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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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十八話

「……まだ、レオンハルト様に挨拶をしていないですって? それはいったいどういう事ですか? メリル、あなたは自分や国の立場を理解しているのですか?」

「す、すいません。姉様!?」

「意味も理解できていないのに謝るのは止めなさい。それは相手によってはバカにしていると捉えられる事もあります」


ミルアさんとディアナさんが気を使ってくださって少しずつ姉様とお話ができていました。

そのせいか気を抜いてしまい、レオンハルト様に会えていないと言う事を漏らしてしまった時、姉様の眉間にはしわが寄りました。

その表情に怒られると思って即座に謝罪してしまいましたが姉様は肩を落としてしまいます。


「……申し訳ありません」

「良いですわ。それでレオンハルト様はスタルジックに来られてからすでに3日が経っているのでしょう。なぜ、まだ挨拶の1つもしていないんですか?」


何でも謝罪するなと怒られたにも関わらず、謝ってしまいました。

また、怒られてしまうと身体を縮めてしまいましたが、姉様はため息交じりでなぜ、レオンハルト様に挨拶をしていないかと聞きます。


……なぜ?


なぜかと聞かれても明確な答えが見つかりません。

婚約話はお芝居、兄様も会えと言わないですし、レオンハルト様も会いに来てくれないからでしょうか?


「レオンハルト様が会いに来てくれないからでしょうか?」


お芝居だから、レオンハルト様は私に興味などない。

だから、私に会いに来てはくれない。


それが少し考えた末に出した答えでした。


口に出した時、小さく胸が痛んだような気がしました……ただ、どうして痛んだのかはわかりません。


「……メリル、あなたには自分がないのですか?」

「自分がない? 自分とは何でしょうか?」


姉様は私の言葉に不満のようです。

でも、私には姉様の言いたい事が良くわかりません。

自分とはいったい何でしょうか?


「兄様のためならシュゼリアに嫁ぐと声を上げていたカタリナ様の言葉とは思えませんね」

「ディアナ、余計な事を言わないで」


私が首を傾げているとディアナさんは楽しそうに笑います。

姉様は彼女の言葉が面白くないのか、ディアナさんを睨み付けました。

それなのにディアナさんは素知らぬ顔で紅茶を飲んでいます。


「兄様のためですか?」

「今回はあのような形でアーガスト様が王になられましたがあのような事が無くともアーガスト様が国を継がれたはずです」

「そうですね。アーガスト王以外男児はいなかったわけですし」


姉様の視線を無視しながら、ディアナさんはお話を続けます。

ミルアさんは父様の事を知らないようで確認を取りたいようで私と姉様へと視線を向けます。

父様には兄様以外に男児はいません。……たぶん、ですけど。

現状では兄様以外に男児がいるとは聞かされていないため、首を横に振ります。

それは姉様も同じのようです。


「シュゼリアとスタルジックの同盟が成れば、順調にアーガスト王が国を継いだ時にも同盟が続いたでしょうから、贅沢をしたいからシュゼリアに嫁ぐと騒ぎ立てていた頭が残念な王女を嫁がせるわけにはいきませんでしたからね」

「……ディアナさん、はっきりと言い過ぎですよ」


ディアナさんは1番上の姉様以外ならスタルジック側からは見れば問題はなかったとおっしゃってくれます。

その言葉にミルアさんは肩を落としておられますが……兄様から姉様方がレオンハルト様の婚約者を争っていたと聞いていた事もあり、その時の真意が知りたくて姉様のお顔へと視線を移します。

姉様は私の視線から逃げるようにカップを手に取り、紅茶を飲もうとするのですが……どうやら、カップは空だったようです。

ミルアさんが気付いて新しい紅茶を注いでくれると何事もなかったかのように紅茶を口に運びます。


……姉様の様子にディアナさんが笑いをかみ殺している事は私にもわかります。


「ただ、姉妹で争う姿は見苦しく見えていたんでしょうね。あんな見苦しい事をされてあのレスト様が目をつぶってくれるわけがありませんのに」


姉様が怒らないかと心配しているとディアナさんは笑うのを我慢するのが面倒になられたのか声を上げて笑われます。

その瞬間に姉様の額には私でもわかるくらいの青筋が浮かび上がりました。


「あ、あの、ディアナさん、姉様をバカにしないでく、くだふぁい……」


ここまでのお話で姉様が私と同じように兄様の事が大好きな事は充分に理解できました。

姉様がバカにされるのに耐え切れなかったようで自然と言葉が口からでました。

ただ、その事に自分自身で驚いてしまい、舌を噛んでしまう。

途端に恥ずかしくなってしまい、顔を伏せてしまいました。


「あ、あの……」

「失礼な事を申し上げてしまい、申し訳ありませんでした。ただ、私はメリル様にカタリナ様がどのような方かを知っていただきたく思っておりました。カタリナ様も申し訳ありませんでした。罰は喜んでお受けします」


