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第三十九話

「だいたい、ホテルで何してたんですか?」

「預かりモノを返そうと思いましてね」

 グリムは、ティーカップにお茶を注ぎながら、何でもないという顔だ。

「預かりモノ?」

「そうです」

「聞いてもいいですか?」

「瀬戸綾乃ですよ」

「瀬戸さん!?」


 瀬戸さん。

 ホテル。

 瀬戸さん。

 ホテル。

 瀬戸さん。

 ホテル。

 ……。


 美奈子はじっ。とグリムを見ながら考え、そして一つの結論に行き着いた。そして、その黄金の右手が動く。


 メリッ!

 水瀬悠理を何度となく沈めたその一撃は、某A級スナイパーの銃弾顔負けの正確さでグリムの顔面にめり込んだ。


「あ、あなたね!」

 美奈子は席を蹴った。


「せ、瀬戸さんになんてマネを!」


「はっ?ち、ちょっと待ってください」

 グリムはめり込んだ顔面を何とか戻そうと四苦八苦している。


「せ、瀬戸さんをこんなところに監禁して、ホテルで調……」

 綾乃が監禁され、恥ずかしい服を着せられて、一般部門では公開できないようなコトをされ、そしてホテルに連れ込まれる。

 ……嫌がりながらも、いつしか快楽におぼれていく綾乃の姿が、調教モノの同人誌の総集編の如く美奈子の脳内で繰り広げられた。


「あ、あのですねぇ―――あ、戻った」

 何とか顔面再生に成功したグリムはあきれ顔で美奈子を見た。


「あなた、まだ未成年でしょう?それなのに、なんてこと想像するんですか?」


「か、勝手に人の思考を読まないでくださいっ!」

 グリムが“さとり”の力を持つことを思い出し、美奈子は慌てて因数分解を考えようとして失敗した。


 勢いがついた妄想はなかなか止まらない。


 美奈子の頭の中では、脚本、四方堂緑経由で入手したヤ○イ同人誌(かなりハード系)をベースに、受け=綾乃。攻め=グリムのオリジナルかなりヤバイストーリーが絶賛公開中。

