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限りなく水色に近い緋色【原作版・連載中止】  作者: 尾岡れき
第2章「使い捨てられる廃材たち」
19/48

16

 ――――そんな生半可な能力で、誰かを助けられると思ってるの?






 ひなたは、シャープペンシルの動きを止めて、思考に囚われる。


 転校間も無いひなたは、課題が山盛りなのだ。高校を転入するという事は生半可な事では無い。一度、入試で合格した結果を捨てて、再度試験を受ける。要は再入試にも近い。落ちたら、それでジエンドの可能性も高いし、学校によってはそもそも編入を受け付けない場合もある。そのリスクを背負っても、【遺伝子特化型サンプル】である事を秘匿する事が、今までのひなたの生活の安寧だった。


 だから――――。


 自分の行動に驚く。隣で自分の課題に集中している桑島ゆかりに目を向ける。ゆかりの存在も大きい。でも何より、今だけ不在の爽の存在がひなたを揺り動かす。


 爽がくれたペンダントを握る。


 感覚神経が爽は然程遠くではない場所にいる事を示す。”ざわざわ”ではなく”ふわふわ”とでも表現すればいいか。ペンダントに手を触れるだけで、爽がまるで近くに居てくれる錯覚すら、思わせる。

 誰かを助けたい、なんて思った事はなかった。むしろ――――その視界に入らないよう、誰かと距離を近くしないよう努力し続けてきた。誰かを自分の能力で傷つけたくないその一心で。


 だが爽は、そしてゆかりは、その距離をいとも簡単に縮めてくれた。自分の背中を押してくれた。手を伸ばしたいと思った。その手を伸ばす事が少なからずできた。でも――――。


 そんな生半可な能力で。


「宗方さん?」


 と目の前に座る金木涼太がひなたを覗きこむ。隣のゆかりが、そんなひなたを見てクスリと笑った。ひな先輩、昨日の事考えていたでしょ? と。


「え?」


 ひなたは顔を上げる。思考に囚われ過ぎて、課題が進んでない。クラスの優等生、涼太が協力してくれるというのに、どうして自分はこんなにも後ろ向きなんだろうか。涼太は表情を曇らせて、ため息をついた。


「あ…あの……金木君、ごめんなさい」


 ひなたは本当に申し訳ない気持ちで頭を下げる。涼太は再度、ため息をもらした。


「え?」


 怒らせたのかと思い焦る。それはそうだ。勉強に追いつくのに必死になるべきなのに、心ここにあらずでは、先生役を折角買ってくれた涼太に失礼だ。そんな当たり前の事すら察せられない自分が本当に嫌になる。


 と涼太の隣で、ファッション雑誌を読んでいた野原彩子が小さくだが、おかしそうに吹き出した。


「野原、ここは笑う所じゃない」


 涼太は苦虫を噛み潰したような表情で言う。


「図書室だからって笑わないでください、というルールはなかったと思うけど?」


「そういう意味じゃない」


「折角、水原君がいないから、宗方さんと仲良くなれるチャンスなのにね。宗方さんは水原君の事ばかり考えているようだし」


「そんなヨコシマなこと思ってない」


 淡々と――――でも涼太はさらに不機嫌に睨みつける。


 一方のひなたは二人の会話を聞いて、どう答えていいか分からず口をパクパクさせる。そうなのだろうか? どうなのだろう?


 確かに、どうしても思考に囚われてしまうのは、爽の事が中心だ。彼がひなたを肯定してくれる。それは大きい。そして爽が【支援型サンプル】であるにも関わらず、ひなたは爽に守られている事を実感する。爽が隣にいてくれるだけで、体の緊張を解く事ができる。この短い日数の中で、ひなたにとっての爽はかけがえのない存在になったと言える。


 だからこそ――――。


(これじゃ、ダメ)


 ひなたは思う。自分から見ても爽のサポートは完璧だった。それに応えられなかったのは自分。そして言い出したのも自分。チカラを出し切れなかった自分。敗因は自分が招いた。羽島を救えなかったのは自分。


