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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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三五話

「……」

「メリル様なら、そう言われるでしょうね」


姉様は眉間に深いしわを寄せられていました。私が間違った事を言ったのかと思い、ディアナさんへと視線を移します。

彼女にとっては私の回答が予想通りだったようで苦笑いを浮かべています。その表情からは正解なのかがわかりません。


「それでしたら、メリル様はご自身に贈り物をするとした時に何を贈られますか?」

「……ディアナ、意味がわかりません」


自分に贈り物をするとしたら?

姉様は呆れた様子ですがディアナさんの言葉には意味があると思うので考えてみます。

自分への贈り物? すぐに思いつくのはレオンハルト様からいただいた恋愛小説やケーキのようなお菓子でしょうか?

考えてみると自分にはあまり興味がある物がないような気がしてしまい、落ち込んでしまいそうになります。それに……


「自分に贈り物すると考えると小説やお菓子しか思い浮かびません。でも、私の好きな物をレオンハルト様が好きとは限りません」


レオンハルト様はダンスの練習相手をしてくださった時にケーキを召し上がってはおられましたが、甘党と言うわけではなさそうでした。

それに恋愛小説はお読みになられないとおっしゃられていました。

私が贈られて嬉しいと思う物でレオンハルト様が喜ばれるとは思えません。


「確かにその通りです。ですが、レオンハルト様はメリル様とお会いする前にメリル様のお喜びになる物を探し当てる事ができましたよ」

「そうですね。不思議です」


不思議です。なぜ、レオンハルト様は私の喜ぶものを知る事ができたのでしょうか?

考えてみるのですが想像がつきません。レオンハルト様は私よりも年上ですから、それだけの経験をしてきたと言う事なのでしょうか?

レオンハルト様が女性に贈り物をしている姿を思い浮かべて小さく胸が痛んだ気がします。


「……レオンハルト様はメリルが喜ぶものを贈ってはいないでしょう。たまたま、レオンハルト様が贈って来た恋愛小説をメリルが気に入っただけでしょう。ディアナ、あなたは何を言っているんですか?」


その時、姉様は呆れたようにため息を吐かれました。

そして、姉様の言う通り、私は恋愛小説を読んでなどいない事に気が付きました。元々は先生の出してくれたお勉強が辛かった時に先生から渡された物でした。

それなのにどうして私は喜んだのでしょうか? レオンハルト様が選んでくれた物だから?

……でも、その時はお会いした事もありませんでした。レスト殿もザシド先生もレオンハルト様がどのような方かもお話してくださいませんでした。

私もレオンハルト様の事はお芝居の相手としか思っていませんでした。


「なぜ、レオンハルト様は恋愛小説を選んだのでしょうか?」


恋愛小説が良いと考えたのはレオンハルト様だったはずです。

どの恋愛小説にするかはご友人に相談したと言われていましたが恋愛小説を私に贈ろうと決めたのは間違いなくレオンハルト様です。

レオンハルト様が恋愛小説を選んだ理由がわからないせいか、ため息が漏れてしまいました。


「レオンハルト様はメリルの事をレスト殿から聞いていたのではないですか? レスト殿はあの顔のせいか表情はまったく読めないのですけど、優秀なのでしょう?」

「お話を聞く限りは大変優秀のようです。ただ、レスト様はレオンハルト様がメリル様とお会いしないように画策していたようですので何か考えがあると思います」

「信用できるのでしょうね?」


ディアナさんはレスト殿が何かを考えて動いていると言われます。

日の目が当たる事無く、生きていた私を見つけてくれた方。

姉様はレスト殿とあまりお話をされていないようでどこか疑っているように見えます。

でも、表情はあまりありませんが、レスト殿はお優しい方です。何か悪い事を考えているようには思えません。


「レスト殿は信頼できる方だと思います」

「理由はあるのですか?」

「……ありませんけど」

「正直、ミルアさんには申し訳ないのですけど、私は信用ができるとは思えませんね」


レスト殿は信頼に足る方だと主張してみるのですが、姉様に睨まれてしまいます。

どうやら、姉様は婚約話がお芝居だと私に勘違いさせた経緯を見て、レスト殿が悪意を持っているのだと思っているようです。


「それでしたら、レスト殿にお話を聞いてみると言うのはどうでしょうか?」


レスト殿の事を姉様にわかっていただきたいのですが、良い言葉が思いつかずに頭を抱えていた時、ディアナさんから驚きの言葉が出ました。


……レスト殿とお話ですか?


