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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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二四話

「……どうしてでしょうか?」

「不思議です」


ディアナさんがレオンハルト様をお部屋に連れてきてくれた後、レオンハルト様は私の状況を理解してくれていたようですぐにダンスの男性役を買って出てくださいました。

姉様が練習相手の時よりも、上手に踊れたような気がしました。

私とレオンハルト様の様子を見ていた姉様も同じように感じたようで難しい表情をされています。

その表情から姉様は相手が代わっただけで私が上手に踊れた事が少し悔しいと考えているんだと思います。

ディアナさんは姉様の様子を見てくすくすと笑っていたのですが姉様に睨まれてわざとらしく視線をそらしてしまいました。


「……レオンハルト様、何をしたんですか?」

「ミルア=レンディル嬢、どうして、私の事を疑うんですか?」

「……その笑顔が胡散臭いです」


ミルアさんは私と姉様の練習風景を見ていたためか、レオンハルト様が何かを特別な事をされたと思ったようです。

それは私と姉様も同じでレオンハルト様へと視線を向けます。

レオンハルト様は特別な事など何もしていないと言いたいようで柔らかい表情で笑っておられます。

ただ、ミルアさんはレオンハルト様の表情を信じられないと肩を落としてしまわれます。


……あの、ミルアさん、レオンハルト様は王族なんですよね。そんな言い方をされて良いんですか?


「どこか、胡散臭いのですか? ミルア=レンディル嬢」

「その呼び方ですよ」


レオンハルト様はミルアさんの反応が面白いのでしょうか楽しそうに口元を緩ませています。

ミルアさんは大きく肩を落としています。

その様子から、お2人が大変親しいのがわかるのですが……やっぱり、よろしいのでしょうか?


「あ、あの。ミルアさん、そのような事をしていても」

「そのような事?」


ミルアさんが処罰をされてしまうのではないかと思いました。

彼女が処罰されてしまっては困ると思って手を上げて見たのですが、ミルアさんは意味がわからないと言いたいのか首を傾げています。


「メリル王女、気にしなくてもいいよ。ミルアちゃんを始めとしたレクサス家の使用人は全員こんな感じだからね」

「こんな感じ?」

「レオンハルト様、ずいぶんと軽い話し方になられましたね」


レオンハルト様はため息を吐いた後、楽しそうに笑いました。

意味がわからずに首を傾げる私とは違い、姉様は何か思うところがあったようで険しい表情をしています。


「あくまでも、私がスタルジックに滞在しているのは非公式ですからね。それに堅苦しいのは苦手なもので」

「……レオンハルト様は非公式かも知れませんが、ここはスタルジックの王城ですよ。もう少し、立場を考えられてはいかがでしょうか?」


姉様の言葉にレオンハルト様は困ったように笑われます。

その表情には嘘はなさそうなのですが姉様は納得ができないようでその表情は険しいままです。

でも……私はこのままの方が良いです。


姉様はきっとレオンハルト様がスタルジックに滞在している期間でダンスと同時に礼儀作法も同時に私に教えたいのだと思います。

ただ……私は多くの事を同時に覚えられる自信はありません。

始めは先生達も褒めてくださっていたのですが姉様に怒られるたびに自信は粉々に砕かれてしまいます。

できればこのままの方が良いのですが、姉様が不機嫌そうなので言い出す事ができません。

その時、レオンハルト様と視線が合います。

彼は私の顔を見て、くすりと笑いました。

その笑みになぜか釣られるように頬が緩んでしまいます。

ただ、姉様がレオンハルト様とお話をされているため、笑っているのを見られてしまうと不謹慎だと言われて怒られてしまうかも知れません。

そのため、すぐに表情を引き締めます。

私の表情を変化にレオンハルト様は小さくため息を吐かれました。

レオンハルト様の様子に私は気分を害されてしまわれたのではないかと不安になってしまいます。


「確かにそうかも知れないですね。ただ、メリル王女は緊張されているようですし、緊張されていてはいらない失敗をしてしまう可能性もあります。失敗が頭に残っていると失敗したところで身体が強張っても練習になりませんし、見たところ、失敗すると落ち込むように見えますので」

