第五十四話
ギインッ!
「ちいっ!」
樟葉は舌打ちを残して大きく後ろへと下がった。
(何てヤツだ!)
樟葉は刀を構え直し、相手を睨み付けた。
敵は一体。
たった一体なのに―――!
何とか袋小路に追いつめるだけでこんなに手間取った。
全く予想外の事態だ。
戦闘開始から既に何分が経過しているのかわからない。
ローブ姿に両手持ちの草刈り鎌―――サイズを持って迷宮を歩いていたから、敵と思って攻撃しただけなのに。
それが、これほど手強いとは思わなかった。
手強い?
―――違う。
樟葉の騎士としての何かが異論を唱える。
こいつは強いんじゃない。
かわすのが上手いんだ。
私の必殺の一撃を流れるような最低限の動作でかわしているだけ。
攻撃そのものはやや大降りで、お世辞にも上手いとは言えない。
「―――っ」
ローブに隠された口から、何か言葉が発せられた。
怯えたような声。
何かを哀願するような声。
それは―――
「お、女?」
小柄とは言え、こんな所に女がいるはすがない。
だが、声色からして、声の主はまだ年端もいかない少女だ。
「貴様―――」
それが樟葉の油断といえば油断だった。
思わず刀を下げた次の瞬間。
ブンッ!
敵は数メートルの間合いを一瞬で詰めた。
「―――っ!」
大きく振りかぶったサイズの一撃が樟葉を襲う。
しゃがむことでその一撃をかわした樟葉の頭上を、敵は飛び越えた。
「何っ!?」
ダッ!
袋小路から脱した敵は、脱兎の如く逃げ去ろうとする。
「待てっ!」
樟葉はレッグホルスターから拳銃を抜いた。
ダンッ!
―――銃声は1発。
敵はその場に倒れた。
「ふう―――」
未だ銃口から硝煙を立ち上らせる拳銃をホルスターに戻しながら、樟葉はぼやいた。
「騎士として、剣より拳銃の方が得意というのも、何だか情けない気はするが……」
倒れる敵に警戒を怠らずに接近。近くに転がっていたサイズを蹴り飛ばすと、ローブに包まれた両腕をねじ上げた。
下手に触れたら折れそうなほど細く白い腕がローブの下から現れた。
「こんな細い腕で、あんなエモノを振り回しただと?」
特殊カーボン製のロープで両手両足を縛り上げた樟葉は、敵の顔を隠すフードを跳ね上げた。
「……」
目を見張った。
レタス・グリーンの艶やかな髪。
まだあどけなさを残す顔立ち。
愛らしい。
全てがその一言に集約された少女の顔が、そこにあった。
「これは……とんだ戦利品だな」
回りにオトコ共がいなくてよかった。
樟葉は心底そう思った。
こんな子が捕虜になったら妊娠させられる程度では済まない。
兵士達によって、この子一本であらゆるAV作品が作り上げられるほど輪姦されるのは目に見えている。
女として、近衛の司令官として、そんなマネは断じて許すわけにはいかない。
「運がいいのか悪いのか……」
樟葉は少女の額に魔力封じの呪符を貼り付けると、肩で少女を抱え、床に転がっていたサイズを手にした。
思ったより軽い。
樟葉の剣の半分くらいの重さしかない。
軽量化の魔法でもかかっているのか?
樟葉がそう思った次の瞬間。
「セージュ!」
通路の向こうから血相を変えて走ってくるのは、綾乃だった。
背後で水瀬が走ってくる。
「おう」
樟葉は立ち止まって二人を出迎えようとしたが―――
ブンッ!
その問答無用の一撃をかわさざるを得なかった。
「何をするかっ!」
「よ……よくも!」
剣を構え、憎悪の目を向けてくるのは綾乃だ。
「よくも私の妹分を!」
「待て!」
樟葉は綾乃を制止した。
「気絶しているだけだ!殺してはいない!」
「おためごかしを!」
綾乃が樟葉に襲いかかろうとした次の瞬間。
がんっ!
