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君へと贈る幸せの種  作者: 紫音
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一話

前作(同シリーズ)の登場人物も出てきます。

そちらを読まなくても問題なく楽しめるように書いていきたいと思っています。

昼間でも光りがあまり入ってこない薄暗い部屋。

王城の一室にも関わらず、この国の第3王女の『メリル=スタルジック』に与えられたのはそんな陰気な部屋だった。

メリルの母親は現国王の側室でも身分は低かったが、寵愛を受けていたらしい。

らしいとしか彼女は知らない。

彼女の母親は身体が弱かったらしく、メリルを産んですぐに体調を崩して亡くなった。

彼女の父親である現国王は寵愛していた側室を失ったのはメリルのせいだと歪んだ考えを持ってしまい、彼女を疎んじた。

そして、現国王の寵愛を受ける事ができなかった正妃は彼女の母親に向けた悪意のやり場をメリルに向けた。


殺される事はなかったものの、王族にも関わらず、薄暗い部屋で他者との接触を著しく制限された生活を送らされていた。

死んでしまえば良いと思われていた可能性も多大にあったが彼女は生まれてから、ずっとこの生活を続けていたのだ。

悪意を向けられてもそれが当たり前だとすでに頭がそうと認識している。

そんな彼女を不憫に思ったのは正妃の息子であり、この国の第1王位継承者である『アーガスト=スタルジック』だった。

彼は年の離れた妹を心配してヒマを見つけてはこの部屋を訪れ、国王や正妃、第1王女や第2王女(他の妹達)のスキを見ては彼女を部屋の外へと連れ出している。

アーガストにとっても他の妹達に比べて、素直なメリルが可愛いようであり、王城に仕える者達もわがままな国王達よりは年の離れた妹を大切に思うアーガストと可哀想なメリルに同情をしているようで2人の味方をする者が多い。


「メリル、起きているかい?」

「はい……兄様はずいぶんとお疲れのように見えます」


王族にも関わらず、平民と変わらない……もしくはもっと悪い食事をメリルが食べ終えてしばらく時が経った時、彼女の部屋をノックする者がいる。


返事をすると兄様がゆっくりとドアを開いて中に入ってくる。

兄様の表情は酷く疲れているように見えます。

心配になったため、駆け寄りってお顔を覗き込むのですが、兄様は心配ないと笑うと私の頭を優しく撫でてくれました。

ただ、笑顔はやはり影があるように見えます。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。メリルと話をしたいと思ったんだ。少し、私に付き合ってくれても良いかい?」

「はい」


兄様は時々、私にお話をしたいと言ってくれます。

ただ、兄様のお話は私には難しく、相手になれている気はしませんが私に話をする事で兄様は考えをまとめているようです。

私はお話を聞くだけしかできませんが大好きな兄様のためにできる事はすべてしたいと思って……ましたが今回のお話はどうやら大きすぎました。


傾いた財政をどうにかするために父様(国王)が長年、お世話になっていた隣国シュゼリア王国を裏切ってしまった事。

兄様は2度の流行り病でスタルジックが大変な時に自国も大変にも関わらず、多くの支援をしてくれたシュゼリア王国を裏切ると言った父様を止められなかった事。

どうやら、裏切った事がシュゼリア王国に知られてしまい、数日中にシュゼリア王国から使者が来ると言うのです。

最悪、2国間の戦争にもなりうる事態。

スタルジックは支援を受けていてもまだ国は傾いたまま、ですが、シュゼリアの国王は多くの民を愛し、多くの民に愛されている強国。

スタルジック国内には多くの問題があり、戦争を起こしてしまえばスタルジックは簡単につぶされてしまう。

兄様はそれだけの事をしてしまったと後悔しているように見えます。


「兄様」

「……大丈夫。メリルだけは絶対に守るから、メリルにはこんな狭い部屋の中ではなく、もっと広い世界を見せてあげるから、私の命に換えてでも」


私にはなんと兄様に声をかけて良いかわかりません。

でも、兄様の力になりたくてその大きな手をぎゅっと握る。

兄様は私の身体を抱き寄せて優しい声をかけてくれるのですがその声は震えています。


「……命に換えてでもなんて、言わないでください。私は広い世界より、兄様がいる世界が良いです」


私の世界はこの薄暗い部屋と兄様のいる世界……兄様がいない世界でなんて生きていけるわけがない。

困らせてしまうかも知れない。

でも、戦争になって兄様がこの部屋から私を逃がしてくれたとしても、私は外の世界では生きていけないでしょう。

それなら、大好きな兄様と一緒に最後の時を迎えたいと思います。


小さな私の決意。

大切な兄様のためなら、何もできない私でも勇気を出さなければいけないと思います。




……シュゼリア王国の使者がスタルジックに現れたのは3日後でした。

王城内はどこかピリピリとした空気が広がっており、王城の端にある私の部屋にも伝わってきています。

兄様は父様の補佐として使者の方達のお相手をするのが忙しいようで私の部屋には来てくれません。


何事もなければ良いんですけど……

兄様に会えないせいか、先日の兄様の言葉を思い出してしまいます。

まさか、おかしな事を考えてはいないですよね?


