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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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十三話

「何も言いませんよ」

「どうして、疑いから入るかな?」

「と言うか、シュゼリアではないんですから、好き勝手に歩き回らないでください。何かあったら大問題なんですからね」


ザシド先生からミルアちゃん次第で養子縁組の話を了承された事もあり、彼女の居場所を求めて王城内をさまよう。

ミルアちゃんは同年代のメイド達を仲良く話をしていたのだけど、私の顔を見るとすぐに顔をしかめる始末だ。

王城のメイド達は私の顔を見てすぐに姿勢を正すが、ミルアちゃんは警戒するように距離を取っている。


別に責める気などはないけど、私も王族としての立場があるんだからせめて他の者がいる時は態度を考えて欲しいね。


「わかっているよ。それより、話があるんだけどレストはどこ?」

「レスト様はアーガスト王とご一緒だと思います……レスト様にお話があるのでしたら私の元ではなく、レスト様のところを訪ねてはいかがでしょうか?」

「そうなんだけどね。ミルアちゃんの方が見つけやすいと思っただけだよ」


ただ、私も他にも目的があるため、ミルアちゃんの養子縁組の件を早く片付けたい。

そんな中、どこを歩いているかわからないレストを探すよりはミルアちゃんを捕まえた方が早いのだ。

今回、シュゼリアの使者に付いてきた使用人達は本来客人として招かれているはずだから客室でゆっくりとしているはずだけど、彼女の性質上、じっとしているわけはない。

レストの指示でケーキを焼いていた事やあのレストの婚約者である事はすでにスタルジック城内でも噂になっている。

そう考えればミルアちゃんの居場所など容易に見つけられる。

そして、予想通り、厨房にいたわけだ。

くすりと笑ってみせるとミルアちゃんは悔しそうに顔を歪ませる。

その様子に楽しくなってくるのだけど、あまり、大袈裟に笑ってしまえばシュゼリアの品位を落としてしまう。


「と言う事だから、レストとのところに案内して貰いたいんだけど、時間は良いかな?」

「……わかりました。ただ、私もレスト様がどこにいらっしゃるかはわかりませんよ」

「大丈夫だよ。レストの事だから、私がミルアちゃんといたら嗅ぎ付けてくるから」


こほんと1つ咳をしてミルアちゃんに付き合ってくれるかと聞く。

彼女はしぶしぶ頷いてくれるのだけど、彼女もレストがどこで仕事をしているかわかっていないようである。


問題はないけどね。

付き合いが長い分、レストの行動だって理解しているのだ。

私がミルアちゃんを連れて歩いていれば、間違いなくレストは現れる。


「……レスト様は犬ですか?」

「そこまでは言っていないけどね。それじゃあ、ミルアちゃんを借りて行くね」


ミルアちゃんはレストをバカにされた事が面白くないようで頬を膨らませる。

本人から了承を得られたわけだけど彼女はメイド達と交流を深めていたわけだし、形だけの笑顔を作ってメイド達に確認を取る。

彼女達は全員大きく頷いてくれ、その様子に少しだけつまらないと思ってしまうわけだけど今の問題は他に有ったりする。

ありがとうとメイド達にお礼を言ってから、ミルアちゃんとともに王城を歩く。


「……言っておきますけど、メリル様のお部屋には案内しませんからね」

「目的はそこじゃないよ」

「本当ですか? メリル様の顔を見にわざわざ、馬車に紛れ込んできたんですから」

「紛れ込んだと言うけど、私が馬車に紛れ込んでいた事を本当にレストが気づいていなかったと思うのかい?」


ミルアちゃんはレストからきつく言われているのか、メリル王女の部屋には案内しないと言う。

ため息を吐くけどミルアちゃんは疑いの視線を向けたままであり、1つの質問を投げかけてみる。

普通に考えればおかしな話だ。


シュゼリアの後継者が国を抜け出す事に多くの人間が気づかないわけがない。

少し考えれば誰もがわかる事だ。

父上達も私がスタルジックまで足を運ぶと言うのは想像がついていただろう。


「レスト様、気が付いていたんですか?」

「そう考えるのが普通だね」

「どうしてですか? レオンハルト様をメリル様に会わせたくないと思っていたんですけど」


ミルアちゃんはまったく気が付いていなかったようで驚きの声を上げる。

その反応に苦笑いを浮かべると彼女は納得ができないのか頬を膨らませた。


「何か思惑がある事は確かだね。ただ、それが何かはまだわからないけどね」

「思惑ですか? 何なんでしょうね?」


レストや父上の事だ。

私とメリル王女が会えないようにしている事には意味があるのだと思う。

