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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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二八話

……イヤになるね。


レストに事情を説明してミルアちゃんと先生と一緒に城下に行って欲しいと頼んだんだけど何か裏があると疑われた。

それでも必要だと思っているため、何とか説得をしたわけだけど酷く疲れてしまった。

自分の部屋に戻ろうかとも考えていたのだけど、城下から直接、レストの部屋に行ったためか手にはメリル王女に渡すはずだった恋愛小説がある。

ミルアちゃんとディアナにメリル王女に渡して置いて欲しいと頼んだんだけど、直接、渡せと言われてしまったと言う過程があったりもする。


状況を話しておいた方が良いかな?


自分が下位に見られた事で腹を立てる王族は少なからずいる。

メリル王女はそのような感じではないけど、さっき、初めて会ったばかりだしね。

私の持った第1印象が誤っている可能性もある。

念のため、再確認しようと彼女の部屋へと行き先を変えようと歩き始めた時、目的の女性を中庭で見つけた。

彼女は中庭に植えられている花々を眺めている。

時折、花を触ろうと手を伸ばすのだけど、何かあるのか触れる前に手を戻してしまう。

その時の表情はどこか自信なさげに見える。


「メリル王女、何をしているんですか?」

「は、はい!? ち、違うんです!? お勉強がイヤになったわけではありません!?」


そんな彼女の様子になんとなくイタズラがしたくなり、気配を消して彼女の背後に回り込む。

彼女の様子から推測するとこのように気配など消さなくても気づかれる事はないとも思うけど、その辺はなんとなくだ。

案の定、彼女は私近づいている事に気づきそうもない。

背後に回り込んで彼女に声をかける。

驚いた彼女は小さく飛びはねた後、私の顔を見る事無く、必死に弁明を始める。

どうやら、勉強がイヤで逃げ出してきたようだ。


その必死な様子に笑みがこぼれてしまうのだけど、彼女は声をかけたのが私だとはまだ気が付いていないようだ。

もう少し慌てている様子を眺めていたい気もするけど、このままでは話にならない。


「メリル王女、私はそのような事で責めるつもりはないです。もちろん、ザシド先生もでしょう」

「へ? レ、レオンハルト様!?」

「どうやら、驚かせてしまったようだね」


落ち着かせるために声をかけて見るとメリル王女は私の顔を見て、1度、固まった後に再び、あたふたと慌て始めてしまう。

その様子に笑みがこぼれてしまうのだけど、メリル王女は気まずいのか視線を伏せてしまった。


「申し訳ありません」

「謝る必要はありませんよ」


彼女は驚いてしまった事で私の気分を害してしまったのではないかと考えているようだ。

別にこの程度の事で怒るほど器が小さいわけではない。何より、この反応を期待して声をかけたのだからね。


「あ、あの。レオンハルト様は中庭で何を?」

「私はメリル王女のお部屋に行く途中だったのですが、中庭で不審な動きをしている影が見えたので何事かと」

「ふ、不審で申し訳ありません!?」

「そうですか……」


怒っていないと返事が有った事に彼女は安心したのか胸をなで下ろすと遠慮がちに尋ねてくる。

メリル王女の動きが不審に見えたと言ってみると即座に否定する声があるのだけど、どうやら、自覚はあったらしい。

彼女が花に触れようとしながらも手を伸ばしきれなかった姿を思い出して彼女の側にある花へと手を伸ばす。


「あ、あの」

「手を伸ばしてみてはどうですか? 花々は視覚で人を楽しませてもくれますがその香りや感触でも人を楽しませてくれますよ」


メリル王女は私が花へ触れる姿を見てどうして良いのかわからないようだ。

なぜ、ここまで気にするのかわからないが、興味があるのだから触ってみてはどうかと勧める。

彼女は少し迷っているようだが、先ほどは自分で触ろうとしていたのだ。

誰かが背中を押せば手を伸ばすだろう。

メリル王女は少し悩んだ後に花に触れると目を輝かせる。


……このような事に目を輝かせると言う事はあまり良い扱いをされていなかったと言う事か?


王城に勤める使用人達もメリル王女に何が有ったかは話したがらなかった。

アーガスト王が王位を継いでからまともな扱いを受けるようになったと言うのは容易に想像がつく。

王族にも関わらずに表舞台に名前が出てこなかった事も納得する事ができる。


アーガスト王が自分の父親を追い落とした理由もわかるね。

確かに王族となれば自分の好きなように国を動かす事もできるだろう。

身内でも気に入らない者を排除や迫害するような者も確かにいる。

ただ、そのような事をする者を王にしていると間違いなく国は傾く。

王は時として身内をも切り捨てなければいけない時も確かにあるが平時にそれを行うような者が領民を守る事などできるわけもない。

スタルジックが傾いたのは当然の事とも言えるね。アーガスト王が判断を間違えなくて本当に良かったよ。


「あ、あの。レオンハルト様? どうかされたんでしょうか?」

「申し訳ありません。少し考え事をしていました。不快にさせてしまいましたか?」

「そ、そんな事はありません」


表情が険しくなっていたようで、メリル王女は心配そうな表情で私の顔を覗き込んでいる。

自信がなく、挙動不審な行動も見えるがこのような距離に入ってこられる事は無自覚なのか知識がないのか悩むところだ。

ある程度、知識があるのなら婚約者と言う立場もあるので味見(キス)の1つくらいもできるのだけど、絶対に後者なのでなんとなく気が引ける。


もう少し勉強して欲しいところだね……恋愛小説これで勉強になるかはわからないけど。


シュゼリアに向かい入れれば必然的にやる事はやらないといけない。

ただ、私が贈った恋愛小説に目を輝かせていた姿を思い出すと先は長そうではある。

手にしていた数冊の恋愛小説を見てため息が漏れる。

私の様子にメリル王女は何かあったのかと考えているのか不安そうだ。


……急いで怖がらせるわけにも行かないね。


心配ないと思わせるために笑顔を作るとメリル王女はホッとしたのか胸をなで下ろす。

良い子である事はわかる。


「あの、レオンハルト様、先ほど、私のお部屋に行こうとしていたとおっしゃっていましたが」

「そうでした。申し訳ありません。少しやる事ができたため、明日のダンスの練習相手にはなれなくなりました」

「そうなんですか?」


メリル王女は何か話をしなければいけないと思ったようだけど、まだ、他人との会話をどう切り出して良いのかわからないようで自信がなさそうだ。

警戒を解かせるために笑顔を作るのだけど、練習相手になれないと聞き、表情を曇らせてしまった。


これは落ち込んでいるのかな?


彼女の様子に戸惑ってしまう。そこまでの事だっただろうか?

……いや、違うね。彼女の行動から推測するに私を怒らせてしまったのではと考えているのだろう。


「あ、あの」

「勘違いしないでください。ミルアちゃんと先生のために時間を作ろうと考えて仕事を手伝おうと思っただけです」

「ミルアさんとザシド先生のためですか? 私がレオンハルト様を怒らせたわけではないのですね」

「そうですね。詳しく話しますよ」


不安そうな彼女の表情に心配ないと笑い、練習に付き合えなくなった理由を話す。

その言葉にメリル王女は胸をなで下ろすのだけど、状況が理解できないようで首を捻っている。

表情がころころ変わる彼女の姿に頬が緩んでしまうが何とか表情を元に戻すと中庭にあるイスへメリル王女を誘う。

彼女は大きく頷くと警戒する事無く、私の後を付いて歩く。


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