 ひなたは水原茜のステップを思い返す。


 それはとてもリズミカルで、軽くて、まるで翔ぶようで。一瞬でひなたへ間合いを詰めて、その手を伸ばす。その一瞬に戦意を叩きつけて――――。


「ひな先輩、集中。課題、終わらないよ?」


 ゆかりが、ひなたの頬を両手で軽く抓る。ひなたは目をぱちくりさせた。ゆかりの目は言う。諦めないよ、私は。

 ひなたは戸惑いつつ、課題に目を通す。


「悔しいなぁ」


 とそれを見て彩子が言った。


「え?」


「宗方さんと仲良くなった人が、水原君以外では後輩ちゃんだって事がね」


 彩子はにっと笑う。その手をひなたに差し出す。ひなたは意味が分からない。


「あくしゅ」


 さらににっと、彩子は笑う。ひなたはおずおずと、その手を握った。片手でペンダントを制服越しに握る。能力が暴走しませんように、暴れませんように。それだけを祈って。


 ひなたの心配を他所ヨソに、能力が暴走することはなく安堵の息を漏らす。それを見て、彩子はまるで子どもをあやすように、髪を撫でた。


「みんなね、宗方さんと仲良くなりたいって思ってる。残念なのは、爽やか王子が宗方さんを独占してるって事だけど、私とも仲良くしてくれない?」


 爽やか王子とは水原爽の事を言っているのだろうか? 言い得て妙とはこの事か。確かに爽はその異名がぴったりな気がする。するが――――。


「え? わ、私でいいんですか?」


 思わず出た言葉がそれで、その場にいた全員が苦笑する。


「宗方さ――――まどろっこしいな。もう、ひなたって呼ぶよ? 私はひなたと仲良くなりたい。爽やか王子が執着する理由も気になるけど、そうだね」


 じっと、彩子はひなたを見る。


「癒される、かな」


「へ?」


「ひなたと話していると、優しい気持ちになる。ひなたは分け隔てなく誰彼にも気にかけてくれるから」


 と彩子は優しく笑む。

 だが、ひなたには意味が分からなかった。


「野原さんの方がいつも私に声をかけてくれるから……私のほうが……その、励まされてる」


 羨ましいと思う。彩子は活発で、常にクラスの中心にいる。爽以外で常に気にかけてくれている存在がいてくれる事に甘えてしまいそうで。


「ひなた……お前って子は……」


 彩子は思わず、食い入るようにひなたを見つめる。


「カワイイ、可愛すぎる!」


 立ち上がった彩子にひなたはいきなり抱きしめられて、目を丸くした。


「え? え? え?」


「でしょ、先輩。ひな先輩、可愛くて可愛くて。もう食べてしまいたい」


「爽やか王子の追っかけすら虜にする可愛さだもの、無理ないね」


「良きライバル関係だと思ってます。でもひな先輩の可愛さは捨てられない!」


「分かるよ、その気持ち!」


 と何故か彩子とゆかりは、強く握手を交わしていた。最早、ひなたは置いてけぼりだった。


「……一応、僕もひなちゃんと仲良くなりたいって思ってる人間の一人なんだけどね」


 涼太がボソリと呟く。


「あ、はい。喜んで! こちらこそお願いします!」


 ひなたがペコリとお辞儀をして涼太の手を握った。涼太は小さく頷く。


「……よろしく」


 ひなたは涼太の表情を覗う。心なしか、顔が赤い。


「金木君、風邪ですか?」


「え?」


 すっと、涼太へ顔を近付ける。慌てて涼太は顔を逸らした。


「顔が赤いから。私の課題を手伝ってくれるのは嬉しいけど、金木君が体調崩したら申し訳ないから、無理しないで」


「し、してないから大丈夫、ちょっと暑いだけ」


「本当?」


 首を傾げて、再度確認する。涼太が何回も頷くので、ひなたはやっと安心して笑う事ができた。











「この童貞、下心が見え見えだよ」


 ボソリと彩子が涼太にだけ聞こえるように呟く。


「う、うるさいよ。だいたい、なんで野原が居るんだよ?」


