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愛なんか消えてしまえと願う私は悪くないと思う  作者: ましろ


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15/18

15.君の名は

 レイさんを待つ間、みんなで仲良くおしゃべりしていた。

 まあ、もっぱら喋るのはベティさんとランディさんで、二人の会話を聞きながら、時折おばさんとおばあちゃんが口を挟み、おじさんとおじいちゃんは聞いているだけという感じです。

 我が家はどうだったかなと考える。

 弟妹の賑やかな声と、それを小鳥のさえずり程度に変換しているのか、二人の甘い世界を繰り広げるお父さんとお母さん。

 ……なんだか涙が出そう。私まで伯爵家のポーズがしたくなってしまったわ。


「お連れ様がお見えになりました」


 おおっ。レイさんが格好良くなっている!

 そうよね。私が良いところのお嬢さんになれるなら、レイさんも良いところのお坊ちゃんになっちゃうわよね?


「お待たせして申し訳ありません。ですが、ご家族での晩餐のお邪魔になりませんか?」


 何でかな。見た目だけでなく、話し方も違う。ぶっきらぼうなレイさんはどこに行ってしまったの。


「とんでもない。可愛い姪っ子を助けてくださったのですもの。さあ、座ってちょうだいな」


 おばさんに勧められ、レイさんが私の隣に来た。


「ごめんね? お料理が多かったから誘ってしまったわ」


 私の言葉の意味をすぐに理解したのだろう。レイさんがちょっと笑って。


「貴族の考えって意味不明だよな」


 そう、小声で言ったのだ。

 本当にね。そう返事をしようとして、ふと気がついた。

『貴族の考え』? 私は量が多いことは言った。でも、残すのがマナーだとは言っていない。それなのに、どうして──


「……レイモンド・オハラ?」

「ベティ? 突然どうしたんだよ」

「兄様! この人、あの(・・)オハラ家の長男よ!」


 ……なんの話? あのって何。オハラってどこのオハラさんよ。何より。


「ベティさん。人を指差してはいけません!」


 なんて失礼なことをするの!

 腹が立って、思わず叱ってしまった。


「あっ、ごめんなさい。で、でも!」

「レイモンドは本名だけど、オハラとはもう縁を切ったから関係ない。ほら、フィリシア食べよう。腹が減っているから怒りっぽくなっているぞ。あ、遠慮なく食べちゃいますよ?」


 レイさんは誰も返事をしていないのに、さっさと料理を切り分けだした。

 カトラリーを扱う手つきに危なげはなく、きれいにお皿に盛り付けていく。


「ほら、食べようぜ。腹ペコなんだ」


 さっきまでお行儀よくナイフを扱っていたくせに、一口サイズに切り分けたお肉を私の前に差し出した。これは、私に食べろと言っているのか。

 おじいちゃんの眉がピクリと動いた。

 ……そろそろ怒鳴りそうだ。

 このままでは食事がお預けになりそうだと気付き、慌ててお肉を口に入れる。


「……おいしい」


 え、何これ。柔らか! うまっ!

 思わず、次に差し出されたフォークにも、あーんと口を開けてしまう。

 腹ぺこの前には乙女の恥じらいなんて消えてしまうのだと知った。


「いやいやいや、何をしれっと食事しているの⁉」


 ベティさんの声に、ようやく我に返る。

 お肉の誘惑、恐るべし。


「どうして? 俺は食事に呼ばれた。だから、こうして美味しく頂いている。何か問題があるか?」


 思わず私もウンウンとうなずく。お口に物が入っているうちは喋りません。


「……ベアトリス。黙りなさい」

「お父様!」

「彼はフィリシアの恩人、それだけだ。これ以上、失礼な真似をするなら部屋に戻りなさい」


 おじさんが叱ってくれてよかった。せっかくの食事が台無しになるところだった。

 レイさんを見ると、特に気にしてはいないみたい。

 私の視線に気がついたのか、どうした? と言うように首を傾げた。


「レイさんもこのお肉食べて? すっごく美味しいから」

「ん、了解」


 テーブルマナーに不安があったけど、レイさんが食べやすく切り分けてくれたおかげでずいぶん楽だわ。

 それにしても。私達以外、無言になってしまったせいで食べづらいわね。




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