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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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十七話

「……メリル、あなた、今まで何をしていたの?」

「す、すいません。姉様」


姉様が席に着くとミルアさんが4人分の紅茶を淹れてくれます。

何とか気持ちを落ち着かせようと紅茶に手を伸ばしたせいか、カップを手にした時に紅茶が飛んで手にかかってしまいました。

姉様はこのお部屋に入ってから3度目のため息を吐き、私はどうして良いかわからずに助けを求めるようにミルアさんへと視線を移します。


「カタリナ様、メリル様はまだこのような状況にはなれていませんので」

「そんな事は知っているわ。だからと言ってもこの子がシュゼリアに嫁ぐのですから短時間で礼儀作法のすべてを覚えないと困るでしょう。この子がおかしな事をするとスタルジックとシュゼリアの恥になるのですよ……ディアナ、あなたもずうずうしすぎない?」

「本日はあまり堅苦しいのは無しとミルア様とのお約束でしたし。だいたい、美味しいケーキが食べられると聞いて付いてきたいと言われたのはカタリナ様ではないですか? 私はメリル様とミルア様の3人のお茶会でかまわなかったのですよ」


私の気持ちをディアナさんが察してくれました。

彼女の言葉に姉様は4度目のため息を吐きます。

どうやら、私はお部屋にお客人を招き入れる時の作法ができていなかったようです。

その事に落ち込んでしまいそうになるのですが、目の前では姉様とディアナさんが何やらおかしなやり取りを始めだしてしまいます。


「あ、あの」

「メリル様、気になされないでください。何ならカタリナ様はこの場にいない物だと思っていただけても一向にかまいません」

「そ、そう言うわけにはいきません!?」

「慌てすぎです。王族なのですから、もっと余裕を持ちなさい」


戸惑ってしまうのですが何とか勇気を振り絞ってお声をかけます。

ディアナさんは楽しそうに口元を緩ませると姉様の事を無視しても良いと言われるのですがそう言うわけにはいきません。

首を大きく横に振った時に姉様と視線が合ってしまいました。

そして、5度目のため息を吐かれてしまいます。


このままではお茶会にならないと考えてくれたようでミルアさんとディアナさんが姉様をなだめてくれてお茶会が始まりました。

姉様の作法は礼儀作法のお勉強で習った手本のように綺麗で見とれてしまいました。

何度もため息を吐かれているせいか、きちんとしなければいけないと気が張ってしまっているようで動きが硬い気がします。


……それに何を話して良いのかわかりません。


「メリル様、緊張しすぎですよ。カタリナ様はいない物だと思って良いんですから」

「そう言うわけにはいきません……あの、姉様とディアナさんはずいぶんと仲がよろしいみたいですけど」


私を覗いた3人は普通にお話をされています。

お話に入って行く事ができずにどうして良いかと困っているとディアナさんは再び、姉様の事など気にしなくて良いと言われる。

そんな事ができるわけはないと首を横に振るのですが、姉様の事をぞんざいに扱っているディアナさんに姉様が何も言わないのが気になります。

どうしてでしょうか? 2人の距離がとても近く見えて、なぜか胸の奥がちくちくと痛みます。


「そうですね。カタリナ様が中庭の隅でひざを抱えて寂しいと泣いていた時からですから……15年になりますね」

「ディアナ!!」

「カタリナ様、メリル様に礼儀作法がなっていないと言われるのでしたら、このような場所で声を荒げるのは品位に欠けます」


……仲がよろしいんでしょうか?


