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前編

 「春と言えば-恋、出会い、そして別れ。

 夏と言えば-海、部活動での大会やコンクール、それに恋。

 秋と言えば-空、高く見える空を眺めたり、スポーツや恋に情熱を注いだり。

 冬と言えば-寒さ、厳しい寒さ、真っ白な雪景色、あと恋とか。

 結論を言えば、恋に適していない季節なんて無いんだよ」

 「いや、いきなり何?」

 陸上部である少年、後藤と柿沢は国道を走っていた。因みに季節は春。だからか、春だからこいつはワンダホウな事を言いだしたのか。ならば仕方無い、と一方的に語られた後藤は思った、思ったのだが、

 「お前彼女いるじゃん」

 そうなのだ、ナイスなキチのこの少年には何と彼女の地元にある女子高に通っている彼女がいます。何処で知り合ったなどの馴れ初めは頑として口を割りませんが、彼女の高校は後藤の家の近くにあるらしいです。この間柿沢が後藤宅に遊びに来たときに驚かれたのはまだ記憶に新しいです。

 「彼女、か……ふ」

 ちょっとニヒルにアンニュイな顔しながらそんな事を言う柿沢。割と美形な顔をしているが、今は汗だくになりながら走っているのでニヒルもアンニュイもへったくれもない。端から見ればただ汗だくな少年が変な顔をしながら走っていると言うだけの結果である。

 そんな事に気付いてか気付かずか。

 「何、お前彼女と別れたの?」

  少し期待している事は内緒です。分かれている事を望んでいるのも内緒です。願わくばふられている事プリーズ!と思っているのも内緒です。

 そんな少年の願いも届かずに悲しい現実を知らされます。

 「馬鹿を言うな。そんな訳無いだろう。彼女の姉妹とも仲良くさせてもらっているし何より彼女とは相思相愛だよ…言わせるな」

 ふ。と、最後に「ふ」とか言いやがりましたよこの変態は。いや、キモいよ!汗だくになってキメ顔で「…ふ」とか言ってるってほんとキモいよ!

 友人として現実を教えてあげるかそっとしているのか決めかねていると、

 「俺は、彼女とずっとそばにいる」

 「もう止めてー!」

 叫んで駆け出してしまいました。現実も教えずに逃げ出しました。

 「あ、おい!待てよ!」

 逃げられたら、追いかけます。

 追いつきました。

 「はぁ、はぁ、…っクソ!何で追いかけてくるんだよ」

 「いや、後藤が逃げるからだろう」

 クソッ。っと悪態を吐いてから憎々しげに後藤は柿沢を睨む、と言うほど敵意に満ちてはいませんが、まぁ面白くない目で柿沢を見ます。

 「てか、何でお前は息が切れてないんだよ。どんだけ体力あんだっつうの」

 「そりゃおめ、少なくともお前よりは確実にあるよ」

 そうなのだ。更に憎い事にこいつは足が速い。今まで勝った事なんて自分が小学生くらいの時が精々だ。

 おまけにルックスも良い、そして彼女も居るとくればもうこいつはクラスで男子からハブ決定だったのにこいつの痛い言動がクラスで受け、今やクラスの人気者。しかも人当たりも良いから他クラスにも教師にも信頼されているという、おいおい、お前どこの生徒会長だよと誰もが突っ込みたくなるような、そんな人でした柿沢って。あと渋くて良い声してる所も一部女子から人気です。

 「んで、結局何が言いたいんだよ」

 少しイラつきながら問いかけます。

 「いやさ、今はさ、春じゃん」

 「あぁ、ポカポカして走るにはいい気候だよな」

 「んで、最初の話に戻るけどさ…お前、恋したくない?」

 「したくない」

 そう言って後藤は駆け出します。

 「おい、待てよ……おい待てって!」

 待てと言われて待つ奴は居ないんだよ!とばかりに後藤は猛ダッシュ。ガンダです。

 「まだあの事気にしてんのかよ!」

 走りながら柿沢は怒鳴って問いかけます。が。

 「………あの事って何だよ」

 そんな訳であの事なんていうものは無いのです。


    σ

 

