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同じ夜の夢は覚めない 3  作者: 雪山ユウグレ
第6話 悪夢の蝶
24/42

3

 女王との謁見を終えたるうか達はそれぞれに一間ずつの客室を宛がわれ、ひとまずはそこで休息を取ることになった。そうは言ってものんびりしていられるはずもなく、銘々に茶菓子などで一服した後で自然と頼成の部屋に皆が集まる。なんでここに、という頼成の愚痴をさらりと無視しながらまず湖澄(こずみ)が口火を切った。

「どうやら、この城全体に強力な結界が張られているようだ」

 そう言うと彼はどこからか紙を取り出してこれまで歩いて判明した限りの城の見取り図を描いていく。彼が言うには、玉座の間を中心として同心円を描くように幾重にも結界が張られているということだった。そこに佐羽が頼成のベッドに腰を下ろして足をぶらぶらさせながら面倒臭そうな口調で付け加える。

「結界もそうだけど、もっと厄介なのは呪いだね」

「……呪い、ですか?」

「そう。るうかちゃん、あの女王様が友達かどうかは分かった?」

 尋ねた佐羽に尋ね返され、るうかは戸惑いながらも確証は持てなかったと素直に答える。でしょう、と佐羽は頷いた。

「いくら仮面をつけていたって、いくら口調や服が変わっていたって、仲のいい友達だったら見破れるものだよ。でもあの仮面にはその確信を惑わすような呪いがかけられている。きっと彼女自身、自分が現実で誰だったのかが分からない状態なんだろうね。それでもるうかちゃんの姿を見て、声を聞いて、きっと何か感じるところはあったはずだ。呪いを解くことも不可能ではない、と思うんだけど……」

 そこまで言って、佐羽は急に歯切れを悪くする。頼成が溜め息をつきながら後を引き取った。

「あの女王様がもし自分の本当のことを思い出したら、きっと色のない騎士の粛清対象になるんだろうな。騎士の口振りじゃ純粋無垢な女王こそがこの国の要だって感じだった。そこに“個”は必要ないんだろう。あの騎士が一度も俺達に名前や素顔を明かさなかったようにな」

 この国は仮面の国なんだ。そう言って頼成は自分のベッドに腰を下ろしている佐羽を押しやってその横に座った。るうかは空いている椅子に腰掛け、湖澄もまたその向かいの椅子に腰を落ち着ける。

「それで、どうする。結界そのものは城を守る働きをしている。もしも外で黒い蝶の影響によって“天敵”が出現したとしてもある程度は食い止められるだろう。騎士達も相当の手練れだ」

「できれば“天敵”が発生する前に何とかしたいところだけどね。あの騎士に聞けば今までにどれくらいの被害が出ているかは分かるんじゃない?」

 佐羽がそう言って小さく肩をすくめる。

「そうは言っても、このお城の中であの騎士を捜すのは難しそうだけどね」

「ああ。騎士も召使いも兜と仮面で顔を覆って個性を殺している。何故そうまでして“個”を消さなければならないのか……これまで虹色の女王の領地に踏み入った者自体が少なすぎて情報がまるでない。黒い蝶や“天敵”への対処もそうだが、女王の正体を明らかにするにはまずこの国の仕組みを理解することから始めなければならないだろう」

 湖澄の言葉に、向かい合って座るるうかは難しい顔で頷いた。彼女としてはあの女王はやはり理紗なのだろうと思う。しかし決め手はなく、またるうか自身も「違う」と言われればそのような気がしてくる程度の曖昧な感触しか持つことができていない。果たしてあれは本当に理紗なのだろうか。

「……じゃあ、まずは情報収集といくか。城の中での聞き込みは難しいかもしれないが、都ならまた別だろ。二手に分かれて城と都、両方で話を聞いてみよう」

 頼成が言い、異論は出ない。るうかは頼成と共に都へ降りて住民に話を聞くことにし、佐羽と湖澄は城の探索をすることになる。

「って、そう言えば聞こえはいいけどね。頼成ったらただ単にるうかちゃんとデートしたいだけなんじゃないの?」

 佐羽が混ぜ返すようにそんなことを言い、一瞬頼成が顔を赤くする。そこにさらに湖澄が追い打ちをかける。

「健全なことだろう。好きな相手と2人きりで出歩きたいと思うのは当然のことだ。俺やお前のような邪魔者はいない方がいいに決まっている」

「わぁ……湖澄もはっきり言うね」

「お、お前らな! 真面目に聞き込みしろよ!?」

 ついに怒鳴った頼成の隣でるうかは耐えきれずにぷっと吹き出す。向こうの世界での出来事、それに佐羽の怪我については気になるが、ここでこうしている分には心配も無用なようだ。それが嬉しいやら落ち着かないやら不思議な気分だったが、それでもるうかにとっては救いになっていた。

「まったく、佐羽はいつものことだとしても湖澄の奴は素でああいう言い方をするから余計に性質が悪いんだ」

 都へと向かって城の廊下を歩きながら頼成がそんな愚痴を言う。るうかはその隣でくすくすと笑い、「仲がいいんですよね」とわざわざ確かめるように言ってみた。すると頼成はるうかの予想通りに顔をしかめながらも頷く。