「それは……確かにそうかも知れませんね」


私が不安になっている姿を見て、レオンハルト様は小さく口元を緩ませた後、私が何を考えているかを察してくれたようです。

レオンハルト様の言葉に姉様、ミルアさん、ディアナさんの視線が私に向けられました。

どうしたのでしょうと思った時に姉様に大きなため息を吐かれてしまいました。

なんとなく自分でも思うところがあるのですが……顔を見られてため息を吐かれては傷つきます。

少し反論をしたいのですが、下手な事を言うと姉様を怒らせてしまうかも知れません。

お芝居の婚約話とは言え、レオンハルト様が私を気づかってくれているのです。

その思いを無下にする事はできません……何かを言って、姉様に冷たい視線を向けられるのが怖いわけでは絶対にありません。

それにレオンハルト様なら姉様に負けないのではないかと言う期待があったりもします。


「あまり強く言われると自分の考えを言えなくなってしまう者もいますから、メリル王女がそのようになられてはカタリナ王女も困るでしょう?」

「それは確かにそうなんですが……」


期待しているとレオンハルト様は私を見てくすりと笑いました。

それはすべてを理解していると言いたげに見えます。

レオンハルト様がどうするつもりかと観察していると姉様を言い負かせに移られました。

姉様はレオンハルト様の言葉に納得してしまいそうです。

ただ、レオンハルト様を応援したいのですが、なぜか、少しだけバカにされているような気がします。


「……メリル様、その考え、間違っていませんよ。間違いありません」

「ど、どうしたんですか?」


その時、ミルアさんに肩を軽く叩かれました。

彼女の顔へと視線を向けるとミルアさんは優しい笑みを浮かべているのですが……なぜか、胸の奥がもやもやとします。


「……わかりましたわ」

「納得していただけて良かったです」

「納得したんじゃなくて、無理やり、納得させたんですよね」


私の胸がもやもやとしている間に姉様はレオンハルト様に説得されてしまったようです。

ただ、納得はできていないようで眉間にしわを寄せています。

姉様を言い負かせた事に楽しそうにレオンハルト様は笑っているのですが、ミルアさんも私を同じ事を思ったようで大きく肩を落としています。


「……それでは緊張を解く事から始めるとおっしゃっていましたが、レオンハルト様はいったい何をするつもりなんですか?」


言い負かされた事が悔しいようで姉様はレオンハルト様を挑発するように口元を緩ませました。

その姿にディアナさんは何かあるのか笑いを我慢しています。


「……ディアナさん、どうされたんですか?」

「何でもありませんよ。メリル様は気にしなくてよろしいです。本当にまったく気にしなくて良いですから」

「それなら、どうして必死に笑いをこらえているんですか?」


彼女の様子に何かあったのかを思い、質問をしてみます。

ディアナさんは首を横に振られるのですがその表情は笑う事を耐えているようにしか見えません。


「何を? 緊張を解くのに何か特別な事を身構えてする必要がありますか?」

「……何も考えていないのですか?」

「はい。何をしましょうか? メリル王女、何か聞きたい事でもありますか?」

「は、はい?」


ディアナさんの様子に首を傾げていた時、レオンハルト様に名前を呼ばれました。

いきなり、名前を呼ばれて意味がわからずに声を上げてしまいます。

レオンハルト様は私の顔を見てくすくすと笑っており、彼の表情にどうして良いのかわからずに目を泳がせてしまいました。


……緊張しなくて良いと言われているようですが凄く緊張してしまうんですけど、どうしたら良いんでしょうか?


助けを求めようとして周囲を見回し、ミルアさんは私の顔を見てくれません。

そして、ディアナさんは笑いをこらえるのに必死です。

……どうやら、ディアナさんが笑っていたのは姉様ではなく、これから私に起きる事を察して笑っていたようです。


「ご、ご趣味は?」

「……メリル、それはどうなんですか?」


どうして良いのかわからずに慌ててしまいました。

口から出てきた言葉に恥ずかしくなって顔を伏せてしまいます。

姉様も私の質問を残念だと思ったようで大きく肩を落としました。


「散歩ですかね」

「……レオンハルト様の散歩は笑えませんから、止めてください」

「何を言っているんだい? 散歩をして多くの物を見て、多くの事を聞くのは勉強になるからね。ほら、思い切ってスタルジックまで来てみたらいろいろな事がわかったじゃないか」


私の口から出てしまった言葉にレオンハルト様は当たり前のように答えてくれました。

ただ、ミルアさんの様子から、あまり歓迎はされていないようです。

そして、散歩と言うには明らかに規模が違う気がしました。


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