失敗してしまったためか、恥ずかしくて言葉が続きません。

それでもディアナさんには姉様に謝っていただきたい。

そう思って勇気を絞り出そうとした時、ディアナさんは立ち上がり満足そうに笑った後、私と姉様に向かって深々と頭を下げます。


「……公式の場ではないのでしょう。メリルも良いですね」

「は、はい。今日は美味しいミルアさんのケーキを食べに集まっただけです」


姉様はどこかでディアナさんの考えを理解されていたのか、これまでのやり取りなど興味がないと言われます。

それは15年と言う長い間、仕えてくれたディアナさんへの信頼がなせるものなのでしょうか?

私自身、ディアナさんに罰を与えられる立場にはいませんので姉様の言葉に頷きます。

ただ、私の返事に姉様は何か言いたげな表情をするのですが、すぐに表情を元に戻してしまわれます。


また、姉様を怒らせるような事をしてしまったのでしょうか?


「先は長そうね」

「それはメリル様だけの責任ではありませんから」

「わかっているわ……メリル、怒っているわけではありませんから、安心なさい」


機嫌を損ねてしまったと思い、どうして良いかわからずにいると姉様はため息を吐かれます。

ディアナさんは姉様が何を考えているのかすべて理解されているようで、姉様も頷いて見せると私に向かって気にする必要はないと言いたいのか表情を和らげてくれます。


「メリルはこれだから仕方ないとしても政略結婚とは言え、婚約者がいるのに顔を見せに来ないと言うのは……」


姉様は私とレオンハルト様がまだ挨拶をしていない事に違和感を覚えているのでしょう。

難しい表情で考え込み始めてしまいます……少し、気になる言葉がありましたけど『これ』とは何なんでしょうか?

褒められている気がまったくしないのですがそれを口に出してしまうとまた怒られてしまう気がします。

そのため、姉様が何かおっしゃられるのを待ちます。


「……まさか、男性が好きなのでは? 王族にも関わらず、未だに側室の1人もいないと言う事に納得がいきます」


レオンハルト様は男の人が好き?

……レオンハルト様は男性ですよね?


姉様は1つの答えを導き出したようですが、信じられないのか眉間に深いしわを寄せています。

ただ、姉様が何を言いたいのかはまったくわかりません。

レオンハルト様は男性ですし、なぜ、男性が好きと言う話になるのでしょうか?


「確かに恋愛は性別をも超えるとは聞きますが、メリル様におかしな事を吹き込むのはおやめください」

「わ、わかっているわ。いくらなんでもそんな事はないでしょう。それにそんな事があっては兄様の身が危険です」


意味がわからずに首を傾げているとディアナさんは大きく肩を落とします。

姉様は先ほどの言葉を自分で否定したいようで大きく首を横に振るのですが兄様に危険が及ぶ可能性があると思ったのか眉間に深いしわを寄せてしまいます。


「に、兄様が危ないんですか!?」

「それに関して言えば、心配ないですから気にしなくて良いです。落ち着いてください」


聞き捨てのできない言葉に声を上げてしまいました。

兄様が危ないと聞いてはじっとなどしていられません。

すぐに兄様の元に駆けつけようと勢いよくイスから立ち上がったのですが腕をつかまれてしまいました。

ミルアさんは心配ないと首を横に振っていますが兄様が気になって気が気ではありません。

ただ、ミルアさんの腕を振り払うわけにも行かず、イスに座り直します。


「大丈夫です。レスト様やロゼット様が言っていましたけど、レオンハルト様は女性にだらしない人らしいですからアーガスト王の貞操は保証します。レオンハルト様は男性になんか興味はありませんよ」

「……ミルア様、それはそれで問題のある発言だと思うんですけど、それも婚約者であるメリル様にお聞かせする言葉ではないです」

「で、ですよね」


兄様の事を私が心配しているのがミルアさんにもわかるようで、彼女は心配ないと笑ってくれたのですが、すぐに視線をそらしてしまいました。

その態度の意味がわからずに首を傾げてしまうのですが、ディアナさんはあまり良い事だとは思えなかったようで肩を落とします。


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