「ああ、もう今更何を言われたってそういう連中だって分かっているからな。……まぁ、湖澄とまたこんな風に話せるようになったのはあんたのおかげだ。それは本当に感謝してるよ」

「あの時は落石さんも必死だったんですよ。ああ見えて、落石さんもすごく仲間思いですよね」

「そうだな……あいつももうちょっと自分ってもんを大事にしてくれりゃあ、こっちの心配も減るってもんなんだが。まぁ、そういう性分なんだから仕方ないってことでしょうかね」

 頼成は溜め息をつきながらそんな風に友人を語った。見張りの騎士に断りを入れてから2人は城を出て、その小高い丘の下に広がる都へと足を踏み入れる。城を中心にぐるりと円を描くように広がった街並みは整然としており、この世界にある他の街と比べて家々の区画が随分と丁寧に整備されていた。どうやらこの街は小さな街が徐々に発展していったのではなく、初めから綿密な土地利用計画の元に組み上げられたものらしい。道と道が交差する箇所には必ず番号を書いた木製の札が掲げられ、似たような景色が続く街の中でも現在地を把握できるようになっていた。

「珍しい造りの街だな。まるで向こうの世界みたいだ」

 頼成がそう言って、るうかも頷く。向こうの世界でるうか達が住む日河岸市は元は川沿いに小さな集落が点々とあるだけの場所だったのだが、ある時を境に大規模な都市化計画が持ち上がり、そこから一気に街として発展していったのだという。そのため日河岸市の中心街はほとんど碁盤の目状に道路が敷かれ、現在地が東西南北の番号ですぐに分かるようになっている。イールテニップの都の造りは四角と円という違いはあれど確かにそれによく似ているように思えた。

 都は賑わっていた。通りには様々な物品を扱う店が軒を並べ、人々は活き活きと働いている。またこの世界の他の街と異なり、薬草やそれを精製した薬剤を売る店が多いのが特徴的だった。中には医院の看板を掲げた店もある。治癒術師が色のない騎士によって粛清されるというこの国では病気や怪我に対する処置として薬や外科的な手術に頼る他ない。それ故にこのような店が多く並んでいるのだろう。

 その中に一際大きな建物があった。看板に書かれた文字は“イアナロアン・ホーム”と読める。その下に小さく書かれた但し書きによると、どうやらここは年老いて動けなくなった人や重い病気の人々が医療や看護、介護を受けながら暮らすための施設のようだった。頼成は少し考えた後、「ここで話を聞いてみよう」とるうかに提案する。るうかは素直に彼に従った。

 建物に入っていく彼女達の背後で黒い蝶が2匹、ひらひらと通りを舞っていった。

 建物は白壁の清潔なもので、内装は少しだけクリーム色がかった落ち着いた色合いで統一されている。中に入るとすぐに受付があり、小綺麗な格好をした施設の職員が訪問の目的を尋ねてきた。

「旅の者だが、この国についての歴史や文化なんかの話が聞きたい。ここにはそういうのに詳しい人はいないか?」

 頼成が言うと、職員はそういうことならいい人がいると言ってるうか達をある部屋へと案内してくれた。そこは施設の中でも中庭に面した景色のいい部屋であり、中にはたくさんの小物や絵、良い香りのする花やお茶の缶がたくさん置かれていた。そしてその奥に大きなベッドがあり、そこに1人の老婆がゆったりと腰掛けていた。

 老婆は職員の呼び掛けに応えてるうか達の方を向く。そして少し驚いたような顔をしてからその顔をくしゃくしゃと歪めて笑った。顔中に刻まれたしわの1本1本が深く、そしてその満面の笑みの深さが彼女の年齢を物語る。

「珍しいね、お客様だなんて」

 老婆は年老いた見た目の割には随分としっかりした声音でそう言い、頼成を見上げて「いい男っぷりだね」と楽しそうに笑う。

「あ……ええと、初めまして。俺は頼成っていいます。こっちはるうか。旅をしていて、この国の歴史や文化に興味があるもので、よければ話を聞かせてもらえますか」

 頼成が少し言葉遣いを改めてそう言うと、老婆は大きく何度も頷いた。

「いいよ、時間はまだたっぷりある。そう、たっぷりとね。私は今年で103歳になった。でもまだまだこんなものじゃないよ。さぁ、何から話そうか?」

「ひゃ、103歳ですか!?」

 るうかは思わず驚きを声に出してしまった。確かに見た目には随分老いて見える彼女だが、肌の色つやはよくせいぜい80か90代かと思っていたのだ。老婆はそんなるうかの反応に悪戯っぽく笑うと、「そうなんだよ、見えないかい?」とからかうような口ぶりで言ってみせる。

「おっと、自己紹介がまだだったね。私はタヨ。あなた達に分かるかは分からないけれど、多くを与えるという意味でタヨと名付けられたんだよ。それが私の死んだ両親の願いだった。だから私はここでできる限りのものを誰かに与えているんだ。この国の歴史と文化だったね? いいよ、いくらでも話してあげよう。ただ私は年寄りだからちょっとばかり話が長くなるけれど、それは勘弁してちょうだいね」

 そう長々と前置きをしてから、タヨは彼女が知る限りのことをるうか達に話して聞かせた。

執筆日2014/02/21

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