は不利な状況で始めていた問題も対等以上に良い条件まで持って行く事ができたはずだ。


そのはずなのに……なぜ、私の婚約の話になる?


「……要約するとではない。ちょっと、話が唐突過ぎて整理できない。レストは小麦の件でスタルジックに行っていたはずだけど」


……こいつ、舌打ちをしたよ。

この間、10年ほど片思いしていたミルアちゃん……いや、実際は誰の目から見ても両思いだったわけだけど、そんな彼女に想いが伝わったにも関わらず、仕事、仕事でいちゃつく間も与えずに挙句の果てに何度もスタルジックに行かせたのは悪かったと思うけど、それは別問題だろう。

今はいろいろと問題があるんだ。

民の生活を守るために私達は働かなくてはいかない時だ。


嫌がらせにしても性質が悪い。


「……せめて、きちんと説明をしてくれないかい?」

「先日の小麦の輸入の件でずいぶん、シュゼリア王国に不利な条件で話を進めていたからな。気になってスタルジックを含めた周辺国の内情を調べていたんだが」


……周辺国の内情を調べていたって、表情が変わらないにしてもよくそんな事を平然と言うな。


要約すると今回、婚約の話が出ているスタルジックの財政は悪化の一途をたどっているらしい。

悪化の原因は状況を理解しない王族の散財であり、どうやら国庫からも使い込みをしたと言うのだ。

それを補てんするためにシュゼリアの不作を利用しようとして、周辺国と協議し、小麦の値段を釣り上げたと言うのだ。

だが、シュゼリアはフェミルアが豊作と言う事で条件が変わってしまった。

いくら予想していたより、大量の小麦を得る事ができたが輸入の話を持ち出したのはシュゼリアであり、自分達が問題なくなったとは言え、国同士の繋がりもあるため、すべての取引を取り消すわけにはいかない。

それでも輸入する小麦の量は大幅に減少したため、値段交渉や量の調整はこちらの言い分も言える状況ができた。


それを知った周辺国はすぐに小麦の値段を下げて、すり寄りも見せてきたのだ。

その中ではすり寄るためにスタルジック主導で小麦の値段の釣り上げを知ったとレストに話した者までいたと言う。


こちらから言わせて貰えばこれまでにも隣国としてスタルジックには多くの援助を施していたのだが、我が国の危機には手を差し伸べようとしない隣国と距離を置く事を考えるのは当然の事だ。

別に取引があるのはスタルジックだけではない。

周辺国もシュゼリアから多額の金を搾り取る事に賛同したわけだが、それを主導していた国の姫と婚約する理由はシュゼリアにはない。

スタルジックはその中でも1番悪い条件を出していた国であり、真っ先に輸入の件はなしにするべき国だった。

もちろん、条件はこちらに好転したのだ。スタルジックは上から条件を突きつけられるわけがない。


シュゼリア王国との取引で潤うはずの国庫は潤う事はなくなってしまったのだ。

それでもどうにかして資金を集めなければいけない。


何より、隣国にケンカを売ったのだから下手をすれば戦争が起きたとしてもおかしくない。

ただ、シュゼリアもスタルジックも戦争を起こすほど愚かではない。


そのため、友好の証として私の婚約者に王女を送りたいと言ってきたようだ。


状況的には理解ができないわけでもないのだが、レストが調べたところでは王族の浪費はすでに国中に知れ渡っており、悪政を強いている事と重なって各地でかなりの数の領民達の蜂起が始まっていると言うのだ。