 脳内スクリーンでは、快楽に酔いしれる綾乃がメイド服の上から亀甲縛りにされたまま三角木馬に乗せられる所まで行き着いていた。


「……」

 グリムの眼がとても遠くに飛んでいた。まるで気の毒な人を見るようなその視線が美奈子には気に入らない。


「な、何ですか?」


「美奈子さん……欲求不満なんですか?」


「ばっ!」


 美奈子は一瞬にして某彗星専用機並の色になった。

 美奈子だって年頃だ。自分が恥ずかしい妄想をしていることは認めるが、それを他人、しかも男に指摘されるのは耐えられない。


「そ、そんなはずないです!」


「その割りにスゴイ内容でしたよ?―――ま、そういうことじゃありません」


 そう言ったグリムに、美奈子は恐る恐る訊ねた。

「―――縛りはなしですか?」


「何の話ですか」

「いえ。何でも」

 グリムは美奈子に瀬戸綾乃に起きている事態を説明した。


 瀬戸綾乃の身に起きている事態―――魂の崩壊。


「信じられないでしょう?人間の魂が崩壊するなんて―――魂なんて、人間の誰も見たことすらない存在なのに」

 グリムは小さく笑って美奈子の答えを待ったが、美奈子は首を左右に振ることで答えた。

「信じられる……美奈子さんはそう言うのですか?」

「ええ」

 美奈子のその口調は本当にあっさりしたものだったので、グリムは拍子抜けした。

「ど、どうして?」

 そう、聞かずにはいられないほど。


「だって」

 美奈子は笑いながら答えた。

「水瀬君と1年も友達やってると、ソレくらい何だか当たり前って気がして」

「……美奈子さん」

 グリムはどこからか氷嚢を取り出して頭に当てた。

「友達は、選んだ方がいいですよ?」

「ご忠告どうも」

 ぺろっ。と舌を出した美奈子は真顔に戻った。


「で、最初の話しに戻しますけど―――言いましたよね?瀬戸さんが助かる代償として記憶を失ったって」


「―――ええ。たった一つですけど」

 グリムの口調はあまりにあっさりとしたものだ。


「たった、一つ?」

 美奈子は首を傾げた。

「たった一つの記憶を失うことで、魂って助かるんですか?」


「方法ですよ」

 グリムは普段通りの微笑みを浮かべながら答えた。

「魂にとって記憶はいわば生きる原動力。そして感情や行動といったあらゆる人間の行動にとっての根拠―――総じて、人間が人間であるための“寄りよりべ”とでもいいましょうか?特に恋愛や、それに近い感情の根拠となる記憶は、大変な意味を持ちます」


「恋愛感情は、人に生きる意味を与えている?」


「正解です」

 グリムはポケットから花を一つ取り出して美奈子に手渡した。

 “大変良くできました”花にはそう書かれていた。


「ありがたく―――いただきません。続きをどうぞ」


「つれない方だ。……瀬戸綾乃の場合、水瀬悠理に対する恋愛感情はあらゆる感情に優先されていた。その根拠は水瀬悠理に関する記憶。―――魂を再構成する上では、それは有効なキーともなる反面、実は大変な障害なのです」


