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第12話:優希(祐希)の秘密

 行き成り話しはかわるが、俺が師匠に指南を仰ぎに行くとき、毎度通される場所は客人を持て成す為に使用されている客間である。

 何でも新人の指導の訓練にも良いとの事で通されているらしいが、毎回出されるコーヒーは格別だったっけ。師匠の後輩である新人さんが入れているらしいが、今回はそのコーヒーはありつけないだろうな。流石に案内された場所が――。

「あ、あまりジロジロ見ないでください」

「す、すまない。あまりにも可愛らしい部屋で少し度肝を抜かれてな」

 ――祐希、じゃなくって優希……ええい、面倒だ。俺が案内された場所が神藤の部屋だったのだ。

「お嬢様は大のぬいぐるみ好きですからね。今度から何かを贈る時は是非とも参考にしてはどうでしょう」

「それで、神藤の誕生日なんかは女っぽい物を多く推していたのか」

 今思えば、おかしいと思う点が一杯あったな。神藤の誕生日プレゼントを買うとき、参考に師匠に問うた時は「可愛い小物やらオルゴールなんかはいかがでしょう」と何かしらの理由を付けては強く推していたからな。

 神藤が女性と分かってしまえば、数々の女々しい行動がしっくり来る。と言うよりも、思い出してしまうと可愛らしく感じてしまうから不思議だ。同じ行動でも男と女では感じるものが違うと思うと複雑な気持ちになるな、これは。

「やっぱり奈々の助言があったんですね。勇気が男だと思っていたわたくしに可愛らしいリストバンドやオルゴールを贈るから、もしかしたらわたくしが女だとばれているんでは、と冷や冷やしたときもあったんですよ」

「いや、恥かしながら全く気付かなかったな。女々しい奴と思ってはいたが」

 それだけ神藤の演技が良かったのか、あるいは――。

「単に勇気が鈍かっただけですね。私から見るといつばれても不思議じゃなかったと思いますよ」

「そうなんですか、師匠」

「むしろ、どうして気付かなかったんですか、と私は勇気に問いたいですね」

「た、タハハハ」

 耳が痛いお話しで。

 何も言い返せなかったので笑って誤魔化していたら、神藤が「まあまあ」と話しに割って入ってきた。

「むしろ、わたくしとしては勇気が鈍感だった事で幾分と助かった点がありましたので……。もっとも、わたくしの演技が酷くて夢野さんに多大なる迷惑をかけている点は否定できませんが」

 不意に飛ぶ夢野さんの名前に俺は表情に出していたのだろう。

 神藤が「フフフ」と微笑み、師匠に向けて「礼のものを」と頼む。

「では、本題に入りましょうか、勇気。先ずはそうですね……。何処から話していけば良いものか」

「正直に言わせて貰うと、神藤。お前の秘密はあまり興味がないんだ。ただ、それが分からないとこちらとしても対処の一つもつけないと思ってな」

「まるで、わたくしに興味がないと言いたげですね。そんなにロリ巨乳がお好きなんですか?」

「ばっ、今はそんなのはどうでもいいだろう。第一、俺はそんなつもりで言ったつもりは」

「そう言えば、勇気がオススメしてくる本やらビデオも何処となく夢野さんに似ていたような」

「いや、だから……ああ、もう! ああそうだよ。確かに好みのタイプかも知れないが、あんな事態を見て何かをしてやりたいと思ったのは確かだよ。疚しい気持ちは半分しかないさ」