情報が一切得られない事でメリル王女に会ってみたいと誘導されている気もするわけだ。

メリル王女の情報がない事、ミルアちゃんの養子縁組話が私に押し付けられた事、ザシド先生がスタルジックに行ってしまった事、気が付いてしまえば不自然すぎる。


実際、動いてみて気が付いたわけだけど、正直、あまり面白くはない。


ため息が漏れるのだけど、私の話はミルアちゃんの頭の限界を超えてしまったようで首を傾げている。


「それがわからないから考えているんだけどね。ミルアちゃんみたく単純ならここまで考えなくてもいいんだけど」

「単純で悪かったですね。私から言わせて貰えば、レオンハルト様は考え過ぎなんだと思いますけど、よくわかりませんけど、私なら顔も知らない人と結婚するのはイヤですから」

「それなら、私が今から、ミルアちゃんから逃げてメリル王女の部屋に押し入っても文句を言わない?」


小バカにされている事にミルアちゃんは頬を膨らませた。

彼女の様子に意地悪な質問をしてみると彼女はレストに怒られる事を想像したのか頬を赤く染める。


……正直、この娘のこの反応は理解できない。


ため息が漏れるのだけど、本人が喜んでいるのだから私に何か言う資格はないのだけどたまに反応に困る。


「……逃げた方が良い?」

「ダメですよ!? メリル様はかわいらしい方なんです。レオンハルト様が近づくとメリル様が穢れます!!」

「……ミルアちゃん、君は私の事をどう思っているんだい? これでもレストの主君になる人間なんだけど」


彼女の特異な性癖を満足させるためにもメリル王女に会ってみた方が良いとも考え直す。

しかし、すぐにミルアちゃんは逃げ出さないように私の腕をつかむ。

ただし、彼女の口から出る言葉は限りなく暴言に近い……と言うか、明らかに暴言だ。

普段なら、後々、からかう材料にするわけだけど、ここはレクサス家の屋敷ではなく、隣国スタルジックのそれも王城なのだ。

もう少し立場を弁えた方が良いのではないかと言う意味を込めてため息を吐いて見せる。


「そう言うなら、もっと、立場を考えてくださいよ。レオンハルト様に何かあったら大問題なんですからね」

「わかっているよ」

「……わかっているつもりなら、勝手に歩き回るな」


頬を膨らませながら、私の行動をいさめようとする彼女の様子に小さく笑みがこぼれた時、背後から待ち人(レスト)の声が聞こえる。

声の抑揚からは怒っているようにも聞こえるのだけど、レストの思惑が他に有るとわかってしまえばそれが演技だと言う事は簡単にわかってしまう。


「良いじゃないか。これもレストや父上の思惑通りなんだろう?」

「何の事を言っているかはわからないな」


わざとらしいくらいに大袈裟にため息を吐いてみるのだけど、レストの表情にはまったく変化はない。

これほどまでに表情に変化がない人間は私のように他者を観察する人間の相手をさせるのは適任だろう。

ただ、レストとともにいたアーガスト王は若干、反応に困っているのか気まずそうにしている。


アーガスト王は優秀ではあるけど、人が良すぎるな……いや、私がひねくれすぎているだけか?


少し前にミルアちゃんに言われた事を思い出して笑いが込み上げてくるが何とか飲み込む。


「……それでレオンハルト様は何をしておられるのですか?」

「そんなに怒らないでよ。レストを探していたんだから、ミルアちゃんの件でね」


レストは普段とは違った呼び方で私を呼ぶ。

アーガスト王の前だから……イヤ、これは完全に嫌味だね。

嫌味ったらしい言葉に反撃するように口元を緩ませて言う。

ミルアちゃんの件でと聞き、レストの空気は小さく張りつめる。

本当にミルアちゃんの事に関係するとわかりやすい男だ。


ただ、隣でアーガスト王は身内話にどうして良いかわからないのか困ったような表情をしている。


「アーガスト王にも聞いて貰おうか?」

「……良いのでしょうか? 込み入った話に聞こえますが」

「かまいませんよ。ザシド先生にも関係ある話ですから、アーガスト王にも聞いていただきたいですね」


アーガスト王の表情にミルアちゃんを説得するのに使えそうだと直感的に感じた。

なぜかはわからないけど、その時、私の口元は小さく緩んでしまったのかミルアちゃんは反射的にレストの背中に隠れる。


「込み入った話のようですので部屋を用意しましょう」

「よろしくお願いいたします」


ザシド先生の名前が出た事にアーガスト王は首を傾げているのだけど、あまり他者に聞かせる事でもないと思ったようで部屋を用意してくれた。


その後、もちろん、ミルアちゃんを丸め込んだよ。

了承させた後のミルアちゃんは理解が追いついていないか首を傾げていたけどね。


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