15.君の名は
レイさんを待つ間、みんなで仲良くおしゃべりしていた。
まあ、もっぱら喋るのはベティさんとランディさんで、二人の会話を聞きながら、時折おばさんとおばあちゃんが口を挟み、おじさんとおじいちゃんは聞いているだけという感じです。
我が家はどうだったかなと考える。
弟妹の賑やかな声と、それを小鳥のさえずり程度に変換しているのか、二人の甘い世界を繰り広げるお父さんとお母さん。
……なんだか涙が出そう。私まで伯爵家のポーズがしたくなってしまったわ。
「お連れ様がお見えになりました」
おおっ。レイさんが格好良くなっている!
そうよね。私が良いところのお嬢さんになれるなら、レイさんも良いところのお坊ちゃんになっちゃうわよね?
「お待たせして申し訳ありません。ですが、ご家族での晩餐のお邪魔になりませんか?」
何でかな。見た目だけでなく、話し方も違う。ぶっきらぼうなレイさんはどこに行ってしまったの。
「とんでもない。可愛い姪っ子を助けてくださったのですもの。さあ、座ってちょうだいな」
おばさんに勧められ、レイさんが私の隣に来た。
「ごめんね? お料理が多かったから誘ってしまったわ」
私の言葉の意味をすぐに理解したのだろう。レイさんがちょっと笑って。
「貴族の考えって意味不明だよな」
そう、小声で言ったのだ。
本当にね。そう返事をしようとして、ふと気がついた。
『貴族の考え』? 私は量が多いことは言った。でも、残すのがマナーだとは言っていない。それなのに、どうして──
「……レイモンド・オハラ?」
「ベティ? 突然どうしたんだよ」
「兄様! この人、あのオハラ家の長男よ!」
……なんの話? あのって何。オハラってどこのオハラさんよ。何より。
「ベティさん。人を指差してはいけません!」
なんて失礼なことをするの!
腹が立って、思わず叱ってしまった。
「あっ、ごめんなさい。で、でも!」
「レイモンドは本名だけど、オハラとはもう縁を切ったから関係ない。ほら、フィリシア食べよう。腹が減っているから怒りっぽくなっているぞ。あ、遠慮なく食べちゃいますよ?」
レイさんは誰も返事をしていないのに、さっさと料理を切り分けだした。
カトラリーを扱う手つきに危なげはなく、きれいにお皿に盛り付けていく。
「ほら、食べようぜ。腹ペコなんだ」
さっきまでお行儀よくナイフを扱っていたくせに、一口サイズに切り分けたお肉を私の前に差し出した。これは、私に食べろと言っているのか。
おじいちゃんの眉がピクリと動いた。
……そろそろ怒鳴りそうだ。
このままでは食事がお預けになりそうだと気付き、慌ててお肉を口に入れる。
「……おいしい」
え、何これ。柔らか! うまっ!
思わず、次に差し出されたフォークにも、あーんと口を開けてしまう。
腹ぺこの前には乙女の恥じらいなんて消えてしまうのだと知った。
「いやいやいや、何をしれっと食事しているの⁉」
ベティさんの声に、ようやく我に返る。
お肉の誘惑、恐るべし。
「どうして? 俺は食事に呼ばれた。だから、こうして美味しく頂いている。何か問題があるか?」
思わず私もウンウンとうなずく。お口に物が入っているうちは喋りません。
「……ベアトリス。黙りなさい」
「お父様!」
「彼はフィリシアの恩人、それだけだ。これ以上、失礼な真似をするなら部屋に戻りなさい」
おじさんが叱ってくれてよかった。せっかくの食事が台無しになるところだった。
レイさんを見ると、特に気にしてはいないみたい。
私の視線に気がついたのか、どうした? と言うように首を傾げた。
「レイさんもこのお肉食べて? すっごく美味しいから」
「ん、了解」
テーブルマナーに不安があったけど、レイさんが食べやすく切り分けてくれたおかげでずいぶん楽だわ。
それにしても。私達以外、無言になってしまったせいで食べづらいわね。