 今さらながらの疑問を出しながら、小声で涼太も応酬する。


「私はひなたと仲良くなるチャンスを狙ってたから。この学校の生徒なら、図書室は誰が利用してもいいでしょ?」


「勉強のジャマをしない事と公共マナー守ってくれたら何も言わないよ」


 つまり静かに黙ってろ、と言っている。


「ふぅん。優等生も必死になる時があるんだね」


 意味深に涼太と、それから意図を理解していないひなたを見やる。


「しかし、爽やか王子が相手とは難儀だね」


 と楽しそうに、そして後のことは涼太に任せたと言わんばかりに、再びファッション雑誌に目を落とした刹那、ゆかりがひなたの耳元に唇を寄せた。


 ひなたは、拳を握りしめ宙を見るその目は何かを決意したかのようで。


 ゆかりがその拳に手のひらを重ねる。

 桑島ゆかりは確かに、こう呟いたのを彩子は聞いた。


 ひな先輩は一人じゃないから。だから私も諦めない――。


(諦めない、か)


 学生なんて夢をどれだけ諦めるか、それに尽きる生き物達だと思う。現実に直視せよ進路を見定めろ勉学に励め高望みをするな、教師や大人が声高に叫ぶのはそういう事で。


 彩子は達観しすぎている、と思う。それでも内気で純粋なこの転校生は、何かを巻き起こしてくれる気がすると思うのは、ひなたを買い被り過ぎか。

 それが実験室のサンプル達が相手だとしても。

 凉太のひなたへの熱のこもった視線を感じつつ、漏れた苦笑が誰に向けたモノだったのかは、彩子自身にも分からなかった。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爽は情報処理室のドアを開ける。パソコンが並ぶ中、教師が座る最前席に水原茜が座って、キーボードを叩いていた。見ると、情報処理室の全てのパソコンが起動しており、同時進行で情報を検索、分析、言語がスクロールしていく。茜自身による感覚撹乱プログラムにより、決められた人間しか入室できない。昼間から実験室がらみで情報処理室を専有できる理由がココにある。


 爽にとっては見慣れた光景だが、非常識である事には変わりない。


「爽君、待ってたよ」


「一切の拒否権も無いと豪語されて、待ってたよは無いんじゃないの、姉さん?」


 小さくため息をつく。この姉に反抗しても意味は無いのは承知の上での悪態だ。茜は楽し気に笑むだけでどこ吹く風なのは予想通りで。


「愛しの宗方さんが心配? 一応、【デベロッパー】が監視はしてくれてるでしょ?」


「あいつはサンプルじゃない。緊急時の対処はできないよ」


「そうね。でも、緊急時の対処ができないとなると、特化型サンプルとしての存在価値は無いにも等しいけど?」

 にっこり笑みながらも、パソコン操作の手は緩めない。茜が分析しているのは、昨日の警察署を出てからのひなたとの一幕――――それは挨拶というよりは、挑発にも等しかったが――――全パソコン、そしてスクリーンに昨日のリプレイが映し出される。爽は表情一つ変えず、茜から離れ生徒席についてモニターを見やる。


 茜は弟の反抗心を汲みながら、満足そうに笑んで映像を再生させた。






「そんな生半可な能力で、誰かを助けられると思ってるの?」


 茜は笑顔でひなたに、容赦なく通告した。ひなたの表情が凍りつくが、茜はお構いなしだった。


「察してるかもしれないけど、僕は元実験室の研究者トレーこと、水原茜。今後ともお見知り置きを、と言いたいけど……宗方さん。そんな生半可な能力じゃ、誰も助けられないよ?」


 茜は一歩、詰める。


「申し訳ないけれど、爽君を守るために僕は僕で監視させてもらっていた。爽君の戦略立案もツメが甘いけど、貴女アナタが一番、考慮を要する。特化型サンプルの力に溺れているのか、過信しているのか。どちらにせよ、中途半端な能力だから、【廃材】スクラップ・チップスですら追い詰められない。今の貴女は、研究者である僕にすら劣るよ?」