 帰り道。

 さっきの事を思い出しながら後藤は帰りの通学路を歩いていた。

 帰りは皆それぞれ違います。

 彼らが通っているのは地方都市に建てられた高校で、県の端のほうに建てられた私立高校で、交通の便も良いので県内外から人気のある高校で、更に偏差値もそれなりに高い高校で指定校枠も充実しているときているので、それは大変な人気のある高校でした。

 そんな高校でしたので大体皆電車通学です。

 地下鉄やら何やら複雑に乗り換えて1時間以上かけて登校する人がいたりいやいや俺は一本で帰れるぜって人もいれば俺は自転車通学だぜ地元なんだぜという人まで様々です。そして後藤は電車通学組でした。

 電車通学といっても、県外から来る人のように電車で1時間以上かかったりはせず、朝早く起きれば自転車通学できるという距離でしたが母親が「朝早くからお弁当作るのは面倒くさい」と切り捨てたので彼は電車通学です。家から学校までの移動でかかる時間はおよそ二十分。電車乗車時間は約十分です。

 ちなみに彼は今住んでいる家のそばに友達は一人もいません。別に彼がハブなのではなく彼が中学生の頃に父親に転勤が決定して高校受験を控えた後藤は引っ越したくないと父と戦いましたが最後には折れて私立である今の高校を受験し見事合格。そしていざこの地へ来て学校へ通ってみれば、友達は人並みに出来ましたが何故だか自分の住んでいる家の近くにクラスメイトどころか学年で誰一人すんでいない穴場スポットに越してきたのでした。そんな訳で家の周りには友達が一人もいないのです。

 電車から降りて駅から自宅へ帰ろうと頑張って歩いています。余談ですが、後藤は部活中何かに取り付かれたように一心不乱に走りこんで、普段の練習メニューのざっと二~三倍は走りこんでいました。ちなみに彼は長距離選手です。

 部活でフラフラになるまで走りこんだ後藤はあることを考えながら歩いていました。

 (今日新しいエロ本の発売日じゃん)

 そんなことを考えて家路に着くのでした。

 そして家に着くなり自分の部屋に行って着替えてリビングに行って、母親に一言かけてから出掛けます。

 「じゃあちょっと出掛けてくるよ」

 「えぇ~あんたどこ行くのよ、もうすぐ夕飯よ~」

 「いや、夕方のニュース見ながらだらだらしてる主婦にそんな事言われても説得力が…」

 「今やろうと思ったのにそんな事言われるとやる気なくなるんだけど」

 「それ普通子供の台詞だよね」

 「気のせいよ。それよりあんた何処に行って何時くらいに帰ってくるか言いなさい。帰ってくる頃には晩御飯できてるから」

 「えっと、時間は、今が十九時だから、長くて二十時くらいかな。場所は本屋」

 「あぁそういえば今日はあんたが毎月買ってる雑誌の発売日だったわね」

 「何故それを!?」

 「親を舐めるなよ。小僧」

 どうやらこの家は親子仲は大変いいようですね。

 「…まぁいいや。じゃあ行ってくるね」

 「はいはい、行ってらっしゃい。さ~てと、あたしはご飯の用意でもしますかね」

 会話を切り上げて後藤は靴をはいて玄関から家を出ようとしたときに。

 「あぁー!お米が無い!…はっ!麺も無い!?柳ー!帰りにご飯狩って来てーお金はレシートと交換よー!」

 「その狩るだとご飯はこんがり肉か生焼け肉になるね」 

 上手に焼けましたー、と呟きながら家を出るのでした。


    σ


 本屋に行く途中に後藤は、春先はまだやっぱり寒いよねー、ねーそうだよねー寒いよねーと脳内会議で決定したのでコンビニでホットココアでも買おうかな~と思い進路を一時変更してコンビニへ。