どこから出現したのか、綾乃の脳天を金ダライの一撃が襲い、綾乃は気絶した。
魔法攻撃を覚悟していた樟葉が思わず安堵のため息をついた。
「馬鹿息子―――お前の仕業か?」
ガランッ!
綾乃の頭から落下して、石畳の上を転がる金ダライを一瞥した樟葉は、綾乃から剣を奪う悠菜に訊ねた。
「おばあちゃんの独自魔法だけど、効きましたね」
「感謝する」
綾乃が目を覚ましたのは、それからすぐのことだ。
目を覚ました綾乃は、自分の額に濡れたタオルをあてているのが、自分の妹分。セージュであることを知って安堵はした。
だが、武器を取り上げられ、樟葉に睨まれている状況は良いとは言えない。
「どういうつもりだ?」
二人を見下ろすように、樟葉は厳しい顔で睨む。
「仲間に剣を向けるとは」
「だから」
悠菜がフォローしようとするが、
「私は貴様に聞いているのだ!瀬戸綾乃!」
その一喝に怯えたように、セージュと呼ばれた少女が綾乃に抱きついた。
「―――この娘は私の妹分、セージュです」
少女を安心させようと、何度もその髪を撫でながら、綾乃は凛とした顔つきで樟葉をにらみ返した。
「故あって義父の敵を討つべく、この地に赴いたのです」
「親の敵?」
樟葉は眉をひそめた。
「それを私が倒した、それが私に―――仲間に剣を向けた理由か?」
「頭に血が上ったのです……結果としての誤認は認めましょう」
綾乃は申し訳ない。という顔で、
「しかし、あなたと私の立場が入れ替わっていたらどうでした?」
「……」
樟葉は不機嫌そうな顔のまま、そっぽを向いた。
「銃弾を耳元をかするように撃てば、銃弾の衝撃波で気絶させることが出来る―――基本中の基本だ」
樟葉さんは絶対に頭を狙ったに違いない。
そう思う悠菜をよそに、引き金を引いたら小さい金属の塊が打ち出される程度しか知識のない綾乃は小さく頭を下げた。
「感謝します」
「―――ふんっ」
(どうしよう)
悠菜は困惑した。
どうひいき目に見ても、綾乃と樟葉は一触即発の関係にしか見えない。
「で、でも」
悠菜は恐る恐る言った。
「綾乃ちゃんはまだ味方だよね?ね?」
「セージュの身を保証してくれれば」
そのそっけなさに悠菜はすがるような目で樟葉を見た。
「……さっき言った、親の敵とは?」
「シェリス……グリムに雇われた一人です」
「魔族はグリムに力を貸している?」
「魔族全体がではありません。あくまで個人です」
「傭兵みたいなものか?」
「その通りです―――フリーで、お金さえ積まれればなんでもするフリーランサー」
「そうか」
樟葉は悠菜の抱きかかえていた剣を奪い、綾乃に手渡した。
「まだ完全に信じているわけではない。……貴様の正体が何者か知らんのだから」
「知ったら……私達は敵同士です」
綾乃は剣を受け取った。
「ただ」
綾乃の横で心配そうな視線を向けてくる少女を一瞥した後、
「剣を預けていただいたこと―――それを信頼の証と信じます」
「……好きにしろ」
樟葉は踵を返した。
「他部隊も戦闘中だ!第四層制圧に全力を尽くせ!」
綾乃達が何語かわからない言葉で会話するのは、背中で聞き流した樟葉が、遠ざかっていく。
「よかったですね」
綾乃は少女にほほえみかけた。
「あなたの仇討ちには私達も協力します」
綾乃は少女を励ますつもりでそう言った。
仇討ちとなれば、悠菜も協力してくれると信じていた。
それなのに―――
悠菜は怪訝そうな顔をして辺りを見回すだけだ。
「悠理さん?」
「悠菜」