そこで考え付いたのが建前は王位継承者でありながら、伴侶を見つける事無く、ふらふらとしている私に王女を嫁がせる事だと言う。

豊かなシュゼリアとのつながりを持つ事や王族同士の婚約が決まれば多くの者達がお金を使う。

援助を得る事で、現状の悪政を緩和させて政治を好転させようと考えていると言うのだ。


そんなバカな話があるのかと他国の事でも頭が痛くなってくるのだが、そんな国から王女を迎え入れる理由がない。

それも送ってくるのは第3王女だと言うのだ。


私自身、伴侶は政治的な物で自分の気持ちなど反映されるとは思ってもいなかったが、これでは私だけではなく、この国がバカにされているとしか思えない。


「……この件について父上はなんと言っているんだ?」

「決まりそうだと言っただろ」


シュゼリアがバカにされているとしか、考えられないためか眉間に深いしわが寄ってしまうがレストを怒鳴りつけるわけにも行かない。

王子と王女の婚約となれば国王の考えも当然、入ってくる。

父上の考えを教えて欲しいと言ってみるがレストは表情を変える事はない。


「だとしてもな……なぜ、第3王女なんだ? それもいきなりすぎるだろう?」


小麦の輸入量を減らすと決めてからレスト達外交を担っている者達がスタルジックの者達と何度も接触していたのは知っている。

それはあくまでも小麦の件を調整していたはずだ。

それなのにレストとの会話から推測するに当の本人である私を差し置いて、この話はずいぶんと煮詰まっているように聞こえるのだ。

私の普段の態度から父上が何かをレストに吹き込んでいた可能性もある。

表情からは何も読み取れなくても、少しでも情報を得る必要がある。


「最初は第1王女と第2王女、好きな方を選べと条件に出してきたが、私が第3王女に変更した。その件は国王に報告済みで許可もいただいている」

「……意味がわからないぞ」

「簡単な事だ。浪費癖のある王女をこの国に迎え入れるつもりはない。婚約をするにあたり、浪費癖のある王族の政からの排除、王位も現国王から嫡男である第1王子に譲って貰うようにと条件を付けた。その他にもいくつか条件を出している」


情報を得ようとしたわりには予想外の回答が戻ってきた事に呆気にとられる。

目の前にいるこの男が国王の父上や当人の私を差し置いて、私の婚約者を決めてきたと言うのだ。

ただ、このレストの情報収集能力は我が国ではかなう者はいない。

その男が第1王女と第2王女を不適切と判断したのだ……それ以外にも多くの王族が王族として不適切と判断されて排除されたみたいだけど。


私も古くからの友人として彼の能力は高く買っている。

しかし、国を傾かせるくらいの王族と繋がりを持つのはシュゼリアにとって良い事なんだろうか?


「……安心しろ」

「いや、レストの顔で安心しろと言われても不安しかないから、それに……そこまで国を傾けた者がいるんだ。スタルジックを援助する意味が見えないね。排除された者が不満を持って、蜂起する可能性だって高い」

「問題ない。手は打ってきてある」

「そ、そうか……」


国を傾かせるくらいの不良債権が親族になれば、シュゼリアを食いつぶされてしまう可能性だってある。

援助するよりは見捨ててしまった方が良いのではないかとも思うが、国がつぶれてしまえば流民などの問題が出てくる。

それを考えての処置だと言う事は理解できるのだが、どこか納得がいかない。

ただ、表情がまったくないレストに言われてしまうと重圧がありすぎて頷く事しかできない。

きっと、これを狙って父上はレストにこの件を伝えに来させたのだろう。


納得はできないが、元々、結婚などと言う物に幻想を持っていたわけでもない。

どうせ、王女様も私と同じだろうと割り切ろう。


「そう言えば、レスト、その王女様は可愛いのかい? それとも美人系?」

「……それは個人の趣味趣向だから、私に言われても判断に困る」

「ミルアちゃんと比べたら?」

「……ミルア以上に愛らしい娘がいると思うのか?」

「わ、悪かった。確かにミルアちゃんは可愛いよ」


取りあえずは容姿だけでも好みだったら良いなと考えてレストに印象を聞いてみたのだけど、言葉は濁されてしまう。

レストは昔から、ミルアちゃんの事しか見ていなかったから仕方ないかと思いながら、ミルアちゃんを引き合いに出してみると凄い目つきで睨まれてしまった。

普段は表情がないくせに、こう言う時に表情を変える事は卑怯だと思うんだけど、余計な事を言うのは止めておこう。

しかし、こういう事は私に言わずにミルアちゃん本人に言ってあげれば良いのに……まあ、言えていたら10年も片思いなどしていなかったか。

睨まれているはずなのにレストの様子に小さく口元が緩んでしまう。


「……私の報告はこれで終わりだ。詳しい報告書は後日、提出する」

「そうかい……あのさ。容姿は個人の感覚にもよるけど、他の情報はないのかい? 年齢とか」

「年齢は16だ。しばらくはシュゼリア王立学園の方に留学生と言う形になる。婚約発表までにいろいろとやらなければいけない事があると思うが……間違いは起こさないようにな」


私が表情を緩めた事が面白くないのかレストは話を強制終了させようとするのだけど、私的にはまだ話は終わっていない。

婚約者の年齢くらいは知りたいと思うと想像していたより、年下で戸惑ってしまう。

勝手に同じ年くらいだろうと思っていたのだけど、まさか、ここまで離れているとは思わなかった……とりあえず、会ってみない事には始まらないかな?


次もレオンハルト視点です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