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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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二二話

「レオンハルト=シュゼリア様ですね」

「そうだけど……君がディアナかな?」

「はい」


大人しくしていた事もあり、レストの部下の警戒も緩んできたように感じる。

そろそろ、メリル王女との接触をと考えていた時、王城のメイドさんに声をかけられた。

彼女のメイド服は厨房などに出入りしている者達とわずかに違う。

王族の世話をする者達の中には少しばかりだけど権限が与えられている者達もいる。

シュゼリアにも数名いるため、それが王族付きのメイドだと理解できた。


目の前に立つ彼女の姿に名前を尋ねる。

初めて会ったわりにはそれは確信めいた自信があり、彼女は名前を呼ばれた事に一瞬、驚いたような表情を見せるがすぐに表情を戻して頷いた。


……どうやら、当たっていたようだね。


推測だった事もあり、正解を出せた事に安心するけどそんな様子を表情に出すわけにはいかない。

彼女はカタリナ王女のお付きのメイドなわけだし、何かを仕掛けてくる事は充分に考えられる。


笑みを浮かべて返すけど警戒は必要かな?

念のため、警戒はするが表情には出す事はない。


「先日はミルアちゃんが迷惑をかけたみたいだね。あの子はどうやら自分の立場を理解していないようで困る」

「いえ、ミルアさんのおかげでカタリナ様が素直になってくれ……まだまだ素直にはなり切れていませんね」


相手の様子をうかがうためにミルアちゃんの名前を出してみる。

ディアナは彼女のおかげでカタリナ王女が良い方向に進んでいると言いかけるのだけどまだ先が思いやられると言いたいのか眉間にしわを寄せてしまう。

その様子からはカタリナ王女を本当に心配しているような物が含まれている。


もう少し、ミルアちゃんの人を見る目を信用しても良かったかな?