「……悠菜さん?仇討ちについてですが」
「……」
悠菜から返事はない。
ただ、怪訝そうな顔を崩さず、周囲を警戒している。
「悠菜さんっ!」
綾乃が立ち上がろうとするのさえ、悠菜は無視して、ポケットからPDAを取り出した。
その形状と表示される言語から、綾乃はそれが何か見当をつけた。
「天界軍配備の端末?」
綾乃は悠菜が何かに感づいたことにようやく思考が至った。
仇討ち云々ではなく、悠菜は何かを知りたがっている。
「どうしたのですか?」
「さっきからずっと気になっていたんだけど……空気がヘンに臭いし、息苦しいっていうか―――喉が痛い」
「?」
綾乃は自分の喉を撫でた。
「別に?風邪ですか?」
「魔法防御解除してみて」
魔法戦には毒ガス系の魔法が使われることもあるため、魔族といえど、戦場においては普段から防御魔法を展開するのは常識だ。
綾乃は言われるままにその備えを解いたが、
「ゲホッ!」
激しく咳き込むと、すぐに魔法防御を展開した。
「こ……これ!」
「……まずいですね」
悠菜はPDAを手に唸った。
「すぐに樟葉さんに合流します」
悠菜は綾乃の手をとった。
「な、なんですか!?これは!」
綾乃は手を引かれながら怒鳴った。
魔法攻撃ではない。
やたらと喉が痛くなる程度。
それまでと言えばそれまでだが、それにしてもおかしい。
「現在、濃度は0.5ppm―――上昇中」
悠菜は短くそう告げた。
「?」
人間の化学なんてこれっぽっちもわからない綾乃は首を傾げた。
「このまま上昇を続けたら、人間達が全滅するよ」
「毒ガスですか?」
「違うといえるし、そうとも言える」
「どっちなんですか?」
「空気を」
そう言いかけた悠菜は、通路ですれ違った兵士達に怒鳴った。
「総員、ガスマスク装着後、第一層に後退!全軍に伝えて!」
「毒ガスですか!?」
ガスマスク。
その名を聞いた兵士達は驚愕の表情を浮かべる。
使うのは基本的に一つの状況だからだ。
その中に、腕に赤十字の腕章をつけた者がいた。
彼はポーチから毒ガス検知キットを取り出そうとしていた。
悠菜はそれを止めた。
「あなた、衛生兵?」
「工藤上等衛生兵です」
まだ二十歳を少し過ぎた程度の彼は、自分より圧倒的に年下にして、彼よりずっと階級が上の悠菜に敬礼した。
「空気に異常が発生している―――喉や鼻に刺激を感じたり、視覚に異常が生じている者はすぐに上へ移動させて」
「何が起きているのですか?」
「大気中のオゾン濃度が上がっている。そろそろ1ppm」
「……」
オゾンという名を聞いた工藤衛生兵は、目を見開いた。
「致死は50ppmです」
「毎分0.5ppm刻みで上がっている。このままだと迷宮にいると死ぬことになるよ?」
「り、了解!全員にガスマスクを装着、第一層へ後退させます!」
「総隊筆頭騎士命令として伝えてくださいね?責任は樟葉さんがとります」
「オゾン?」
すでに司令部と合流していた樟葉は、その一言に驚愕の表情を浮かべた。
「一年戦争の事、忘れたんですか?」
「忘れるものか」
樟葉が苦い表情を浮かべたのも無理はない。
オゾン―――
紫外線から地球を守る守護者のように思われているが、猛毒の物質であることは意外と知られていない。
フロンガスが発明されていないこの世界でオゾンという名が知れ渡ったのは、環境破壊によるものではなく、兵器として使用されたことによる。
一年戦争中、魔族はオゾンを使った。
―――兵器として。
魔族は何をしたというのか?