「魂に、自分が何者か思い出させるのに記憶を用いることが出来る反面、魂がそれに固執すると、再構成する場合、それが邪魔して再構成が出来なくなる?」


「これはこれは!」

 グリムはパンッ。と手を叩くと、清々しいまでの笑顔を浮かべた。


「あなたは天才だ!」


「―――ごめんなさい。気になるから、続きをどうぞ」

 グリムは美奈子の顔が沈んでいることに気づくことなく、話を続けた。


「その通り!瀬戸綾乃の魂の再構成を行いたくても、瀬戸綾乃の魂は、水瀬悠理との記憶に食らい付いて放そうとしない。崩壊から救うためには、魂を―――」

 熱心に話すグリムの言葉を、美奈子は自分の分かる言葉に翻訳しながら、一言一句聞き逃すまいと聞き入った。


 グリムはこう言っているのだ。


 “瀬戸綾乃”というPCの中にある魂(HDD)が壊れかかっている。

 その記憶データを救うためには、記憶データを一度他にコピーし、魂をインストールしなおさなければならない。

 ところが、魂が水瀬悠理という記憶にこだわり過ぎ、その強さが災いして他の記憶を外に出すことが出来ない状況に陥っている。

 この状況を放置したら、魂は崩壊、PCが使用不能になるのを待つ以外他に道はない。

 この状況を救う方法はただ一つ。

 魂内部から、作業に悪影響を及ぼす記憶を消し去る。

 そう。

 水瀬悠理の記憶を消し去ることだけ。


「……それで」

 美奈子はグリムに訊ねた。


「水瀬君の記憶は、元に戻せたの?」


「いいえ?」

 グリムはあっさりと首を横に振った。


「キレイさっぱり消し去りましたよ。本人と水瀬悠理君双方の承諾の上で」


「嘘っ!」

 美奈子は気色ばんでグリムに怒鳴った。


「そんなの嘘よ!あの二人がそんなこと認めるなんて!」


「水瀬悠理は事情を既に察していた。だからこそ、自分の記憶を失っても、それでも瀬戸綾乃に生きて欲しいと願った。そして瀬戸綾乃は」


 ふうっ。


 グリムは息を整え、美奈子をまっすぐに見つなおす。


 それは厳粛な予言を告げる神官の如き真剣さをこめた視線。

 美奈子は思わず身を固くして言葉を待った。


「“私は絶対、悠理君をまた好きになる”……そう、言っていましたよ」


「……」

 美奈子は言葉を失った。


 自らを犠牲にした水瀬悠理。

 失った恋の再生を信じた瀬戸綾乃。


 ふたりの絆の深さが、深いくさびとなって美奈子の心に突き刺さった。


「やっぱり……」

 美奈子はそう言ったのは、何分かの時が過ぎた後だった。


「私の入り込む余地は……ないよね」


「どうですかねぇ……でも」

 グリムはハンカチを手渡しながら言った。



「泣くほどのことではないでしょう?」



「えっ?」


 驚いた視線を向ける美奈子に、グリムはあきれ顔だ。

「えっ?って……ご自分が泣いていることもわからないのですか?」


 ゴシゴシ。

 乱暴に目をこする美奈子の手は、確かに濡れていた。


「ははっ……私、何が悲しいんだろう」


「あなたは二人の絆が終わった。―――そう思った。安堵した。ところが、絆はあなたが思ったよりずっと深いものだと思い知らされた。それはつまり、あなたが水瀬悠理に寄せる想いが入り込む余地はないことの証拠―――あなたは勝手にそう思いこんでしまったから」


 グリムは少しきつめの声で美奈子に諭した。


「未来は、何事かを成し遂げる意志のある者が勝ち取るもの―――かつて、私が手にした魂がそう言っていました。その魂は、実に素晴らしい幸福感に包まれていた。一人の女性の魂ですがね。一人の男と身分違いの恋をして、恋故に、その女は全てを代償として、男を選んだ。―――その先の人生は苦難の連続。最後は本当に貧しい中で死にました。それでも魂は言いました。本当に幸福な人生だったと―――何故かわかりますか?」


「……」

 美奈子はじっ。とグリムの答えを待った。


「全てを自分で決断したからです。負けると思って逃げたりなんてしなかったからです。それで何故?やらなかった。逃げた。そんな後悔がないから!―――美奈子さん。あなたは弱いと思っているようですけど、違います。あなたは強い。自分で自分の人生を築きあげることの出来る強い意志の持ち主だ。だから、あなたは」


「……クスッ」

 美奈子は突然、吹き出した。


「何かおかしいことでも?」


「ううん?」

 美奈子は軽やかに手を合わせた。


「心証損ねたでしょうね。ごめんなさい。―――あなたの言ってくれたことは正しいと思うし、思いたい。私は負けても何でもやるだけしかない。そんな星の元に生まれたんだもの。でもね?そう理解してて、つい、こう思っちゃったのよ。―――“それでも、少しは落ち込ませてよ。私だって不幸に酔いしれたいわ”って」


「フッ―――不幸はお好きですか?」


「自分が不幸に?それなら嫌いよ」

 美奈子はきっぱりと言った。


「不幸な話を聞きたがる人なんて、みんなその不幸に心から同情してるんじゃない。内心で、不幸な自分を想像して酔いしれてみたり、自分の方が幸せだって優越感にひたってみたり……そんなものだもの」


