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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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十六話

ミルアさんとカタリナ姉様のお世話をしてくださっているディアナさんが意気投合したようで姉様も交えてお茶会をする事になりました。

兄様が国王になられてからは姉様とは何度か中庭で顔を会わせていました。

中庭で見た姉様は以前とは違って派手なドレスや宝石などは身にまとっていませんでしたが、その動きや細やかな仕草はキレイで見とれていました。

その時も姉様とはお話しする事はありませんでしたけど、今日は姉様とお話ができるのです。

今まできちんとお話をする機会がありませんでしたがシュゼリアに留学した時に人見知りでは困るとレスト殿やザシド先生にも言われてしまいました。

ディアナさんを介してお話をしたミルアさんは姉様の事を怖い人ではないとおっしゃられていましたし、ミルアさんのケーキを食べると幸せな気分になるので姉様とも上手くお話ができるはずです。

お茶会の場所は私のお部屋と言う事ですがあまり私のお部屋を訪ねてくる方はいないため、緊張してしまっています。


「メリル様、緊張されていますか?」

「そ、そんな事はないです」

「まだお約束の時間には早いですのでこれを飲んで落ち着いてください」


お部屋でお茶会の準備をしてくださっていたミルアさんに緊張している事は気が付かれているようです。

そんな事はないと否定するのですが声は震えてしまいました。

私の様子にミルアさんは優しく微笑むと温かい紅茶を差し出してくれます。


「あ、ありがとうございます」

「メリル様はカタリナ様の事が苦手なのでしょうか?」

「苦手……とは違うと思います。私、姉様とあまりお話した記憶もありませんし」


ミルアさんの質問に少し考えてみる。

苦手かと聞かれると良くわかりません。


以前の姉様の様子を思い浮かべます。

カタリナ姉様が私のお部屋を訪れる事はありませんでした……ただ、義母様や1番上の姉様のように私を叩くような事もなかったです。

何かをされると言うよりは姉様には私が見えていなかったと例えるのが正しいのでしょうか?


「姉妹なのにですか?」

「はい……」

「それなら、これからたくさんお話をしたら良いですね。家族なんですから」


ミルアさんは姉様とお話をした事がないと聞いて首を傾げます。

どう反応して良いかわからずに目を伏せてしまいました。

そんな私の行動を笑い飛ばすかのようにミルアさんは笑います。


……姉様とお話?

そんな事ができるのでしょうか?


