出会い
学校でも評判の美少女、恵里菜は、放課後、忘れ物を取りに教室に戻った。すると、教室の窓際で、一人肘をついて本を読むクラスメイト、安紀が目に入る。恵里菜は、その姿を始めてよく見たが、意外と美しい。しばし見惚れる。そのまま、近づくと、他の男子だったら、「何?」とか、「えっ」とか、すぐに動揺した顔をするのに、安紀は、何の反応も示さず、誰もいないみたいに本を読み続けている。「ねぇ」と恵里菜は、あの可愛らしい声で言うと、安紀は顔を上げて、「何?」とやっと言う。恵里菜が、「何で教室に残ってるの?」と聞くと、安紀は、眉をひそめて、「君だれ?」と返してくる。私を知らない男子がいたんだ……。「石川恵里菜」と恵里菜は、安紀の肘をつく机に頬杖をついて、上目遣いで言う。安紀は自分から聞いたくせに、どうでもいいな、という顔をして、机から体を離し、「話したことあったっけ?」と聞く。恵里菜は、何、何でこの人は、動揺しないの?と思うが、ああ、奥手、それか女子を知らないんだなと思って、からかいたくなるので、「ないよ、でも、これから毎日話しかけるかも。」と言う。安紀は、今度は、切れ長だけど、やけに澄んだ瞳で、「どうして?」と言う。恵里菜は、「気に入ったから。」と臆面もなく言って、相手の反応を見ているが、安紀は、「気に入ったから?」と繰り返すことしかしない。恵里菜は、「ねぇ、まずは一緒に帰ってみる?今日」と、質問のように、しかし、もう返事は決まったことのように言うと、安紀は、「今、本を読んでるから」と答えた。恵里菜は、誘われたことはあっても、自分から誘ったことはないし、しかも、それが断られることなんて絶対にないと思っていたので、悔しい!何でこんな陰キャに、と思うが、敢えて明るい声で、「えー、そんなこと言うなら、先生に言いつけちゃおうかな?部活やってない生徒は、もう下校時刻過ぎてるよ!」と言うと、安紀は、また、眉をひそめて黙っている。恵里菜は、意地になって、「今日は恵里菜と帰るの」と言って、安紀の、白くて細い腕を少し引っ張ると、安紀は、不機嫌そうに、「やめて」と言う。恵里菜は、「じゃあ、先生に言うからね」と言うと、安紀は、ため息をついて、「なぜ僕と帰りたいの?」と聞く。恵里菜は、「お気に入りだから」と言って、また腕を絡める。恵里菜は、安紀に、「ほら、まず本をしまって」と言って、本を鞄にしまわせて、「行くよ!」と腕を引っ張る。安紀は、「やめて」と、途中途中、何度も言ったが、恵里菜は、無視して、どんどん事を進める。安紀は、人と話した経験があまりないので、断り方も分からず、強く言われると、なぜ?とは思うが、興味もないので従ってしまう。
恵里菜は、何だか自分がとってもドキドキしているのに気づいて、えっ、どうしたの、私。調子狂うな。と思っている。でも、ずっと、ドキドキ、下足ロッカーでドキドキ、校門を出る時、ドキドキ、学校の道の角を曲がる時、ドキドキしている。安紀の顔を見ると、抑えがたいような、気持ちが湧いてくる。恵里菜は、全く初めての気持ちに戸惑っていた。
ある曲がり角で、「僕、こっち」と安紀が言うので、本当に寂しくて、「待って」と声をかける。安紀は、立ち止まって振り返る。その目は冷たくて、とても、一緒に帰った(中学生にとって、それはとても大きな意味を持つ行動!)とは思えない。恵里菜は、次はないかも、と初めて実感させられるので、思わず、安紀の薄い唇に、校則で禁止されているリップをつけている自分の唇を重ねてしまった。
唇を離すと、また恵里菜は、上目遣いで、安紀を見たが、安紀は、自分の細い指で唇を触って、いつまでもその指先を見て、恵里菜を見ない。恵里菜は、当然、喜ぶよね、という無自覚の自信があるので、動揺や少なくとも何か言葉があるかなと思って待っているが、安紀が指ばかり見ている時間は長かった。恵里菜が、じれったく思いながら待っていると、ようやく安紀は顔を上げた。そして、ゆっくり恵里菜に近づいて、恵里菜と同じようにキスをした。恵里菜は、この行動に驚いて、動揺させるつもりが、あのパッチリとした目をさらに見開いて、キスされていた。
安紀は、「僕と何がしたいの?」と、恵里菜に聞く。その言葉は、卑猥に聞こえてもおかしくないが、全くそんな感情、というか熱がこもっておらず、何か無気味ささえ感じられた。恵里菜は、「家に行っていい?」と、思わず聞く。「何で家に来たいの?」と、追い詰めてくる。恵里菜は、気を取り直して、「安紀くんは、なぜだと思う?」と、すかさず切り返す。
「僕に抱いてほしいのかと思った」
と安紀は、はっきり言った。恵里菜は、この素っ気なさに思わず吹き出して、「えっ?」と言うと、安紀は、「違うの?じゃあ、どうしてキスしたの?」と、「やめて」と言った時と、口調を変えずに言う。
続く