 「ぃあっしゃっせー!」と無駄に元気で運動部語な店員さんが迎えてくれましたが華麗にスルーしてホットドリンクのコーナーへ。

 (う~んコンビニに来るといつも迷うんだよな、入ってくるときはココアのつもりだったけど色々見てたら…ミルクティも捨てがたいし、コーヒーというのも乙だ、さてどうするか…)

 こういう時にはとことん優柔不断になってしまう彼はこんなことを考えながらたっぷり十分以上悩みに悩んで何を買うのか決めました。店員さんの(熱い)視線なんて気にしないぜ。

 結局最終的には当初の予定とは大きく外れてカップアイスを購入した後藤はコンビニ前のベンチに腰掛けてアイスを一人で食べていました。通行人の、何でこんな寒空の下一人でアイス食べているんだろう…という視線も気にしません。もし問われたら、「有志です」と答えることも決めてゆっくりと食べることにトリップしています。もはや彼の頭の中にはアイスうまーしか考えられない状態です。周りも見えていません。隣に同い年くらいの女の子が座ったことにも気づかないトリップぶりはもう無我の境地です。

 アイスうまー状態から脱して、当初の目的どおり本屋へ旅たつのでした。

 そして後藤が去った後、隣に座っていた女の子はまだホットココアを飲んでいるのでした。

 そしてそのこの容姿が割りと後藤好みの背が少し低く、きれいな黒髪でショートヘア、更に顔立ちも綺麗というよりは可愛らしい見た目の中々の女の子といういうことも気づかないのでした。

   

  σ


 (あ、アイスのゴミ捨てるの忘れてた)

 手にアイスのゴミの入ったビニール袋を持ったまま本屋に着きました。

 (その辺で捨てるのも後味悪いし、家に帰ってから捨てるか)

 本屋に着いた後藤は結局狙いのエロ本、「月刊インモラル」を買わずに出てきました。

 今月号は先月号の予告を見てとても楽しみにしていた以下略な企画が目白押しだったので先月から楽しみにしていたのすが。 

 「何で売り切れなんだよ、くそっ」

 そんな事を言って本屋から出てきて向かった先は先ほどのコンビニ。エロ本に使うはずだったお金で今日の晩御飯を狩る、もとい買うためです。

 向かう途中に何を食べようか散々考えました。幕の内弁当にするか海苔弁当にするかハンバーグ弁当にするか焼きそばにするかカップめん系で攻めるかそれとも惣菜パンを買っていって母親と二人で分けながら食べるか。色々考えながらボヤボヤ歩いていました。

 その結果考えすぎて目当てのコンビニを通り過ぎてしまいあぁもういいや弁当屋に行くか気分じゃないけど。と思い弁当屋に着いたところで弁当屋のシャッターが下りていることに気づきました。まだシャッターを下ろすには全然早い時間帯です。スーパーに行けば今夜のおかずのために各家庭の主婦たちが普段では見ることのない眼をギラつかせて商品を吟味しているはずです。

 おかしい…。と思いシャッターを見ると。

 『従業員が旅行でサイパンに行っているのでお休みです☆』と書かれた張り紙が。

 ブッチィィィィ。

 と、そんな擬音が聞こえるくらいにMH5(マジでハジける5秒前)の後藤でした。

 (はぁ、今キレても仕方ないし、歩くのはめんどいけどコンビニに戻るか)

 遺憾な思いで来た道を戻るのでした。

 (くっそ、サイパンて、サイパンてなんだよちくしょう)

 もやもや歩いて今度は通り過ぎたりせずにコンビニにたどり着けました。

 先ほど気づかなかった少女は、何をやっているのでしょう大量のホットココアやらホットミルクティやらの空き缶が散らばっています。うわー女の子があれはないわー。と、冷静ならば思ったでしょうが今彼はサイパンを呪っていたので冷静ではありません。