謝罪の意味も込めて、後でキャンディでも上げておこう。

また、何か企んでいるんですか? と疑われてしまうかも知れないけど。


なんとなくではあるけどディアナがそこまで警戒するべき人間ではない事がわかり、心の中でミルアちゃんに謝る。


「それで、何か用かな? 私もいろいろと忙しいんだけど、キャンディを買いに城下まで行かないといけないし」

「……歩き回るのは城内までにしてください」

「さすがに冗談だから」


彼女が私と同種の人間であると推測しているためか、どちらがより上か判断しておく必要性がある。

人が2人集まればどちらがSか、Mかを決めなければいけない。

私としてはSの立ち位置を譲るわけにはいかないのだ。

そのため、口元を緩ませながら主導権を取ろうと先制攻撃をしてみるのだけど、常識的に返されてしまった。


くすりと笑ってみせると彼女は小さく口元を緩ませている……どうやら、簡単には決着がつかない相手のようだ。


「それで、何か用かな? ある程度は自由に動き回っても良い許可はアーガスト王からいただいているけどね。王族に関係する者との接触はあまり良い顔をされないからね」

「あまり良い顔をされないですか? ですが、レオンハルト様の本心はどうでしょうか?」


スタルジックでの行動は制限されている事を伝える。

彼女が考えている事があまり良い事ではない事も考えられるため、その時に最良を選択するためだ。

ディアナはそんな私の言葉をあざ笑うかのように口元を小さく緩ませた。

どうやら、今度は彼女の攻撃らしい。


気が抜けない状態に口元が緩んでしまう。

それは彼女も同様のようで楽しそうに笑っている。


「隠しても仕方なさそうだね。今は様子見かな? わざわざ、スタルジックまで来たのに婚約者殿のお顔を見ないわけにはいかないだろう」

「レスト殿に止められているようですが」

「止められているね……」


まだ、シュゼリアに戻るまでには時間がある。

スタルジックにいる間に行動に移そうとは思うけどね……ただ、レストの動きが気になるんだよね。

元々、スタルジックには仕事できたのはわかるけど、あまり私に干渉してこない。

それどころか、自由にさせ過ぎだと思うんだ。

どこかであいつの手のひらの上で踊らされている気がしてならない。


……しまった。今の敵はレストではない。

油断をすれば不利に向かってしまう。


「どうかなさいましたか?」

「何でもないよ。それで、ディアナは私をたきつけようとでもしているのかな?」


何事もなかったかのように笑顔を見せて言う。

彼女が自分の意志かカタリナ王女の指示で私に接触してきたかはわからないけど、メリル王女の事を話してきたのだ。

何かをするのに私が動くのを待っていると考えるのが普通だろう。


「たきつけようと言うのは誤解を招きますね。私は提案をしに来たのですけど」

「提案?」


彼女は何も企んでいないと言いたいのか小さく肩を落とすがその仕草はわざとらしくしか見えない。

ただ、提案と言う物には興味がそそる。


「はい。レオンハルト様、シュゼリアにも損はないはずです」

「損はないね。条件次第かな?」

「そうおっしゃってくれると思っていました」


ディアナは提案に私がのってくると確信があるのか口元を緩ませる。

相当な自信があるようだ。

それだけ、自信がある提案だ。

話を聞く価値はあると判断すると彼女は笑顔を見せる。


「……メリル王女のダンスの練習相手?」

「はい」


彼女の提案は私がスタルジックにいる間だけで良いから、メリル王女のダンスの練習相手になって欲しいと言う物だった。

それもディアナが言うには運動神経と言う物には期待できないようで、指導をしているカタリナ王女が頭を抱えているそうだ。

女性同士の指導では何かと不便のようだが正式発表はまだとは言え、シュゼリアに嫁ぐ王女をあまり男性に近づけるわけにも行かない。

カタリナ王女が頭を抱えている様子に助けになりたくて私に声をかけたと言う話だ。


私はメリル王女に近づかないように言われていたりするわけなんだけど……ディアナはそれを知らないのだろうか? それとも知っていて提案しているか判断に困るね。


彼女の表情から本心や彼女に出ている指示を読み取ろうとするけど、彼女も表情からは考えが読み取りにくい厄介な部類の人間だろう。

柔和な笑みを浮かべながらも視線をそらす事はない。


「知っているかい? 私はメリル王女に近づかないように警戒されているんだよ」

「そうなんですか? でも、私はレオンハルト様をメリル様に会わせないようにと言う指示は受けておりませんので、それに私はただのメイド、隣国の次期国王であるレオンハルト様に命令をされれば逆らう事などできませんから」


ディアナが私の状況を知った上で提案をしてきているか確認するためにため息を吐いて見せる。

彼女はそのような指示など知らないと大袈裟に驚いて見せた。

その様子と言葉からスタルジックの使用人達には本当に私をメリル王女に会わせないようにと言う指示は出ていないようだ。

そして、彼女は私が行動を制限されている事をどこからかつかんでいたと言う事か?


厄介な人間もいた物だとため息が漏れそうになるけど、何とか我慢をする。

それに私の状況について口を滑らせたのは間違いなくミルアちゃんだろうからね。


本当にもう少し危機感と言う物を持って欲しいものだね。

ただ、そのおかげでこちらも動きやすくなった。

この状況を作り出したミルアちゃんに感謝だね。

キャンディ以外にも何か考えておこう。

ただ、スタルジックでは買い物もできないだろうから、シュゼリアに戻ってからだね。


「そうだね。確かに私の命令だと断れないだろうね」

「はい。断れませんね。レオンハルト様が主君に悪意を持っているとなると別ですが」

「悪意はないよ。アーガスト王も信頼するのに充分な方だしね。ただ、適材適所の人間を選ぶのは苦手なようだ」


立場を考えれば、ディアナは私の命令に逆らう事はできないと笑うディアナにため息が漏れてしまう。

彼女はあくまでも私が主導で動いていると言いたいわけだね。


別にそれ自体はかまわないんだけど……


笑っているディアナへと視線を移す。

彼女は私の視線に何か感じたのか、姿勢を正して答えを待つ。


……条件は悪くない。それにどうやら、レストは私やミルアちゃんだけではなく、他の人間がどう動くかも完全に計算しているようだ。

ディアナは自分とカタリナ王女がレストに動かされているとは気が付いていないだろうね。


「ディアナの提案にのろう。ただし、条件がある」

「条件ですか?」

「もちろん、この事はメリル王女の部屋を訪れるまでメリル王女にもカタリナ王女にも秘密だよ。反応を楽しみたいからね」


なんとなくだけど、この状況は何者かの手の中で作られたような気がする。

それは間違いなく、あの無表情な友人なわけだけどわざわざこのような状況を作り出しているのだ。

何か目的があるのだろう。


そう考えて、気分を切り替える。

メリル王女もカタリナ王女も私が最高のおもちゃと評価しているミルアちゃんと同程度の資質を持っていると考えられる。

口元を緩ませて、その時まで2人に内緒にしようと提案してみるとディアナは満面の笑みで頷いた。

本当に彼女とは気が合いそうだね。


いつもありがとうございます。

申し訳ありませんがしばらく投稿ペースを落とさせていただきます。

詳細については活動報告に書かせていただいていますのでそちらをご覧ください。

ご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません。

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