レスト殿とお話と聞き、身体が震えました。

お優しい方だとは知っていますが、表情がないのが少し苦手です……レスト殿はレオンハルト様とご友人なのにどうしてあれほど表情に差があるのでしょうか?


「……メリル、何を考えているのですか?」

「な、何でもありません!?」


無表情なレスト殿と表情豊かなレオンハルト様のお顔を比較してしまいました。

思い浮かべたレオンハルト様の表情で頬が緩んでしまったようです。姉様に名前を呼ばれて慌てて姿勢を正します。

私の様子に姉様は呆れ顔をされており、少し恥ずかしくなりました。


「どうでしょうか? レスト様でしたら、レオンハルト様とご友人ですし、レオンハルト様のお喜びになるものがわかるのではないでしょうか?」

「それは確かにそうですね。でも、ディアナ、それなら、先ほどまでの話は何だったのですか? ……いえ、細かい事は後にしましょう。今の問題はメリルがレオンハルト様に何を贈るかです」


確かにレスト殿でしたら、レオンハルト様が喜ばれる物がわかるかも知れません。

ただ、先ほどまでの話で言えば、ディアナさんは私に贈り物が何たるかを教えてくれていたはずです。

突然の方向転換に姉様も私と同じ事を考えたようですがディアナさんは小さく口元を緩ませており、深く追求するのは止めておいた方が良い気がします。


「ですけど、レスト殿はお忙しいのではないでしょうか? それにレオンハルト様も一緒に来られてしまっては」


レスト殿とお会いするのは難しい気がします。

それもレオンハルト殿の目を盗む必要があるのですから、そうつぶやく私にディアナさんはにっこりと笑い、「問題ありません」と言ってくれます。

絶対の自信があるように見え、お願いしますと返事をしてしまいました。


「それではいくつか準備をしなければいけない事もありますので」

「……あまり、おかしな事をしないようにね」

「カタリナ様、私の身を案じてくれているのですか?」

「……あなたがレスト殿におかしな事をして外交問題になる事を心配しているのです」


レスト殿と約束を結ぶために準備が必要のようですが、なぜでしょう。ディアナさんに任せてしまうのは危険な気がします。

そう思っているのは私だけではなかったようで姉様はディアナさんを睨み付けました。

ただ、ディアナさんは私と姉様の心配など気にする様子もないようで楽しそうに口元を緩ませるとお部屋を出て行ってしまわれました。


「……不安ね」

「き、きっと大丈夫ですよ」

「そう思うのなら、レスト殿のお話はメリル1人で臨みなさい」


彼女のお部屋を出て行く前の表情に不安しか感じられないのですが何とか笑顔を作ります。

そんな私を見て、姉様はため息を吐いた後、私に死刑宣告をされました。


……無理です。1人ではきっと間が持ちません。

同席して欲しくてすがるように姉様の顔へと視線を向けると姉様は眉間に深いしわを寄せられますが「仕方ないわね」と了承してくださいました。

本当に良かったです……後、ディアナさん、できればミルアさんを一緒が良いです。

レスト殿の婚約者であるミルアさんが一緒なら、レスト殿の表情も多少は緩むのではないかと言う希望を持って、お部屋を出て行ったディアナさんに届と姉様と一緒に祈りました。


伝わってくれたら嬉しいのですが、ただ、ディアナさんなら伝わった上でミルアさんを同席させないと言う選択をしそうな気がして少し怖いです。


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