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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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十話

お部屋の外が少し騒がしく思えます。

原因はシュゼリアからお客様がくると言う事なのでお客様を迎え入れる準備をしているのでしょう。

兄様を始めとした王城の方々がお忙しい中、本日の私はザシド先生から宿題代わりに置いて行かれた本を読んでいます。

ザシド先生は混乱の中で城下に紛れ込むとおっしゃっていましたけど……良いんでしょうか?

それにシュゼリアからのお客様はレスト殿達でしょうか?


お客様の事が気になって落ち着かない……けして、本の内容が難しくて飽きているわけではありませんよ。


兄様が王位を継いだ後、シュゼリアに戻るレスト殿が次にスタルジックに来る時にもケーキをお土産に持ってきていただけると約束してくださいました。


……ダメです。これではケーキだけが目的になっているみたいです。


開いていた本の内容が頭に入ってこないせいか、集中できていないだけです。


「は、はい」


雑念を振り払おうと大きく首を横に振った時、ドアをノックする音が響きました。

ドアを叩く音に驚いてしまい、声が裏返ってしまいます。

そんな私の声に何か言う事無く、普段、私の身の回りのお世話をしてくれている方がレスト殿と王城のメイドさんとは違うメイド服を身にまとった女性を部屋に案内してくれました。


「お久しぶりです。メリル様」

「お久しぶりです。レスト殿……あの、この方は?」


レスト殿と挨拶を交わすのですが、レスト殿が連れてきた女性の事が気になります。

女性はお部屋に入ってくると私に向かい深々と頭を下げた後にテーブルにケーキと紅茶を並べて始めます。

シュゼリアからレスト殿が持ってきてくださったケーキの準備をしてくれているとは想像がつきますが、なぜかぶつぶつと「大きさの問題じゃない。私だってまだいけるはず、私はまだ若い。成長の余地はあるはず……あるに決まっている」と何度もつぶやいています。

どういう意味かは良くわかりませんが彼女にとっては大切な事なんだと思います。


「……ミルア、落ち着け」

「ぜ、全然、気にしていませんよ!? 大きければ良いってわけでもないですし、か、形も重要ですし、小さい方が感度も良いって聞きますし!!」

「……頼む。落ち着いてくれ。お願いだ」


レスト殿に呼ばれて、女性は慌てているのですが何を言いたいかはまったくわかりません。

それより、ミルアさん? 確か、レスト殿の婚約者様でしたよね?


「お恥ずかしいところを見せてしまいました。紹介します。ミルア=カロンです。今はレクサス家でメイドとして仕えてくれています」

「ミルア=カロンです。初めまして、メリル=スタルジック様」

「メ、メリル=スタルジックです」


レスト殿からミルアさんを紹介してくれます。

ミルアさんは手を止めて深々と頭を下げてくれます。

その仕草はすごくきれいに見えて声を失ってしまうのですが……顔を上げられた時になぜか寂しげな表情をされます。

なぜ、レスト殿がミルアさんをお部屋に連れてきたのかがわかりません。

確かにミルアさんに会っては見たいと思っていましたが、まさか、会えるとは思っていませんでしたし。

あの寂しげな表情が気になります。

私が何か失礼な事をしてしまったのでしょうか?


「先日、シュゼリアに戻る際にアーガスト王から許可を貰っていたんです。メリル様に焼きたてのミルアのケーキを食べさせたいと」

「そ、そうなんですか? ……申し訳ありません」


レスト殿はミルアさんをスタルジックに連れてきた理由を教えてくれます。

そのお心づかいが嬉しくなってしまうのですが、それと同時に私のお腹の虫は小さく悲鳴を上げてしまいました。

最近は毎日、ザシド先生が休憩時間にケーキなどを差し入れてくれたから、くせになってしまっているんでしょうか?