「姉さん!」


 爽が思わず声を上げたが、それを茜は手を上げただけで静止する。


「爽君は少し反省する事。君は単なる支援型サンプルじゃない。限りなく水色に近い緋色の【デバッガー】である事は分かっていたはず。君の仕事は、調整とサポート、戦略ストラテジーの立案で、勝率を50から確実な100にする事で。繰り返すけど、君の仕事は戦闘型サンプルと同ライン上での共闘ではないよね?」


 爽は言葉を詰まらせる。姉の言葉の意味を吟味するまでもなく、痛感する。不安定な【遺伝子特化型サンプル】を支援する特化型サンプルがまず最初にすべき事は【調整】コーディネートに他ならない。ひなたは自分の力も調整できず、試験稼働もできず実戦に突っ込んだ。その責任は爽にある、と茜は言っている。【調整】が完全にできない環境であれば実戦を避ける。その為のお膳立てこそが、爽に求められた仕事なのだ。


 その一方で、茜はひなたの弱点を一番最初にストレートに突いてきた。


 結局は、初戦で機能停止にできなかった事、それこそが原因であると。特化型サンプルでありながら廃材を機能停止にできなかったのは、ひなたの甘さに他ならない。


「もっとも、実戦も訓練も調整も無いに等しい宗方さんに、そこを突きつけるのは酷である事は重々、承知している。だからね、これは僕の提案なんだけど――――」


 茜はひなたを見る。先程までの社交的な笑みが消えた刹那、悪寒が走る程の冷たさがこの場を支配する。茜がもう一度笑って、その緊張を自らで消す。それは茜の剥き出しの敵意に他ならなかった。


「今回の件はこれで諦めて」


「え?」


 ひなたは茜を見る。茜は笑みを絶やさないが、結論を譲るつもりは無いと明確な拒絶を示していた。つまり元プロ野球選手・羽島の救出を断念せよ、と言う。


「結論は一つ。宗方さん、貴女には能力があるが勇気が無い。傷つける勇気、傷つく勇気、チームを信頼する勇気、自分自身を信頼する勇気、現状を変える勇気も、ね」


「ひな先輩の弱さは私が埋め――――」


 ゆかりの援護すら、茜の目の瞬きで消される。


「桑島さんは空気が読める子で助かるね。今、桑島さんには意見を求めていないから。それと弱さを埋める関係はチームじゃない。それは――――」


 ゆかりの目の奥底を覗き込み、小さく笑んだ。


「ただの戯れ合いだよ?」


「姉さん!」


 爽が声を荒らげたが、茜のペースは変わらなかった。


「一つ間違えば、全滅。全員死亡のシナリオも有り得た。口惜しいかな、遠藤さん達警察に借りを作ったカタチになったけど、彼らの助力で君たちは九死に一生を得たのは間違いないよ? 国民国防委員会と対峙した時、爽君含み余力はどのくらい残っていたのか、あえて聞きたいね。君たちの生存率は何パーセントだった?」


 茜の言葉に誰も答えられない。重い空気こそが全ての答えだ。ひなたは唇を噛み締めて耐えるように、でも目を逸らさず茜を見ていた。


「一つ、テストをさせてね」


「え?」


「そんなに難しいことじゃないよ。僕が踏み込むから防御してくれたらいい。なんなら能力を使ってもいいし、僕を殺すつもりで先手を打ってもいい。僕は研究者トレーではあるけれど、遺伝子研究サンプルにじゃないから、防ぐのも容易なはずだよ」