 溢れかえる空き缶なんか見もせずに少しすかして入店します。

 コンビニ内では店員さんが暇そうに「ぃらっしゃぃませぇ~」とやる気のない声で出迎えてくれました。さっきの人とは偉い違いだなおい。とか思って弁当コーナーへ。

 再び長考モードです。

 (う~む。どうするか、そういえば母さんご飯買ってこいとしか言わなかったな、つまりメニューは俺に任せるということでいいんだろうけど、あの母のことだ、気分とは違うものを買っていったらぶぅぶぅ言われるな。絶対言われる。さてどうしたものか…やはりここは、肉か。肉しかないのか。でもなー最近母さん太り気味なんだよな。どうするか。カロリーとコレステロールが低くないと初老に王手のあの母は辛い筈だ。しかもあまり胃に重い物を買っていくと

最悪俺が食わされるからな…。あぁでも結局二個買っていくんだから俺のとどっちがいいか選ばせて俺が余ったのを食べればいいだけか?でもそれでもやっぱり俺も肉食べたいしな……)

 散々悩んで彼はチキンステーキ弁当ととろろ蕎麦弁当を持ってレジへ。

 「お会計七百六十三円になりましす」

 そういわれて千円札を出します。おつりとレシートを袋に入れて母親から千円札分捕ろうという魂胆ですね。

 「千円お預かりします……二百三十七円のお返しになります」

 「あ、レシート下さい」

 「恐れ入ります」

 買い物も済んで、もういい加減体が冷えてきたので帰ろうと気持ちを帰宅にセットします。寒いのはさっきアイス食べたからではないんですか?

 そして、店から出てきた彼はある物に、ある生き物に気が付きました。

 そのとたん彼は回れ右して三度コンビニの中へ。

 店内へ入った彼はまず手洗い場に行って捨てずにいたカップアイスの蓋を念入りに洗いました。そしてトイレから出てホットのお茶とペット用の粉ミルクを購入します。そして手洗い場にいってお茶の中身をすべて捨ててからポットに行き空いたペットボトルに三分の一程お湯を入れて手洗い場へ。そこで先ほど買ったペット用粉ミルクをボトルに入れてよく振り、最後に水道から水を流して人肌程度にミルクを冷まします。

 必要なことを手際よく終わらせた彼は、今度はミルクが冷めすぎないよう急いでその生き物のところに向かいます。

 手際よくカップアイスの蓋にミルクを注ぎます。

 そしてその生き物の口元にミルクを置きました。

 そこにいた生き物は、子猫でした。

 小さな子猫が一匹だけ、捨てられていました。

 灰色をした可愛らしい猫で、手のひらに収まってしまいそうなくらい小さいです。

 その小さな命は藍色の目を開き、必死に這って、ミルクを飲もうと頑張りますが、容器が大きすぎて口が届きません。

 立ち上がる元気すらない子猫を見て、彼は慌てて子猫を持っていたハンカチで包んで、ペットボトルのふたにミルクを注いで子猫の口元に置きました。 

 すると、子猫は今度は小さくピチャピチャと音を発てて飲み始めました。

 最初はゆっくりしか飲めなかったミルクも回数を重ねるごとに元気を取り戻しているようです。

 次に後藤は先ほど飲めなかったアイスの蓋にミルクを注いで子猫の元に置きました。

 今度は元気良く、とはいかないまでも先ほどは届かなかったものからミルクを飲んでくれる位の元気は取り戻してくれました。

 ほっと一息つきますが、今度はどうすればいいのか分かりません。

 後藤の家は家族みんな動物好きですが母親が猫アレルギーなので猫はつれて帰れません。

 友達の家も近くにはありません。どうしようかと柿沢にとりあえず助けを仰ごうと携帯を開いたときに。

 「やさしいですね、お兄さん」

 「!?」

 後ろからいきなり声をかけられました。

 「え?…何?……え?俺?」

 「そうですよ、お兄さん以外に誰がいるんですか」

 クスクス微笑んで後藤を見つめるのは一人の少女。

 「あぁ、君は」

 良く見れば先ほどベンチに座っていた女の子です。

 「空き缶少女じゃないか」

 空き缶をはべらせていた女の子です.

