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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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二一話

「……才能が感じられませんね。まさか、ここまで酷いとは思ってもいませんでした」

「す、すいません」


姉様に礼儀作法を教えていただくようになったのですが……姉様の教え方は厳しくて怒られっぱなしです。

今までの礼儀作法の先生は怒るような事はなかったのです。


……私、姉様に嫌われているんでしょうか?


先日のお茶会の時とはやはり違いのかなと思った時、ディアナさんが私の前に紅茶を置きます。


「あ……」

「メリル様、これでも飲んで落ち着いてください」

「ありがとうございます。ディアナさん」


ディアナさんは優しく微笑んでくれました。

その笑みは先日の背筋に冷たい物がつたうような恐怖はなく、お礼を言い紅茶を受け取ります。


「カタリナ様も先を急ぎ過ぎです。まだ、メリル様はお勉強を始めたばかりなんですから」

「そうは言っても、このまま、シュゼリアに行ってはスタルジックの恥になります」


ディアナさんは姉様をなだめてくれるのですが、姉様は眉間に深いしわを寄せています。


……確かに礼儀作法は姉様と違って完璧ではないですけど、そこまで言わなくても。


以前の先生にはあまり怒られる事はなかったため、姉様が先生に代わっても問題はないと思っていました。

シュゼリアに留学する前に姉様ともっと仲良くなれるのではないかとも思っていたんです。

そう思っていたんですけど……予想していたよりも厳しくてすでに心が折れてしまいそうです。


「……」

「このままでも私はかまいませんがシュゼリアに行って恥をかくのはメリルですし、レスト殿の冷たい視線を向けられるのもメリルですよ。あのレスト殿の視線に耐えきれるのですか?」

