14.私が貴族?
「なんだとっ⁉」
誰にだって、譲れないものの一つや二つはあるものだ。
でも、おじいちゃんはどれ一つ譲りたくないタイプなのだろう。その証拠に、顔を真っ赤にして怒っている。
「じゃあ、おじいちゃんは私とおじさんの娘さん。同じだけ好き?」
「……は?」
「同じ孫だけど違うよね? でも、その愛情の違いはおじさんの娘さんが貴族だから? それとも、一緒に生活を共にしてきたから?」
こういうプライドが高くて居丈高な人に感情的になるだけ無駄だって教えてくれたのもおばちゃんだ。でも、唯々諾々と従うのも駄目なんだって。人付き合いって難しいね。
「ぷっ!」
反論できず、でも認めたくないのだろうおじいちゃんの次の言葉を待っていると、誰かの吹き出す声が聞こえた。
「ふふっ、お祖父様の負けね!」
どうやら笑ったのは娘さんだったようだ。
「私はベアトリスよ。で、こっちが兄のランドルフ。ベティとランディと呼んでちょうだい」
思ったよりも親しげに話しかけられ、ちょっと驚く。どうやら、この家の女性陣はしっかり者が多いみたい。
「……安心した」
つい、ぽろりと本音が漏れてしまった。
「え? 何が?」
「……お花畑の住人がいなさそうなこと?」
「ブフォッ!」
今度はお兄さん……じゃなくて、ランディさんが吹き出した。ずいぶん、豪快だ。
「ソフィア叔母さまは本当に恋愛脳なのね」
「じゃなければ、駆け落ちなどしないだろう」
仲良し兄妹だな。……ちょっと寂しくなってしまった。
「でも、お祖父様が叱ったくらいじゃ改心しないんじゃない? だって、当時から叱られていたはずでしょう?」
「……だって、家族は助け合うものだってお母さんが言うから腹が立って。娘の私では強く言えないから、おじいちゃんに叱ってもらおうと思ったの」
「ふーん? もう、いっそのことご両親のことは放っといて、あなたはうちの子になっちゃえば?」
…………は?
え、怖い。私が簡単に売り買いされてしまいそう。
「犬猫じゃないので、お気軽にお譲りはできません」
自分で言う台詞ではないかもしれない。
でも、どうしよう。貴族怖い。
「ベティ。軽口は止めなさい。あなたは冗談を言っているつもりでも、フィリシアにとっては大変な現実なのよ。でも、人生でままならないことがあるたびに逃げるわけにはいかないでしょう」
うわ、おばさんの言葉は名言な気がする。
「はい。逃げるのは最終手段だと思っています」
「……逃げる気はあったのか」
おじいちゃんが意外そうな顔をして言った。
「やれることを全部やっても変わらなければ。まあ、その時が来てみないと分かりません」
簡単に切り捨てられるなら悩んだりしないし、髪を売ってまでここまで来なかったと思う。
「……ここで暮せばよいだろう」
おじいちゃんから驚きの言葉が飛び出した。
ここで暮らすって、まさか貴族として? 思わず呆然としてしまう。
「……おじいちゃん、ごめんね? 私、じっとしているのが苦手なの。素敵なレディーになるのは無理だと思う」
「そういう問題なのか? ……お前さんとは話が合わなすぎて困るな」
「そうだね。でも、私のことを受け入れようとしてくれてありがとうございます」
暴君なおじいちゃんとの会話に少しだけ慣れてきた。でも、お花畑なお母さんとは絶対に合わないだろうなあと思う。
「フィリシアさん、安心して? ソフィアさんのことは、私とマチルダで対応するわ」
……それは、最強の布陣では?
でもきっと、これくらい強い人たちじゃないと負けちゃうのかも。
「よろしくお願いします!」
「父親の方は私が引き受けよう」
なんと、おじさんも教育係を買って出てくれた。
「じゃあ、そろそろお友達を呼んできてあげたら?」
やった。ごはんを一緒に食べてもいいんだ! ようやく、味方が来ることにホッとする。
……あら? じゃあ、おじいちゃんのしたかった話って、私をこの家に迎えてくれることだったのかな。あっさり断って申し訳ないことをしたわ。
でも、私にお貴族様なんて無理に決まっているから、やっぱり仕方がないのだけど。
それでも、おじいちゃんの中に私達への愛があることが分かってうれしい。
貴族になるのは無理だけど、これからはおじいちゃん孝行をしていこう。