「え? え? え?」


「ひなた、気を付けろ! 姉さんは剣道有段者だ!」


「え――――」


「遅いよ」


 と呟く声と同時だった。たん、と軽い足音をアスファルトに鳴らす。ひなた達しかいない閑散とした路上で、乾いた風が吹き抜ける刹那、茜はすでに動いていた。


 ひなたが反射する前に、茜は賞底をひなたの首に打ち付ける一歩手前でモーションを止める。


「爽君の過保護。宗方さんにファイアーウォールを張ったね」


「…………」


 爽は無言で姉を睨む。そんな弟もカワイイと言いた気に茜は柔らかく笑む。だが次に発した言葉は、何よりも現実の厳しさを三人に突き付けてきた。


「もう一度、言うね。そんな生半可な能力で、誰かを助けられると思って――――」






「ここで止めて、少し映像を戻すよ」


 と茜はキーボードを操作する。茜が賞底をひなたに打ち込もうとする直前で止めた。さらにキーを打ち込む。プログラムの羅列がそれぞれのパソコンに津波のように表示されては流れていく。


「不可視物理防御壁・ファイアーウォールを爽君が張るのは予想の範疇だったんだよね。ただ枚数が三十枚の検知は、少し少ないんじゃない? 余力がほとんど無かったって事だよね。今回の作戦立案、戦況把握、指示命令系統に課題、やっぱりあると思うけど?」


「それは昨日散々聞いたし、反省しただろ!」


「お詫びとお礼のチュー、まだされてないよ?」


「弟にお詫びとお礼のチューを要求するなよ」


「僕からしてもいいけどね」


「しなくていいから!」


「宗方さんとなら?」


「い、今、それは関係ないだろ!」


「その様子じゃ、まだなんだね。爽君が意外にウブで安心した。宗方さん、鈍感っぽいし、これはお姉ちゃんにも勝機があるね?」


「あるわけないでしょ!」


「爽君が冷たい。およよよよ」


「わざとらしい嘘泣きやめて欲しいんだけど」


「と言ってる間に分析終了」


 と文字の羅列が画面上の繰り返しが停止する。映像の中では、ひなたと茜の接点ギリギリの所で青白い光が色付けられていた。


「ちなみに爽君のファイアーウォールがこれ」

 とさらに茜側に緑色の光が明滅する。爽は無言で画面上の光を見やる。その表情は心なしか嬉しそうに唇を綻ばせていた。


「実に興味深い。擬似重力による防御壁のように見えるけど、そうじゃない。彼女は本能的に攻めに出てる。初撃を重力で無力化させた上で、標的を重加圧で間髪入れずに叩き潰す。そうでなければ、重力変動帯の広さを説明できない。まさしく速攻の反撃(カウンター)だね。ますます、面白い。これをまともに直撃したら、骨を叩き潰されるぐらいじゃすまなかったかも」


「姉……さん?」


「問題なのは、これが潜在的本能なのか、能動的意思決定なのか。どちらにせよ研究対象として興味深いね」


「多分……ひなたは両方だよ」


「ん?」


「ひなたはまだ自分の能力を知らない。俺自身、サポートしていてとらえどころが無い。でも、力を使う意志は自分の為ではなく、誰かの為にある。それが実験室に対して無謀か自殺行為かは別にしても――――ひなたの誰かを助けたいという意志は尊重したい」


「ふぅん」


 茜はデータを眺めつつ、次の作業に移行しようとしていた。画面には数多の文字の羅列が走りだす。


「いいんじゃない? どっちにせよ実験室をぶっ潰さないと、ひなたちゃんには未来は無いし」


「…………」


「でもその為には君達はまだ力不足。【調整】も必要だけど、それ以前に

【基底増強】スペックアップが必要。だから、今回の件は実践演習の覚悟で爽君は作戦立案する事。いい? 今の宗方さんで勝てる作戦立案を、だよ? できる?」


 爽がコクリと頷いた瞬間――――それは歪みのように、爽の感覚を駆け巡った。実験室の能力者特有のナンバリング・リンクスだ。何者かが能力を行使したのは間違いない。爽はペンダントを握る。とりあえず、ひなたに異常は無いのを遠隔で確認して、安堵する。