「が、頑張ります。姉様、見捨てないでください」


恨みがましい視線を向けて見ると姉様はため息を吐かれます。

レスト殿の名前に身体が強張ってしまいました。

優しい方だとは解っているのですがどうしても苦手ではあります。

少しでもレスト殿に呆れられたくはないので姉様に泣きついてしまいました。


「見捨てていないのですから、もう少し真剣になりなさい。時間がないのですよ」

「は、はい。わかっています。真剣にやりますのでお願いします。姉様」


姉様のため息にどこか安心してしまい、大きな声で返事をします。

その時、姉様が少しだけ表情を緩ませてくれた気がしました。


「ですけど……このままでは間に合いそうにないのですが」

「そ、そうなんですか?」


姉様はすぐに表情を引き締めると私を眺めた後にため息を吐かれます。

確かに以前は自室に閉じこもっていたため、あまり礼儀作法など考えた事もありませんでしたが私だって頑張っているはずです。

姉様の前の先生は覚えが早いと誉めてくださってもいましたし。


「メリル様、言い難いのですが……王族にあまりきつく物を言える人間はなかなかいません。皆、王城で働かせていただく事で日々の生計を立てているのですから」

「そ、そうなんですか?」


……考えていた事をディアナさんに読まれてしまいました。

それもどうやら私の事を先生が褒めてくれていたのは私が兄様の妹だったからのようです。


「それにレオンハルト様の婚約者として発表されれば、夜会や舞踏会にも参加しなければなりません……メリル、あなた、ダンスの方は大丈夫なんでしょうね?」


落ち込んでいる私に姉様は追い打ちをかけるように新たな課題について話します。


「……」

「ダメみたいですね」


ダンスと言われて目をそらしてしまいます。

私を見てディアナさんは困ったように笑い、姉様の眉間には深いしわが寄せられてしまいました。


「……圧倒的に時間が足りませんね」

「すいません」


自分が思っていた以上に私は何もできなかったようです。

姉様はどうして良いかわからないと言いたいのか、頭を抱えてしまいました。

私は謝る事しかできずに酷く居心地が悪いです。


「……ダンスとなると男性が必要ですね」

「そうですね」


姉様は自分1人では手が足りないと言いたいようです。

それはディアナさんも同感のようで頷いているのですが、男性と言われて身体が小さく震えました。

私のお世話をしてくれる方はすべて女性ですし、私のお知り合いで男性なのに兄様、レスト殿、ザシド先生、それにレスト殿のご友人のロゼット殿くらいです。

あまり関わりもなかったせいか、少し怖いです。

ただ、これを言ってしまえばシュゼリアに嫁ぐ事をどう考えているのかと怒られてしまいそうなため、口には出せません。


「……メリル、何を考えているんですか?」

「な、何も考えていません」

「メリル」


口をつぐんでいる事を姉様は気が付かれたようで考えている事を話すように言います。

これは私のわがままですから、何でもないと首を横に振るのですが、姉様は真っ直ぐと私の目を見ます。

その瞳の強さに息を飲んでしまいました。


でも、これを言えば姉様を困らせてしまうと思うので言う事ができません。


「メリル様は男性が苦手なようですね」

「そ、そんな事はないです……嘘を吐きました」


ディアナさんにはまた考えを読まれてしまいました。

否定しようとするのですけど、ディアナさんは小さく笑みを浮かべられます。

その笑みに背中に冷たいものが伝い、すぐに謝ってしまいました。


「男性が苦手?」

「苦手と言うか……あまり、お話もした事がないので」


なれていないだけですと伝えるのですが、姉様は難しい表情をされています。

姉様を怒らせてしまったのではないかと不安になるのですが、ディアナさんは心配ないと笑ってくれました。

それでも姉様に怒られるのではないかと思って姉様の顔をちらちらと見ます。


「……少し落ち着いていなさい。考えがまとまりません」

「は、はい……」


姉様は私の視線が気になって考えがまとまらないようです。

見ないように言われてどうして良いかわからずにディアナさんへと視線を移します。

ディアナさんは心配ないと言いたいのか、柔らかい笑みを浮かべると新しい紅茶を淹れてくれました。


「お辛いですか?」

「そ、そんな事はないです」


ディアナさんは私の顔を覗き込みます。

彼女の目には私が疲れているように見えるようです。

姉様が協力をしてくれているのに私が疲れているなど弱音を吐くわけにはいきません。

何でもないと笑ってみせるのですがディアナさんは無理をしないでくださいと微笑んでくれます。


……無理?

確かに疲れてはいます……でも、それ以上に姉様と一緒にいられるのが嬉しいと言う気持ちの方が大きいです。

今までは私の事を気にかけてくれるのは兄様だけでした。

父様も義母様にとって、私は邪魔者だったのです。

そんな私が姉様とお話もでき、姉様が私の事を考えてくれているのです。


「大丈夫です。姉様の期待に答えられるように頑張ります。それに姉様が頑張ってくれているんです。私が頑張らないわけにはいきません」

「だそうですよ。カタリナ様」


私が弱音を吐くわけにいかないです。

今は姉様に怒られてばかりですが、上手くできれば姉様が褒めてくれるかも知れません。


……姉様に褒めて貰いたいと言うのはわがままかも知れませんけど。


口に出して見ると急に恥ずかしくなってしまい、目を伏せてしまいます。

ディアナさんは表情を緩ませるとこれからの事を考えている姉様に声をかけます。

姉様はディアナさんを睨み付けると再び、考え込み始めます。


「あ、あの……」

「気にしないでください。照れているだけですから、恥ずかしがり屋さんなんです」


ディアナさんは時々、姉様を不機嫌にさせるのでもう少し言葉を選んで欲しいと言おうとするのですが、彼女は私の考えがわかっているのか柔らかい笑みを浮かべます。

そして、姉様は再び、ディアナさんを睨み付けました。

それなのにディアナさんは睨みつけられてもまったく怖くないと言いたいのか、優雅に紅茶を飲んでいます。

姉様は彼女の態度に忌々しそうな表情をするのですが、相手をしているのも疲れると判断したようで再び、考え込み始めます。


姉様が恥ずかしがり屋さんですか?

私の目に映る姉様は自信に満ちていて何でもできるお方です。

そのような方が何を恥ずかしがるのでしょうか?


私のように何もできなければそのような事も考えられるのでしょうかけど……


「……とりあえずはダンスの男性役は追々考えておきましょう。時間をかけすぎて何もかもができないままでは困りますし」

「それがよろしいかと思います」

「ただ、問題は今の段階でそのような相手が見つかるかね。私の知っている者達は謹慎などの罰を受けていますから、王城には上がってこられないでしょうし。今のメリルに取り入るような考えを持つ人間はこの部屋の中に招く事はできませんし……この辺も後で考えましょう」


姉様はしばらく考えた結果、すぐに答えは出ないと判断されたようでため息を吐かれます。

ディアナさんが頷くと姉様は心配事が多いようですが、私には何も口に出す事はできません。


「メリル、始めますよ」

「はい。姉様」

「時間がないのですから厳しく行きますからね」


姉様は礼儀作法の勉強を再開させると言い、お願いしますと私は頭を下げました。

ただ、厳しくと言われて少し逃げ出したくなっています。


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