「いや、その認識はあんまりじゃないですか?」

 引きつった笑顔で語りかけてくる少女。

 「いや、だって実際すごい量だったじゃん。てか良くあんなに店にあったよね」

 「べ、別にいいじゃないですか!ココアが好きなんですよ!…ってそれより、今はその猫ちゃんの方が大事でしょ」

 「あぁ、そうだった」

 言われて後藤は途方にくれていた自分を思い出しました。

 「さっきからその子見てましたけど、大体の人は見るだけで素通りしていくだけでしたね。お兄さん九竹(ここのつたけ)の生徒でしょ?そのハンカチ。いやぁ~あたし感動しちゃったよ~フラフラしてた若者が子猫を躊躇なく助けるってさぁ、お兄さんいい人だね」

 「…その理論で言えばお前は悪人だな」

 「……………」

 「何で黙ってんだよ。俺の言いたい事分かるだろ」

 少し、イラついて空き缶少女を詰問します。

 「あたしは…」

 「何だよ」

 俯いて女の子はバツが悪そうに答えます。

 「別に、その子が死んでも困らない」

 そういわれた瞬間に後藤の手が振り上げられました。

 「っ!!」

 「ひっ!」

 後藤はおびえた顔の少女を見て、それから振りあがった自分の手を見て驚きました。

 「あぁ、いや、ごめん」

 「いいんです。あたしもそれくらいは覚悟して言いましたから」

 少し気まずい空気が流れます。

 「何でだよ…」

 「え……?」

 「何で分かっていてこいつを放っておいたんだ?」

 後藤は感情を押し殺して少女に問いかけます。

 「死んだって構わないって、嘘なんだろ」

 「っ!」

 驚く少女。

 「別に簡単だろ、お前が俺の高校当てたみたいに、俺だってこれくらいの推理は出来る。お前、本当にどうでも良かったらあんなに空き缶貯めてまでこいつのこと見てないだろ?」