「自分に関わりのない不幸だから、受け入れられると?」


「そういうこと」


「それなら」

 グリムは美奈子が復活したと判断して言った。


「私の不幸もどうにかしてほしいのですが?」


「あっ。ごめんなさい」

 美奈子は慌てて頭を下げた。


「で?途中まででしたけど―――水瀬君と会っただけでそんな大切なモノを落とした?水瀬君に見せたとか?」


「いえ」

 グリムはバツの悪そうな顔でポケットを軽く叩いた。


「話の途中でメイドとシスターに襲撃されましてね」


「―――ホテルって、秋葉原?」


「メイド喫茶とでも?違います。彼女は間違いなく本職です」


「本職?メイドって戦うものだったの?」


「私も驚きましたよ。とにかく、そのメイドの一撃、これが鋭くて、なんとか避けたものの、ポケットが破れたようでして」


「そのメイドさんに何か恨みを買った覚えは?例えば、メイド喫茶で飲み代踏み倒したとか」


「いつも漢らしく現金一括です。失礼な―――そうじゃなくて」


「ホント、男ってバカ。メイド服着ていたらなんでもいいとでもいうの?」


「そう言うあなただってメイド服着たことあるでしょう?バニーまで」


「あ、あれは学園祭で!っていうか!人の記憶をのぞき見ないで!」


「ごめんなさい。これはクセでしてね……」

 グリムは苦笑しながら詫びた。


「ちょっといざこざがあったことは認めます」


「メイドさん、その件であなたを諦めたわけじゃないんですね?」


「恐らく―――私は全く興味ないんですが」


「メイドなのに?」


「メイド喫茶のあのエセメイド―――あのエセっぷりがいいんですよ」

 グリムは熱心に語り出した。

「礼儀作法もロクにしらないことがもう分かり切った、あのガサツさを隠そうとするあまり、マニュアル通りの動きしか出来ないあの無様さ!洗練された本職のメイドとは比較にならない融通のなさ!」


「それ、褒めてるつもりなの?」


「ええ!紛い物には紛い物の魅力が!」


「―――で?その本職?のメイドさんなんだけど」

 軽く頭痛がする頭を押さえながら、美奈子は訊ねた。


「カンは鋭そうな方だった?」


「ええ」


「その場に踏み込んだということは、水瀬君と知り合い?」


「―――恐らく」


「……そう」


 美奈子は踵を返すと、ベッドの方に向かった。


「じゃ―――私、寝ますね?……あっ。家の方、何とかしてくださいね?警察とか動かれるといろいろ困りますから」


「え?い、いえ!あの!」

 グリムは困惑した顔で美奈子を見た。


「大丈夫ですよ」

 毛布をベッドに敷きながら、美奈子は笑顔でグリムに言った。


「カンが鋭ければ、“それ”が何か知らなくても、あなたに結びつく大切なモノだと気づくし、水瀬君と関係があれば、もう動いているかもしれませんね―――ここを探しに」


「つまり」

 グリムはあきれ顔で言った。


「あのメイドは、“世界樹の葉”をもったまま、ここに攻め込んでくると!?」


「そう。そのメイドさんは何も知らないけど、とにかくあなたを殺したい。その手がかりですよ?それをどこかに置いてここに来ることは考えられません。話からすると、水瀬君も手助けしているはずですし」


「水瀬悠理は、ここの存在すら」


「あなたが誘えばいいんですよ」

 美奈子はあっさりとした口調だ。


「そうしたら、あっさりとここに来るんです。そして、水瀬君達が気づかない方法で、それを使わせればいいんです……たとえば、ここに入るための鍵とか」

「なるほど……よく、わかりました」

 グリムは頷いた。

「では誘いをかけましょう。―――いやでもここに来るように。“世界樹の葉”を持ってきてくれるように」

 その顔に浮かぶ微笑みを見た美奈子は、その底冷えのするような冷たい微笑みに背筋を震わせる。


「とにかく、果報は寝て待て―――家の方、お願いしますね?」

 美奈子はそう言って、ベッドの中に潜り込んだ。


 今のグリムの顔を見るのは、美奈子には少しだけ、酷だった。



●翌日 水瀬邸

「おかしい」

 ルシフェルがそう言い出したのは、朝食の後かたづけの最中。

 綾乃は朝風呂に入っている。

 その言葉に、悠菜は食器を片づける手を止めた。


「何がです?」

「瀬戸さん」

「おかしいのはいつものこと」

「それはそうだけど」

 ルシフェルは口ごもりながら言った。

「水瀬君っていうか、悠菜ちゃんにも言われたくないと思う」

「あっ!それどういう意味ですか!?」

「言葉通り」

「ムゥ……」

「そうじゃなくて」

 台所の椅子に座りながら、ルシフェルは自分のためにお茶を用意した。

「瀬戸さん、まるで別人だよ?」

「―――あれじゃあ、バレますよねぇ」

 ぽつりとそう言ってしまった自分の口を、悠菜は慌てて閉じた。

「悠菜ちゃん?」

 お茶を準備する手を止めて、ルシフェルは悠菜の肩に手を乗せた。

 メリメリメリッ……!!