超高濃度のオゾンを放出する魔界の植物の種を大量に攻略目的の都市や戦場、そして占領地にばらまいたのだ。
当初、人類は空から降る種を理解できなかった。
何かの贈り物とさえ考えた者もいた。
―――その種が芽吹き、葉を茂らせるまで。
種は恐るべき存在だった。
わずかな水と空気を元に、
わずか24時間で発芽し、
発芽から12時間以内に、
土で、アスファルトで、鉄板で、あらゆる場所に根付いたのだ。
コンクリートジャングルに負けない草。
物珍しさから、種が芽吹いた土地の人々はそう評し、こぞってそれを見ようとした。
そして、医者や救急隊員達は、身体異常を訴える急患の爆発的増加に。
農家の者達は、種の芽吹きと引き替えに枯れていく農作物や木々に、
それぞれに首をかしげた。
全てがわかった時には手遅れだった。
一度根付いたら最後。
細い根の一本でも残っていたら、そこから再び根付く。
コンクリートだろうがアスファルトだろうが、何で被っても突き破って芽吹く強靱かつ、ナパーム弾の直撃すらわずか数日で再生する驚異的な生命力。
ねずみ算的に増える恐るべき繁殖力。
なにより、二十日大根サイズから一抱えもあるような巨大な幹を持つ樹に成長するまでわずか2週間という成長スピード。
半世紀近くをかけ、都市を形成した人類は、あらたなる都市の支配者―――樹に敗北した。
都市は緑に帰り、人々は都市から追い出された。
増加する樹々は、その数を持って都市機能を破壊しただけでなく、はき出する高濃度のオゾンで襲ってきたのだ。
高濃度の地域は今でも300ppm以上のオゾン濃度を誇るといえばどの程度のものかわかるだろう。
人間が1時間いたら死ぬとされる50ppmをはるかに上回るオゾンを、樹は一日数回に渡って発生させる。
都市は短期間に人の住めない地へと変貌した。
人類が“死者の樹”と呼ぶ恐るべきオゾン生成装置たる木々の森に、囀る鳥はなく、その実をついばむ獣はいない。
オゾンが木々の光合成を阻害し、光合成に頼る全ての植物を枯らしてしまったのだ。
そして、“死の森”があちこちに生まれた。
新潟市のように妖魔の直接的攻撃を受けることなく、樹によって消滅した市町村、他の都市部は、その種の伝播により、いまや日本だけでなく、世界中に存在する。
伝播させたのは誰でもない、人間自身だ。
一年戦争中、あちこちに生えた樹によって、国連軍は作戦展開どころか、戦場に近づくことさえ出来なかったことが、犠牲を増やした理由の一つとされている。
つねに味方だったはずの緑が、人類を宇宙からの放射線より守ってくれているはずのオゾンが、人類に牙を剥いた。
ここに魔素被害の相乗効果があって、常識では考えられないような苦戦を強いられたことを、作戦指揮をとった樟葉は忘れていない。
「竹でも植えるか?」
「“死者の樹”が竹と相性が悪かったのは偶然。竹が“死者の樹”を逆に枯らすことは知っているけど、今回の事態が、“死者の樹”によるものとは思えないです。このままでは、魔法騎士はともかく、兵やメイドは」
「……ここまでか」
樟葉はため息混じりに呟く。
「これでは」
「汚名は、私達が雪げばいいだけでしょう?」
悠菜はきつい口調で言った。
「面子なんて、単なる偉いさんの意地です!つまらない意地で部下を殺すなら、私、そんな樟葉さん殺しちゃうから!」
一方―――
羽山達は屍鬼との戦いを続けていた。
「ふんっ!」
唐竹割りの要領で屍鬼の頭を断ち切った博雅の横で、羽山が別の屍鬼の心臓めがけて突き技を喰らわした所だった。
人間なら即死する一撃だが―――
「なっ!」
屍鬼は羽山の刀を無造作に掴んで離そうとしない。
「羽山っ!」
横からの一撃が、屍鬼の頭を真横に断ち切った。
「すまんっ!」
「礼はいい!」