戦争が起きるかも知れない……それの直接の原因を作ってしまうかも知れない。

そう思うと兄様が心配になってしまい勇気を持って部屋を出ました。


そして、中庭に着いた時、目の前には1人の男性が立っていました。


初めて会う男性。

金色の髪は日の光を浴びて、きらきらと輝いており、その深い青色の瞳は空と同じ色をしていました。


……キレイな人。


見とれてしまったのか息を飲んでしまいます。

そんな私に男性は気づき、1歩ずつ確実に私に近づいてきます。

ただ、その表情はまったく動く事はない。

一見、不気味とも言えるのですがその瞳は兄様と同じように見え、不思議と怖くありませんでした。


「メリル=スタルジック第3王女ですね」

「はい……あなたは?」

「……お初にお目にかかります。シュゼリア王国から参りました。レスト=レクサスと言います」

「あ、あの。メ、メリル=スタルジックです」


男性はやはり、シュゼリア王国の使者であり、名をレスト=レクサス殿と言いました。

兄様の話からもっと怖い人だと思っていた私は一瞬、呆気にとられてしまいました。

そんな私の事など気にする事はなく、目の前のレスト殿は私のような者にまで深々と頭を下げています。

レスト殿の突然の行動に慌てて頭を下げる。

2人で頭を上げた後になぜか胸の奥から小さな笑いが込み上げてきてしまうのですが、隣国から使者様相手におかしな事をするわけにはいかない。

なぜなら、目の前のレスト殿の表情には全く変化などないからです。


「気にする必要はないです。笑いたいのならば笑ってくれてかまいません」


笑いを必死に抑え込もうと頑張るのですが、やはり、口元が緩んでしまいそうになります。

レスト殿は気にする必要はないと言ってくれるのですがその表情は微動だにしていない。

絶対に笑ってはダメ……レスト殿は隣国の使者。

私が彼を笑った事を他の方に見られては争いの種になってしまうかも知れない。


「……私の表情筋は完全に固まっていると良く言われますので気にしないでください」

「レスト殿、こちらにおられましたか……メリル? どうして、中庭ここに? 下がっていなさい」


レスト殿は表情を変える事無く、冗談を言う。

そのご冗談に我慢しきれずに吹き出してしまった時、レスト殿を探していたのか兄様が護衛を連れて中庭に現れました。

私とレスト殿を見て、兄様は慌てて私に駆け寄るとレスト殿から私を守るように間に割って入ってしまう。

兄様はレスト殿を怖い人と勘違いしているようです。


「レスト殿、王城内を勝手に歩かれては困ります」

「申し訳ありません。慣れないもので道に迷ってしまいました」

「それならば、どこかに行く時は城の者に声をかけてください。レスト殿に何かあっては、シュゼリアに申し訳がありませんので」

「それは私に何かしようと考えている者がスタルジックにいると言う事でしょうか?」


兄様はレスト殿を警戒しているようですが、レスト殿は表情をまったく動かす事無く、ご冗談をおっしゃっています。

使者であるレスト殿に何かあってはシュゼリアへの弁明もできません。

兄様はこの国のためにもレスト殿の身の安全を守りたいと伝えたいようですが、レスト殿は意地悪な質問を返し、兄様は顔には出してはいませんが困っているように見えます。


「レスト殿、ご冗談を言うのでしたら、もう少し表情の方を」

「いや……メリル様には先ほども言いましたが私の表情筋は固まりきっているらしいので、嘘だと思うのでしたら供の者にも尋ねてくれると助かります」

「……ご冗談ではなかったのですか?」


兄様の背中から顔を覗かせて、レスト殿に意地悪は止めて欲しいと頼むのですが、どうやら、レスト殿は嘘など吐いていないようです。

表情にはまったく出てはいない物の、落ち込んでいるようで声は少し沈んでいるように聞こえます。

念のために確認をするように聞くとレスト殿は小さく頷いてくれるのですが、兄様はどうして良いのかわからないようで険しい表情をされています。


「どうやら、おかしな気を使わせてしまったようですね。謝罪の意味を込めまして、私の部屋でお茶でもいかがでしょうか? 部屋にはシュゼリアから持ってまいりました。ケーキもありますので」

「……ごちそうになりましょう。メリル、お前は部屋に」

「メリル様が王城を歩くのは都合が悪いんでしょうか?」

「そんな事はありません。メリル、せっかくだ。ごちそうになろう」


心配をかけてはいけないと部屋に戻ろうとするのですが、レスト殿は私を引き止める。

兄様はレスト殿が何を考えているのか理解できないようですが気分を害されてはスタルジックの不利になるかも知れないと考えているようで、レスト殿の言葉を受け入れてしまいます。


その日、ケーキと言う物を初めていただきました。

甘くてとても美味しいものでした。

そして、レスト殿がシュゼリアに戻った日から、私のお部屋は兄様の隣の大きな部屋に移動させられる事になり、多くの者達から礼儀作法など今まで知らなかった物を教えていただく事になりました。


題名は『ドラジェ』と言うお菓子からいただいています。

どんなものか気になる方は各自、お調べください。

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