 喋っていくうちに穏やかな口調になりながら後藤はまた問いかけます。

 「あたし……動物怖いし」

 「………じゃあ、しょうがないね」

 「いや、棒読みやめてくださいよ!あたしだってちょいちょいぎりぎりの距離まで近づいたりして様子見てたんですよ!それにお姉ちゃん呼ぼうとしたし!」

 「でも呼んでないんでしょ?」

 ちょっといじめモードになってきた後藤。

 「だってそれはあなたがどんどんやっていってるから!それで、様子見てたらあなたが困りだしたから声をかけようと…」

 尻すぼみに小さくなっていく声に後藤は。

 「あぁ、そうなんだ」

 とつれない返事。

 「今はそれよりこの子をどうするかだよ」

 「そうですね!あなたの家は無理なんですか?」

 「いや、俺の家は母親が猫アレルギーだから無理なんだ」

 「え?じゃああたしの家に連れて行ってもいいの?」

 「ん?何だ、それなら助かるよ。ちょうど今友達に引き取ってもらえないか連絡しようとしてたんだよ。

 「あ、そうなんですか?なら良かった。滑り込みであたしが貰って良いってことですよね」

 「まぁそうなるね」

 話は纏まりました。

 「じゃあ後はこいつをあんたの家に運ぶだけか。えぇと、あんた」

 「住野依(すみのより)です」

 「え?」

 若干名前を聞いて聞き覚えのある名前だと思いましたが今それは関係ないと気のせいにして。

 「あぁ、名前か。俺は後藤柳だ。宜しくな」

 こちらも自己紹介をして話を元に戻します。

 「んで、住野…さん?」

 「依で良いですよ」

 「そうか?なら俺も柳で良いよ。あと、タメ口も良いよ。お前さっきから敬語だったりタメ口だったり迷いすぎだよ」

 ちょっとなれなれしい後藤ですがこの住野という少女は天然なのか馬鹿なのか…いえ、天然なのでしょう。

 「あ、よかった~実はめっちゃ図星なんだよね~。あ、でも呼び名はさん付けでいくよ。年上に対するあたしのルールだから」

 馴れ馴れしい感じには気づかないのでした。

 「まぁそういうなら止めないよ」

 後藤もそういって話を続けます。

 「んで、依。あんたこいつ放置して立ってことはこいつに触れないって事で良いんだよな?」

 「まぁそうですね。自慢じゃないけどあたしは全動物に触れません」

 やっぱり所々敬語になる住野に苦笑しつつ。

 「マジか、いや参ったな…」

 と困ったアピール。案の定住野は食いつきます。

 「ん?何が?」

 「いや、これ」

 といって後藤は手に持っていた晩御飯を住野に見せます。 

 「ん?何?これは?」

 「晩飯。家の。なんだか今日は米も麺も無いらしくてな。母親に頼まれてお使いの途中だったんだよ。この流だと俺が依の家にこいつを届けないといけないわけだろ?」

 「まぁそうなりますね」

 「まぁ、お袋も事情を話せば分かってくれるだろうけど、さすがにこれ以上待たせるのはな…」

 そういって時計を見ると時刻は二十時半。当初の予定よりも三十分も遅れています。

 「あぁ、そういうことなら、送るのは後で良いよ。先に柳さん家に行こ?」

 後藤にそういって後藤が子猫を。住野が後藤の荷物を持って歩き出すのでした。


   σ


 結局、家の方向確認の段階で帰る家の方向が同じだったのが判明して、なんだー案外家近いんじゃね?みたいですね、もうラッキーボーイ&ガールだねーあたし達。

 などという人に見られたくない会話をしながら二人で帰路を辿って、後藤の家の前に着いたとき。

 「あれ?」

 「ん?どうした?依?ここが家だぞ?」

 「マジ?」

 「マジ」

 その会話の後、俯きながら住野は手を上げてあらぬ方向へ指をさしたと思ったら。

 「あっち、あたしん家」

 家の裏のほうの家を指してそう言い放ったのでした。


   σ


 「いやぁ~柳が女の子を連れてくるなんてねぇ~って猫!?猫がいるの!?柳!どうしたのこの猫!?拾ってきたの!?捨ててきなさい!私が猫アレルゴイって知ってるでしょ!?」

 「……面白いお母さんだね」

 「……だろ?」

 時は少し戻って、家がまさかのご近所さんだったことが発覚して、とりあえず後藤家にご飯を置いて猫を連れて行こうという当初のプラン通りに行こうという結論になり、玄関を開けたところちょうど後藤母が出てきて二人を見てとりあえず中に二人を入れて満面のお母さんスマイルでご飯を食べようとしたときに、「はっくしょい!…このくしゃみは……猫!猫がいるでしょ!」

 という感じでハイテンションになっている母を目の前にした二人。という状況である。

 「いやー!猫ー!」

 「母さん、一回!一回落ち着こう!ほら!お客さんもいるんだし!」

 「……そうね」

 「ふぅ」

 「お母さん今アレルゴイって言いましたよね?」

 しっかり突っ込む住野でした。

 その後はご飯を置いてすぐに家を出て住野の家に向かいました。


                前編・終了。 

最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。よろしければそのまま感想など書いていただければ幸いです。

途中で読むの止めたよ!という方、途中まででも読んでいただいてありがとうございます。次はあなたも最後まで読みたくなるようなものを頑張って書いていきたいので、次回作に期待してください。

中編か後編かは分かりませんが、今月中には投稿しますのでよろしければご覧ください。

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