「……あの、何か言っていただけた方がありがたいです」


顔に熱が帯びて行くのがわかるのですが、自分のせいではないと思いたくないとザシド先生の責任にしてしまいそうになる。

そんな悪い考えを振り払うように首を横に振る。

私が恥ずかしさを誤魔化そうとしていても、レスト殿もミルアさんも私の事を気づかってくれているようで笑うような事はありません。

レスト殿の場合は表情がまったく変わらないため、わからないだけなのかも知れませんがその優しさが辛いです。


「別に気にしてなどいませんが、それより、準備ができたようですのでこちらに」


それでも、レスト殿は気にする事はありません。

ミルアさんもメイドとしてのお仕事を遂行しようとしておられるようで表情を変える事はなく、準備を続けてくれています。

準備が終わるとレスト殿は私のイスを引いてくれます。

先日から学んでいる礼儀作法通りに行わなければいけないと思ってしまい、身体が強張ります。


……レスト殿の事ですから失敗しても気分を害する事はないと思うのですが、どうしても表情がないのが気になってしまいます。

それが私のぎこちない動きをまたぎこちなくさせます。


ど、どうしたら良いでしょうか? 私が失敗してしまえば兄様にもご迷惑をかけてしまいます。


どうして良いかわからずに助けを求めようとするのですがお部屋には私を含めて3人。

ミルアさん……レスト殿の婚約者と言う事ですが、今の彼女はメイド、あれだけしっかりとお仕事をされる方です。

このような場所では……


「レスト様、お顔が怖いです。メリル様が怖がっています」

「……申し訳ありません」

「レスト様、私が」


……おっしゃらないと思ったのは私の勘違いでした。

それもレスト殿はミルアさんの忠告をすんなり聞き入れてしまったようで謝罪の言葉をいただけるのですが、相変わらず、表情はピクリともしません。

謝罪の言葉をいただけても、身体が強張ったままです。

ミルアさんは私の状況を察してくれたようでレストを先に席に案内した後に私を席まで誘導してくれました。


「あの、ミルアさんはお座りになられないのでしょうか? できれば、ミルアさんからもシュゼリアの事をお聞きしたいのですが……」


レスト殿の向かい側に座ったわけですが……1人でレスト殿の正面に座るのは少し不安です。

先日は兄様やロゼット殿もご一緒でしたし、失礼な事はできません。

不安のためかレスト殿の後ろに控えているミルアさんに助けを求めてみるのですがミルアさんはこのような場所では自分のお仕事を遂行しようとしているようです。

私に向かい小さく頭を下げた後、ミルアさんは自分の立場では同席はできませんとおっしゃられるのですが……違うんです。

一緒にお話をして欲しいんです。


「ミルア、メリル様もこう言っておられるのだ」

「お、お願いします。レスト殿やロゼット殿からもシュゼリアのお話は聞かせていただけましたが、女性のミルアさんにもお聞かせいただきたいんです」

「……わかりました。失礼いたします」


レスト殿は私の心中を察してくれたのか、ミルアさんにも席に着くように促してくれます。


「私が留学ですか?」

「そうです」


ミルアさんが席に着いた後、レスト殿から今回のスタルジック訪問の理由を教えていただきました。

シュゼリアがスタルジックに出した条件の中に『次代を担う者を育てるためにシュゼリアへの留学を望む者を支援する事』と言うのが有った事を思い出します。


私が留学する理由があるのでしょうか?


たぶん、レオンハルト様に嫁ぐ準備のためにシュゼリアの生活を学ばせるためなんだと言う事は理解ができます。

でも……まだ、兄様から離れたくありません。

今はお忙しいから会うヒマもないから離れても替らないのではとも思ってしまうのですが、それでもまだ兄様の側に居たいです。

それが素直な気持ち……ですが、私がそんなわがままを言うわけにはいきません。

現状でスタルジックは多くの支援をシュゼリアから受けているのですから、私が断ればシュゼリアが兵を差し向けてくる可能性だってあるんです。

それとも……兄様は私を邪魔になったのでしょうか?


お部屋に来てくれなくなった兄様。

シュゼリアからの支援を得た事でもしかしたら兄様は私の事が邪魔になってしまったのではないかと言う思いが頭をよぎります。

その不安に胸が小さく痛んだような気がします。


「レスト様、ご説明が不足しています。メリル様のご不安を少しは考えていただけなければ困ります」

「そうか……メリル様、アーガスト王はメリル様の身の安全を考えてシュゼリアへの留学に納得していただけました」


私の不安は表情に出ていてしまったようでレスト殿はお話を続けてくれます。

ただ、私の身の安全と言われても良く意味がわかりません。


「現在、スタルジックはアーガスト王の下で問題ないように見えます」

「問題ないように見えますと言う事は問題があると言う事ですか?」

「メリル様」

「……ありがとうございます」


兄様も留学に納得済みだと聞いて自分の価値がなくなってしまったと思い、泣きそうになってしまいます。

何とか泣かないようにとドレスの裾を両手で握ってしまった時、ミルアさんは心配ないと言いたいのか、温かな紅茶を差し出してくれました。

差し出された紅茶を1口飲んで、何とか心を落ち着かせようとするのですが簡単には行きそうもありません。


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