ディアナさんはすぐに質問に答えてくれるのですが、彼女の答えは姉様には我慢ができなかったようです。

しかし、ディアナさんは姉様の言葉にも態度を改める事などなく、それどころか優雅に紅茶を飲んでおられます。

品位に欠けると言われた姉様は納得がいかないようで眉間に小さなしわが寄っていますが、ディアナさんには何を言っても無駄だと諦めているようにも見えます。


「……」

「メリル様、カタリナ様にお聞きしたい事があるのではないですか?」


姉様の様子に小さく表情がほころびそうになります。

ですが、ここで笑ってしまえばまた姉様にため息を吐かれてしまいます。

何とか笑みをかみ殺した時、ディアナさんは私を見て小さく口元を緩ませました。

その表情に背中に冷たい物がつたいます。


「姉様にお聞きしたい事ですか?」

「はい。せっかく、お話をする機会が得られたんですから、しばらくしたらメリル様はシュゼリアにご留学なされるのですからカタリナ様とお話しできる時間はわずかですよ」


ディアナさんは笑っているのですがその笑顔には迫力があり、声が裏返ってしまいました。

私がシュゼリアに留学する事はディアナさんにも知られているようです。

ディアナさんの言う通り、シュゼリアに留学してしまうとこのような時間を姉様と過ごす事はできなくなります。


でも……何をお話して良いかがわからないんです。


「ほら、カタリナ様は素直じゃないのでメリル様とお話ししたくても自分からはお話などできませんから」

「カタリナ様、紅茶のおかわりはどうですか?」

「ありがとうございます」


何をお話して良いかと戸惑っている私を見てディアナさんは楽しそうに笑いました。

彼女の言葉を聞いた姉様の眉間には深いしわが寄ります……く、空気が痛いです。逃げ出したいです。


そう思ったのは私だけではなかったようで、ミルアさんは紅茶のおかわりを姉様のカップに注ぎます。

姉様は紅茶を1口、飲むと真剣な表情をして私の顔を見つめました。

その真っ直ぐな瞳に息を飲んでしまいます。


「メリル、言いたい事があるなら言いなさい。先ほども言いましたがあなたはシュゼリアに嫁ぐのです。あなたの失敗はあなたの責任だけではなくスタルジックやシュゼリアの責任になるのです。誰かの影に隠れていれば良いと言うわけではないのですよ。シュゼリアには兄様はいないのですからね」

「は、はい」

「それとも、兄様がいないから、レオンハルト様の背中に隠れますか?」


姉様は婚約話がお芝居だと知らないようでシュゼリアに嫁ぐ者の心構えを私に教えてくれているようです。

その言葉に嘘があるとは思えなく、すぐに頷いてしまいました。

私の返事を姉様は信用してくれていないようでレオンハルト様の名前を挙げられます。


……レオンハルト様のお背中に隠れるわけにはいきません。この婚約話はお芝居なんですから。


「か、隠れません。隠れてはいけないんです」

「そうです。わかっているじゃないですか、それなら、少しはしっかりとしなさい」


レオンハルト様に頼るわけにはいきません。

それだけはしてはいけないんです。

私の言葉に姉様は6度目のため息を吐きます。

ただ、そのため息は先ほどまでとは違う物に思えました。


「何を笑っているのですか?」

「す、すいません!?」

「メリル様、カタリナ様は怒っていませんよ」


姉様が私の背中を押してくれたような気がして、頬が緩んでしまいました。

私の笑顔を見て、姉様は不快に思われたようで睨まれてしまいます。

姉様を不快にしないように慌てて頭を下げるとミルアさんから頭を上げるように言われてしまいました。


「……怒っていられないんですか?」

「はい」

「なぜ、あなたが返事をするのですか? 別に怒ってなどいませんわ」


私の目には姉様が怒っているようにしか見えなかったため、遠慮がちに聞きます。

ミルアさんは笑顔で返事をしてくれるのですが姉様の本心がわからないため、ゆっくりと姉様へと視線を向けます。

姉様はミルアさんの様子に呆れたと言いたい様子ですが怒ってなどいないと言われました。


「良かったです」

「カタリナ様、正直なところ、メリル様の礼儀作法などはシュゼリアに留学されるまで覚えきれますか?」


安心してしまったせいか、お腹の虫が小さく泣いてしまいました。

お腹の虫に大人しくして貰うためにミルアさんが焼いてくださったケーキを口に運びます。

少し大きく切りすぎたのではないかと思いながらも、我慢ができなくなってしまったんです。

そして、口を開いた瞬間をディアナさんに見られてしまい、彼女は険しい表情で姉様に声をかけました。

姉様の眉間には深いしわが寄っており、自分が失敗したと言う事が理解できました。


「……間に合う気がしませんね」

「だ、大丈夫ですよ。メリル様はレクサス家でお預かりしますし、礼儀作法もレスト様がどうにかしてくれます!? メ、メリル様、どうしたんですか!?」

「……あの無表情な顔で淡々とした口調で言われたら心が折れますわ。間違いなく」


私の礼儀作法への理解はどうやら姉様の評価では絶望的のようです。

ミルアさんは私を励まそうとしてくれているのかまったく問題ないと言ってくれます。

レスト殿に礼儀作法を教わる状況を想像しているのですが私の貧相な想像力でもその状況が恐ろしい事はわかりました。

顔に出てしまったようでミルアさんは私を心配してくれます……知っています。レスト殿はお優しい方です。

ただ、怒られているような気がするんです。

姉様は私の考えている事を理解してくれたようで、私はそこの言葉を肯定するように大きく頷きます。


「た、確かに心は折れそうになりますけど、それがくせになるんです。絶対に乗り越えられます」

「……ミルアさん、それはきっとあなただけです」


ミルアさんはさすがレスト殿の婚約者です。

心配などないと言ってくれますがディアナさんに否定されてしまいました。

私も姉様のディアナさんの意見に賛成のため、大きく頷くとミルアさんは納得ができないのか首を傾げてしまいます。


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