博雅は動かなくなった屍鬼を力任せに持ち上げ、迫り来る別の屍鬼達めがけて投げつけた。
動作が鈍い屍鬼達は避けることさえせず、元仲間を叩き付けられて横転した。
「突き技は避けろ―――連中、心臓と頭をやられても、しばらくは動けるみたいだ」
「即死はないってことか」
ようやく立ち上がった屍鬼達を前に、羽山達は刀を構えなおした。
コンテナに貼り付けられたシールドと装甲服の感触が、何とか自分達が何者かを教えてくれる。
「羽山」
博雅は唾を飲み込みながら言った。
「コンテナの中に銃があったな」
「あ?ああ……確か」
羽山はコンテナの中に物資を詰め込んだ時のことを思い出した。
医薬品に輸血用血液、レーションに水。
その一番上においたのは―――
「三八式だ」
羽山は弾の装填方法だけ学んだ銃の名を口にした。
「確か手榴弾も数発」
「俺が引きつける間に準備してくれ」
「やれるか?」
「1分だ」
「―――よし」
次の瞬間、羽山がコンテナに跳び下がり、博雅は滅茶苦茶に刀を振り回した。
剣が恐ろしくて近づけないのか、屍鬼達は博雅の剣に腕や胴を斬りつけられ、その場に転がった。
(体を掴まれればお終いだ)
博雅は床に転がる屍鬼達に注意して、間合いをとった。
別に斬り合い続ける必要はない。
1分
たった1分の時間を稼げばいいのだ。
背後ではコンテナが開く音がする。
後は―――
「ちっ!」
博雅は舌打ちと同時に剣ではなく、シールドを構えた。
ガンッ!
シールド越しに鋭い衝撃が走った。
銃撃だ。
間合いはとれない。
とればねらい打ちにされる。
ならば―――
「うぉぉぉぉっ!」
シールドを構えながら、博雅は一気に突撃した。
短絡的と笑うなら笑え!
だが、戦場で格好なんてつけていられるか!
―――その思いが間違いだとは博雅は思わない。
格好悪くてもなんでも、生き残ってこそのことだ。
素早く銃を手にした屍鬼を見つけ、銃弾をすべてシールドで受けつつ、博雅はその屍鬼に襲いかかった。
ぐちゃっ
鈍い感触がシールドのエッジから伝わってくる。
シールドのエッジで敵を粉砕する一撃が、屍鬼に命中した感触だ。
ルシフェルから教わった“ベイルアタック”を初めて使った。
効果は悪くない。
頭を粉砕された屍鬼がその場に崩れ落ちた。
「次っ!」
力任せに刀を横に薙いだ後は、博雅は何をどうしたかほとんど覚えていない。
当たるを幸い、斬って斬って斬りまくる。
そんな時代劇の侍さながらの大立ち回りを演じたことを、博雅は何も覚えていないのだ。
「はぁ……はぁ……」
気がつくと、完全に骸となった屍鬼達で床は埋め尽くされていた。
頭を砕き、心臓を胸ごと吹き飛ばし、切断しまくった結果だ。
「こ……この馬鹿」
その背後、背を守る形で立つ羽山が息も絶え絶えという様子で言った。
「こっちが何度「どけ」って言ったと思って……」
博雅が邪魔でせっかく用意した銃が使えないと悟った羽山は、博雅から離れた所に手榴弾を投げ込み、刀とシールドを手に突撃した。
博雅より冷静だったとはいえ、やったことは博雅と何も変わることはない。
「すまない……我を忘れた」
「だけど……」
ぐしゃっ。
羽山は乱暴に足下に転がる骸を蹴り飛ばし、自分がへたり込むスペースを作った。
死体を蹴飛ばすという非倫理的な行為。鈍い感触ですら、今の羽山には如何なる感情をも湧かせはしない。
「これで俺達も……半人前かな」
「……かもしれん」
博雅も同様にへたり込んだ。
「水が欲しいな」
「コンテナに戻ろう……栗須さんが心配だ」
「後はコンテナを楯に銃だな―――弾丸は?」
博雅達は腰を上げた。
「50連マガジンが20。手榴弾は……さっき使い果たした」
「気休め程度にはなるか」
「ああ……とにかく」
博雅は言った。
「これでお尻は楽しめそうだ」