「爽君【デバッガー】から緊急メール来てる。ナンバリング・リンクスは?」


「来た」


 それだけ言って、ひなたの元に駆けつけようと――――したその手をぐいっと、茜は引っ張った。


「君って子は、宗方さんが絡むとどうして冷静じゃなくなるかな」


「今、そんな事言ってる場合じゃ――――」


「場合だよ。ナンバリング・リンクスの感知条件を言ってごらん」


「……実験室サンプルによる能力稼働を表す。実験室サンプル同士の連携の為の感覚感知機能で……」


「まだあるでしょ?」


「ある程度のサンプルはリンクを抑えられるけれど、廃材レベルはナンバリング・リンクスを抑えられない」


「うん、正解。付け加えると、量産型サンプルもそうなんだけどね。つまり、ナンバリング・リンクスはあくまで参考情報であって戦況分析の材料にはならない。いいね?」


「わかった」


 爽はコクリと頷く。スマートフォンを手に情報検索を開始しながら駆け出した。緊急メールは爽にも配信されている。後は爽が【デバッガー】としての行動を示すのみで。ペンダントからひなたからの発信もあった。迷う事は何も無い――――。


 茜はそんな爽を見ることもなく、パソコンの操作に注力する。


「実験室の監視システムへのハッキング終了…っと。ビーカー、随分好戦的に手を打ってきたんじゃない?」


 キーボードを流れるように打ちながら、【弁護なき裁判団】の監視システムのロックを次々と解除していく。無論、茜なりの【弁護なき裁判団】へ向けての挑発に他ならない。彼らが動く、それもまた既定路線、予想の範疇だった。


「動いたのは、国民国防委員会か……がんばれ爽君、宗方さん」


 そう呟いて、茜はもう一度愉し気に、にんまりと笑んだのだった。

次回、限りなく水色に近い緋色

来襲したのは国民国防委員会。思惑と謀略を束ねながら。




ひなた「2ヶ月異常のご無沙汰でした。本当にすいません」

爽「作者、悩みながら書きあげた回……という割にはゲームの字が……」

ゆかり「そんな作者からお詫びの手紙が届いてます」

爽「殊勝だね。読んでみよう」





ごめんにゃんミ◕ฺv◕ฺ彡




爽「……反省する気あるのか」

ひなた「あると思います。もう次話、この勢いで書くと言っていたので」

爽「本当にごめんさい! ってなんで俺らが謝らないといけないのか釈然としない」

ゆかり「ではここで気分を変えて、診断メーカーで『好きな人に壁ドンされちゃった…///』いきたいと思います。今回はご無沙汰でしたが私です!」



診断メーカー『好きな人に壁ドンされちゃった…///』

http://shindanmaker.com/482693


桑島ゆかりは壁ドンされると…

!?/// となります。


爽「普通だ……」

ひなた「普通だね」

ゆかり「ちょ、待って! 何普通って!!」

ひなた「ギャグ要員の反応じゃないね」

爽「無いな」

ゆかり「ひどい、ひどすぎる! 水原先輩のもやってやる!」


水原爽は壁ドンされると…

え?え?え? となります。


ひなた「反応、カワイイ……」

ゆかり「一番の乙女キャラとかってフザケルナ!」

爽「……どうしろと」

ゆかり「作者に気合いれて更新遅延させない係」

爽「無理っぽいぞ、今からゲームとかほざいてるようだし……」

ゆかり「今から電撃ぶっ放してくる」



……お読み頂き有難う御座いました。



■■■


2014.12.20

感想欄よりご指摘あり修正しました。


>調整とサポート、戦略ストラテジーの立案で、勝率を50から確実な100にする事であると。戦闘型サンプルと同ライン上での共闘ではないよね?


戦略ストラテジーの立案で、勝率を50から確実な100にする事で。繰り返すけど、君の仕事は戦闘型サンプルと同ライン上での共闘ではないよね?


>これは僕の提案だんだけど


▶これは僕の提案なんだけど


です。矢口様ご指摘有難うございました。お読みいただいている皆様、今後とも宜しくお願いします。


作者 拝

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