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第6話:夢野彩香

 期待を胸に秘めながら、自分のクラスである2年3組の教室に入る。

「おーす」

 適等に挨拶を交わして教室に入り、早速と雛菊さんのお気に入りである人物、夢野さんを探し始めるのだが。

 俺、夢野さんの顔を知らなかったな。

「よぉ、坂本。随分と遅い出社だな。何だ? また、神藤の連れの厄介ごとに巻き込まれたか?」

「おっ、真吾。いい所に来たな。なぁ、うちのクラスの夢野さんって何処にいるか分かるか?」

「質問を質問で返すのはよくないと親御さんに教わらなかったか、お前。まあいいけど。えっと? 夢野さんだっけか」

 真吾は周囲を見渡し始める。目当ての人間がいたのを確認したのか、顎で「右を向け」と言ってきた。

「今、読書している眼鏡っ子がいるだろ? 彼女がお前のお目当ての夢野彩香さんだ」

 へぇ。彼女が雛菊さんのお誘いを断ったあの夢野さんか。

 第一印象は大人しい子って感じかな。ブックカバーを付けているから何を読んでいるか分からないが、時折「フフフ」と笑いを堪えた笑みが浮かぶから、彼女にとってはきっと楽しいものなのだろう。

「……三つ網をしている女性って始めてみたな」

「普通、そこに目がいくか、お前は」

「と、言うと?」

 俺が尋ねると、真吾は音量を下げ、耳元で話しかける。

「あの胸を見て、何も感じるものはないのかね?」

「胸?」

 真吾に言われて初めて気付く。

 今までに見たことがない隆起している胸部に。

「真吾」

「ふっ、お前も気付いたか」

「何だあれは? 新手の胸パットか何かか?」

「そうだろうそうだろう。俺も最初はそんな感想を抱いたものさ。だがな坂本、良く聞けよ。あれは天然だ、完全なる天然物だ」

「な、なんと!?」

 し、信じられない。

 あれが完全なる天然物とは。俺の見立てでも軽くEは超えているんじゃないのか。

 だってあれ。完全に机に乗っているし。

「あんな小柄なのにあの胸って。あれを見たら檜姉が発狂するんじゃないのか?」

「あぁ、するな。賭けにもならないぐらいに、絶対発狂するな」

「……雛菊さんが目を付けたのもあの胸が理由なのか?」

「雛菊? 水樹さんがどうしたんだ?」

「ああ、実はな」

 俺は先ほどの顛末を真吾に簡潔に話す。

「なるほどな。けど、たぶんそれは違うな」

「断言したな。その理由を説いても?」

「彼女の魔法特性はちょっとばかりレアでな。たぶん、水樹さんはそれを目にしたんじゃないか?」

「魔法特性か」

「そうそう。彼女の魔法特性は確か……」

「錬金だよ」

 答えたのは真吾ではなかった。

 声は俺の背中越しから聞えてくる。

「早かったな、祐希。あのトラバサミには結構自信があったんだが、やっぱりお前の解除の魔法には意味なかったか?」

「勇気ね。普通、友人の口に布を巻きつけて挙句の果てに動きを封じるようにトラップを張る? 三人とも物凄く怒っていたんだよ」

「普段からの俺の迷惑を考えたら可愛いものだと思うんだがな。それより、全員自分のクラスに戻っていたんだな?」

 また随分と珍しいことで。普段ならば鐘が鳴ろうが関係なく祐希の傍にいようものが。

 そんな俺の考えが読めたのか祐希はその真相を話し始める。

「今日は勇気の観察に力を入れるから皆には退場願ったんだよ」

「それって、朝言っていたあれだよな?」

 なるほど。だから今日は登校時も誰も一緒に来なかったし、檜姉妹や副会長の殺気がいつもよりも二割増しになっていたのか。

 今日一日平穏が約束された事に喜んでいいのやら、明日からの地獄を考えて悲しんでいいのやら分からないな。

「その通りだよ真吾君。最近、付き合い悪い親友が何に勤しんでいるのやら調査するんだよ」

「まるっきりプライバシーの侵害では、と親友は愚考いたしますが、その点はいかがなほどに?」

「大丈夫。勇気に気付かれないようにちゃんと尾行するから」

 それを本人の目の前で言うか、って俺は言いたいんだがな。

 最も、こうやって宣告されても、きっと俺は祐希の尾行を見付けられないんだろうな。

「なら、今日は真っ直ぐ帰るか」

「ダメダメ。いつも見たいに秘密の特訓場まで行くの」

「尾行されると分かって、わざわざ特訓場に足を運ぶバカが何処にいる」

「ここ」

 指を向けるな。あと、真吾。何気にお前まで俺を指しているんじゃねえぞ。

 このままじゃ、一日中尾行するかもしれないなこいつ。同性に尾行されても嬉しくないんだがな。どうせなら美人で優しくって、胸が大きい子が俺をストーキングしてくれないかな。……ごめん、やっぱり今のなし。ストーキングされる事態ろくな事が起きなさそうだし。

「それよりも、夢野さんに声を掛けなくていいのか?」

 ふと、思い出したかのように真吾が言う。

「あ、いや。俺はどんな子か見たかっただけだしな。祐希、お前はどうするんだ?」

「ボクも雛ちゃんが気になる子が見たかっただけ出し、別に声を掛けるほどでも」

「人見知りだもんな、お前。面識があっても話したことのない子に話すほど度胸がないもんな」

「それっていつの話しだよ。今ではボクだって人見知りするほうじゃないよ」

「そうだったな。ま、機会があれば少し話してみるかな」

 その機会が直ぐに起こる事になろうとは、今の俺には知る由もなかった。

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