「私は姉様とお話ができるんでしょうか?」

「できますよ。私は少しだけお話をしましたけど、カタリナ様は悪い人ではありませんでしたよ。それにメリル様と一緒でアーガスト王の事が大好きですから」


不安を漏らしてしまうのですが、ミルアさんは姉様が私と同じで兄様の事が好きだと話してくれました。

姉様との共通点に少し安心できたのか、ほっとしました。


「姉様と兄様のお話をできるんでしょうか?」

「はい。きっとできます……家族なんですし」


ミルアさんの笑顔に勇気が貰えそうです。

彼女の笑顔に釣られるように笑顔になってしまいます。

ただ、ミルアさんはなぜか視線をそらしてしまいました。


「どうかしたんですか?」

「な、何でもありませんよ」

「でも……あの、ミルアさんはザシド先生とお話ができているんですか?」


視線をそらすミルアさんの様子にザシド先生が頭を抱えていた姿が重なりました。

先生の名前を出すとミルアさんの頬が小さく引きつります……そして、すぐに視線を泳がせてしまいます。


「あの、ミルアさんと先生もご家族では?」

「……私とメリル様は状況が違いますよ」

「でも、ミルアさんも共通の話題ありますよね? ケーキのお話やレスト殿のお話とかいろいろとありそうですよ」


ミルアさんは先生との関係があまり上手く行っていないようで私の顔を見てくれません。

私はお2人とも大好きなためか上手く行って欲しいと思い、共通の話題を探します。


「そ、それはわかっているんですよ。お父さん……本当の方とお義父さん……なんか、話しにくいですね」

「おっしゃりたい事はわかりますから続けてください」

「お友達同士だったらしいので、その辺のお話も聞きたいなとは思っているんですけど……緊張してしまって」

「そうですよね。緊張しますよね」


ミルアさんは先生の前だと緊張してしまうのだと困ったように笑います。

その気持ちはすごくわかってしまう私がいます。

そして、状況は違っていても心境は良く似ている事に私とミルアさんは笑い出してしまいました。


「きっと、緊張して当たり前なんですよね?」

「そうですね」


同じ考えを持つ人がいると思い、身体が少し軽くなりました。

ミルアさんは小さく表情を緩ませると1度、頭を下げてからお茶会の準備を再開してくれます。


……まだ、時間がありますね。

ミルアさんが準備に戻ってしまわれたため、やる事のなくなってしまった私はレオンハルト様からいただいた本へと手を伸ばします。

本は恋愛小説と言う物だと私の身の回りのお世話をしてくれる方達から聞きました。

主人公の女の子は貴族のお屋敷に仕えるメイドで主人である若い当主を恋に落ちると言うお話です。

恋愛と言う物がどういう物かはよくわかりませんけど、このお話を読み終えた時、胸の奥が温かくなったような気がしました。


時間も少しあるので最初から読み直してみようと思い、ページをめくる。


「恋愛小説ですか? メリル様もそう言う物をお読みになられるのですね」

「は、はい、先日、いただいて始めて読みました。胸の奥が温かくなって不思議でした」

「そうですか? どのようなお話だったんですか?」


しばらく、お話に熱中しているとお茶会の準備を終えたミルアさんに声をかけられる。

突然の事だったので声を裏返してしまうと彼女は柔らかい笑みを浮かべてこの恋愛小説の内容を尋ねられます。

その質問に私はレオンハルト様からいただいた事と恋愛小説の内容をミルアさんにお話しします。

内容を聞いたミルアさん小さく頬を引きつらせながら「絶対に悪意がありますね」とつぶやいておられました。

良く意味がわからないのですがその事に付いてはこれ以上、深入りしない方が良いと思ったので聞かないようにします。


「ミルアさん、レオンハルト様はスタルジックにお越しになられているんですよね?」

「そうですね」

「あの、ご挨拶をしなくても良いのでしょうか?」


3日前からレオンハルト様がスタルジックに滞在している事は知っています。

婚約話がお芝居だとしても1度、お会いしておく必要があるのではないかと思い尋ねてみます。

私の言葉にミルアさんはなぜか眉間に深いしわを寄せてしまいました。


……何かあるんでしょうか?

彼女の反応にどうして良いかわかりませんがレオンハルト様がスタルジックに滞在されているのは多くの方達が知っている事です。

お芝居だと知っているのはわずかしかいないなら、お会いにならないと不審に思われてしまうのではないでしょうか?


「あの、会わない方が良いんでしょうか?」

「その辺は私にはわかりません。今回のレオンハルト様の滞在は非公式ですし」

「そうですか……この本のお礼を言いたかったのですけど」

「レスト様に確認してみます」


私とレオンハルト様の婚約話がお芝居だと言う事を知っておられるため、お話を聞いてみます。

ミルアさんはなんと答えて良いのかわからないのか頭を抱えてしまう。

恋愛小説のお礼をしたいと素直な気持ちを話してみる。

どうやら、彼女はレスト殿にレオンハルト様の事を私に伝える事を止められているようです。


「ただ、あまり期待しないでくださいね……レオンハルト様に」

「あの、レオンハルト様はどのような方なんですか?」


そして、ミルアさんはレオンハルト様にあまり良い印象は持たれていないようです。

まったく、見えてこないレオンハルト様の人物像に少し気になってしまいます。

ミルアさんの様子からはお話は聞けないのではとも思うのですがそれでもレオンハルト様のお話を聞いて欲しいと思いました。


「見た目は良いですよ。なんで、王族であの見た目で独り身だったのかがわかりません……いえ、それでは補えないくらいに性格は悪いです」

「そ、そうなんですか? 先生は捻くれているとおっしゃっていましたけど、悪い方ではない気がするのですけど」

「確かに悪い人手はないかも知れませんが……黒い人です。お腹の辺りが」


レオンハルト様のお話をして欲しいと頼むとミルアさんは眉間に深いしわを寄せてしまいます。

彼女の持っているレオンハルト様の印象はあまり良くないようであり、どうして良いかわからずに苦笑いを浮かべてしまいました。


……どうしましょう? 聞かない方が良かったのでしょうか?


私がレオンハルト様の事を聞いた事に後悔をし始めた時、お部屋のドアをノックする音が響きます。


「メリル様、カタリナ様をお連れしました」

「は、はい。入ってください」

「失礼します」


それは天の助けのように聞こえて、すぐに返事をするとミルアさんは姿勢を正します。

その後、ゆっくりとドアが開き、カタリナ姉様と姉様のお付きのディアナさんの姿が見えました。

ディアナさんは深々と頭を下げた後、姉様を私の前のイスへと案内してきます。


「……まったく、この程度の事も出来ないのですか?」

「す、すいません!?」

「まったく、こんな調子でシュゼリアに嫁いでは兄様の恥になってしまいますわ」


姉様は私の前まで来た後、呆れたと言いたいのか小さくため息を吐きます。

何の事をおっしゃられているかはわからないのですが、反射的に頭を下げてしまいました。

姉様はもう1度、ため息を吐くとイスに腰を下ろされました。







……す、少し、怖いです。


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