「半分もあるんだ」

「ええい、いいだろ! 少しぐらい考えても。それよりも、夢野さんはお前の秘密関連で色々と拘束されているみたいだ。その点で思い当たる節はあるのか?」

「あからさまに話しを変えられた事に色々と言いたい事はありますけど、今は彼女の事が大切ですね」

 それを最後に神藤の顔から笑顔が消えた。

「これはあくまで仮説なんですけど、名家の何処かがわたくしの秘密を嗅ぎ付けて、その、わたくしを許婚にしようかと考えているんだと思います」

「それは、お前と縁を持って神藤家の財産を得る為にって話しか」

「それならば話しは単純で良いんですけどね」

「なんだ? 他にも理由があるのか」

「欲しいのはたぶん、わたくしの子供だと思います」

「こ、子供?」

「姓名に神の名がつく者は何かしらの才能を持つ。それは勇気も知っていますよね」

「ああ。お前と師匠をみていれば、嫌って程理解出来たさ」

「おそらくは、夢野さんを脅している方も同じ神の姓名を持つもの。幾等、神の名を持つものが優秀な遺伝子を残すと言っても、外れる可能性もなくもありませんしね」

 神藤が言うには、いくら神の姓名を持つ者の血が優秀でも、もう一つの血が混ざり合ってしまうと有能性が下がる可能性があるらしい。

 その可能性を防ぐ為に、神の姓名を持つ者同士が交わる必要があるとか。何と言うか、犬や馬の交配の話しみたいで嫌だな。

「魔法が発展するようになってから、やはり血筋は大切にされていますからね。現にわたくしも、神の姓名を持つ方となるべくなら結婚するようにと釘をさされています」

「まるで、大昔の日本だな。血筋を残すための結婚……大河ドラマでよくある話しだ。それで」

「それで?」

「お前のことだ。もう、検討はついているんだろ?」

「流石ですね。いつも、それぐらい感が冴えてくれるとわたくしも助かりますのに」

 嫌味の一つも呟き、軽く手を叩いて師匠の名を呼ぶ。

 神藤の呼び声の五秒後にはいつの間にか消えていた師匠が現れ、抱えていた資料らしきものを俺に渡してくる。

 受け取った俺は「調査結果」と簡潔に書かれている表紙を捲くると、それにあわせて師匠が解説する。

「お嬢様に頼まれ調査した結果、夢野彩香には昏睡状態になっている妹が一人おるらしいです」

「昏睡状態と言うと、植物人間常態か?」

「いえ、勇気の考えている昏睡状態とは多少違いますね。診断結果には呪縛とされています」

「と言うと、呪いの類か」

「おそらくは」

「……なるほど。呪いの類はそれなりに広まっているはず。なのに解呪出来ないとなると西洋の類と考えるよりも東洋の術と考えるべきか」

 西洋と東洋の術の二つには色々と異なる点がある。

 根底的に違うのは力の発生源。

 自然の力を取り込み自分の力へと変換して生み出す西洋式が主流に対して、東洋式は己の元々存在する力を伴って生み出す。

 変換型と放出型なんて括り分けされているが、殆どの人間が西洋式を扱っているため、東洋の魔法は殆ど知られていない。

「ご推察の通りかも知れませんね。……勇気、貴方ならその呪いの類を看破する事は出来るのでは?」

「無理だろうな」

 師匠の現に間髪いれずに答える。

 その答えの速さに流石の神藤も我慢仕切れなかったのか喰らいつかんと言わんばかりに詰め寄る。

「諦めるのが早すぎませんか勇気。貴方は九字の魔法だって使えたのに」

「九字の魔法と解呪は別物だ。それに呪いの魔法は俺にとっては高等レベルの魔法。習得出来たとしても半年は掛かる」

「なら打つ手は――」

「まあ、待て」

 絶望に近い声を上げる神藤の言葉に被せる。

「先ずは様子を見るのが先決だ。ここでああだこうだと言っても、水掛け論にしかならない。それに諦める必要はないはずだ」

「え?」

「俺が知っていた神藤祐希は紛いなく天才だっただろ? もし、俺の知る東洋の術式ならば教えることが出来るさ」

 ポカンと口を開いたまま目を点とさせる神藤。

 意外だ、と言わんばかりの態度に少し違和感を感じたので、ひょっとしてと思い、師匠の方に視線を動かすと案の定、師匠はおかしそうに腹を抱えて笑うのを必死に堪えていた。

「まさかと思うが師匠?」

「ご、ごめんなさい。まだ、お嬢様には」

 だと思った。道理で、さっきの師匠の言葉に何もピンと感じなかった訳か。

 蚊帳の外に置かれている立場の神藤が「どう言うわけ?」と首を傾げながら問うて来る。

「……ま、詳しい事は後々に師匠に聞けば分かると思うが、東洋の術式は俺のテリトリーだったと今は言っておくかな」

 まるで納得していないみたいだが、今はその辺で簡便してもらおう。

 無理してこの話題を長引くのもあれなんで、そろそろ気になった話題に意向させてもらうことにしようか。

「ところでさ、神藤。そろそろ何で男装していたのか理由を聞いても?」

「……さっきから思っていたけど、何で神藤な訳?」

「はっ?」

「今まで見たいに名前で呼べばいいじゃん。それかマイハニーで」

「そのネタ、まだ続いていたのか。でもしかしさ、男の時は『ゆうき』で、女のときは『ゆき』なんだろ? ちょっと俺としては直ぐに間違えそうだから、神藤で落ち着いたんだが」

「うん、即刻呼び名のチェンジを要求します」

「し、しかしな」

「じゃないと、協力もしないし、男装になった理由も話しません」

「な、なに膨れ面になっているんだよ。子供じゃあるまいし」

「知りません」

 だんだん返答が子供化しているな。何処で地雷を踏んだんだ俺は。

「ほらほら、可愛い顔が台無しだぞ。いい女はそんな顔をしないはず。なあ、師匠」

「そうですね。お嬢様、呼び名は直ぐに変えろと言われても難しいので、今まで通りに『祐希』で続けてもらってはいかがでしょう。慣れてきたら、マイハニーでもマイエンジェルでも好きなように強制的に呼ばせましょう」

「ちょっ、師匠? 何か、だんだん呼び名がおかしくなっていませんか」

「それぐらい言わないとお嬢様の機嫌なんて治りませんよ。ね、お嬢様」

 さっきまで膨れ面だったのに、今は「そうね」と呟きながら思案顔になっている。

 もしかしなくても、さっきの表情は演技だったんだろうな。そこまでして俺に恥かしい呼び名を呼ばせたいのだろうか。

「まあ、勇気にそこまで期待するのも少し無理か。そうね、勇気。今までどおり、わたくしの事は祐希で良いわよ。でも、なるべくなら、二人っきりの時は優希がいいな」

「分かった、努力しよう。ハニー」

 意趣返しのつもりで、少し恥かしかったけどお望みの言葉を言ってみた。

「なっ!?」

 効果覿面って所か。一瞬にして顔が赤くなる。

 何だよ。自分で呼ばせようとしといて、肝心の自分は免疫ないのかよ。

「そ、そんな事よりもわたくしの秘密でしたわね」

 祐希は自分を落ち着かせるように咳き込み、俺のハニーの発言に触れる事無く話題を戻した。

「別にいいぜ。大方、拓馬さんが可愛いお前に変な虫が付くのを恐れて男装にもさせたんだろ?」

「か、可愛いって。……う、うん。まあ、半分はそうなんだよ」

「半分? 他の半分は違った理由なのか?」

「そうなんだ。その、あの、落ち着いて聞いてね、勇気」

「ん?」

「実は残りの半分は、わたくしが男装していると気付いた男性は、わたくしのお婿候補にするってお父様が」

「……は?」

 何だそりゃあ。

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