 突如、悠菜の肩のあたりからそんな音が台所中に響き渡る。

 ルシフェルが鋼鉄すら引きちぎる騎士の握力の限りを尽くして悠菜の肩を力任せに握っているせいだ。

「痛い!痛いですうっ!」

 当然、悠菜はたまらず悲鳴をあげるが、

「痛い?」

 対するルシフェルは冷たくそう言い放つ。


「痛いです!やめて下さいっ!」


「だったら―――全部しゃべりなさい」


「や……やだ……痛いよぉっ!ふぇぇぇぇんっ!!」

 もう悠菜は泣き出している。

「泣いてもダメ」

 ルシフェルは握力を逆に強めた。

「桜井さんがグリムって獄族にさらわれて、葉子ちゃんは行方不明。それで瀬戸さんがあれじゃ、とてもじゃないけど知らん顔できない」

「何をしているんです?」

 ルシフェルは、背後から聞こえてきたその声にとっさに手を離した。

 台所の入り口。

 そこに立つのは、遥香とイーリス、そして栗須だ。

 背後には由忠もいた。

「御母様ぁぁぁっ!」

 悠菜は泣きながら遥香の胸の中に飛び込んだ。

「ルシフェルちゃんがイジメるぅっ!」

「まぁ、それは大変」

 遥香の驚いたような視線を受けたルシフェルは、そっぽを向いて知らん顔で受け流した。

「それで?悠菜は何をしてお姉さんを怒らせたの?」

「な……何もしていないです」

 涙声で悠菜はそう言ったが、

「あらあら」

 遥香は楽しそうに悠菜の頭を撫でた。

「嘘つきは泥棒の始まりですよ?」


 つまり、娘の言葉を真っ向から否定したのだ。


「嘘じゃないもん!」

「瀬戸さんの様子がおかしいから、何か知っているんじゃないか。そう聞いたんです」

 ルシフェルは言った。

「あれじゃ、別人だって」

「綾乃さんは?」

「今、お風呂に」

「そう―――ルシフェルさん?お茶、いただけません?」

「はい」

 三人分のお茶の準備を始めるルシフェルの前で、遥香は悠菜に言った。

「悠菜ちゃん?御母様の前で嘘はいけませんよ?」

「だっ、だって」

 悠菜は困惑した顔になった。

「これは人間に話すことでは」

「話しなさい」

「やです!」

 悠菜はムキになった。

「絶対、何が起きているか、みんなには言いません!」

「困ったわねぇ……悠君じゃない、悠菜ちゃんがそんなイジワルしちゃうなんて、お母さん、お仕置きしなきゃいけなくなっちゃう」

「だ、だって!」


「遥香様」

 少し苛立った声で悠菜の言葉を遮ったのは栗須だ。

「もしよろしければ、私が悠理君から話を聞き出しましょうか?」

「え゛っ!?」

 悠菜は青くなった。

 目の前の女性がどれほどの戦闘能力を持っているかは弟のデータからわかる。

 栗須明奈。

 彼女は、「絶対に怒らせるな!」と、弟が警告している女性陣の中でも筆頭級の存在なのだ。

 その女性が、にこりと冷たい作り笑いを浮かべながら自分を見つめている。その視線、すなわち蛇に睨まれたカエルのように、悠菜は背筋に脂汗が流れたのを感じた。


「そうですね。私も綾乃さんにお話がありますし」

 悠菜は、肝心の母親にあっさりと見捨てられた。

「ただ、ケガはさせないでくださいね?」

「はい♪」

 グイッ!

 悠菜は、とっさに逃げようとしたが、タイミングが遅すぎた。

「やっ!やだぁ!」

 ジタバタ暴れる悠菜だが、襟首を器用に決められて身動きがとれない。

「お、お母様助けて!」

 泣きながら悠菜は母に助けを懇願するが、

「ならさっさと白状なさい」

 遥香は冷たく言い放った。

「何でお姉ちゃんにイジワルしたのか、昨晩、綾乃ちゃんと何があったのか」

「待て」

 由忠が妻と栗須を止めた。

「真面目な話を娘としたい」




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