表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/25

episode8

「みんなお疲れー!」

「お疲れ様でーす!」

腕時計を確認すると夜の9時。業務時間を終えて女子ロッカールームから次々とスタッフが帰宅した。

「お先に失礼します」

私もその波に乗り着替えをして荷物を持ち外に出た。今日は比較的空いてる方だったので、そこまで疲労はない。母の日やクリスマスになるとものすごい混雑する。京本さんに連絡したほうがいいのかな。勝手に訪問したら怒るよね。一応連絡しておこう。

バッグの中からスマホを取り出して京本さんに連絡を入れた。

「凛ちゃん。お疲れ」

「あ、松田くん。お疲れ様」

外で立ち止まっていると、偶然一緒になった松田くんが出てきた。

身軽な格好に着替えており、雰囲気がガラリと変わっていた。

そんな松田くんの前を通り京本さんに連絡しながら歩き始めた時、松田くんが低い声で話しかけてきた。

「凛ちゃん今から暇?」

「あ〜ごめんね。今から寄るところあるの」

「そっか。ごめんね急に」

「いや全然。予定言ってくれたら全然合わせるから」

「ありがとう」

何ターンかキャッチボールをした後、松田くんはまた明日と言って立ち去った。

「うん、またね」

バイト姿はもっと元気にはつらつしてる感じだったけど、今の彼は同い年とは思えないくらい大人に感じた。

ポケットに手を入れて寂しそうに歩く背中が月明かりに照らされていた。働いてる時とそうでないときのギャップがすごいなーと感じる。

「連絡しないと」

思い出したように再び視線をスマホに向けた。京本さんから何件かのメッセージが届いていた。

大人な男性なのに文面は可愛らしい。

口元を緩めて帰路に立った。




「お邪魔しまーす」

「凛ちゃん!おかえり」

「ただいまです.....って、さっそく苦しいんですけど」

黒縁メガネをかけた京本さんが玄関まで来てくれた。

玄関に入るや否や、首が締まるくらい苦しいハグをされた。手が背中や頭に触れて距離がグッと縮まる。私も同じように背中に手を回してハグをした。肩に顔を埋めて自分でも分かるくらい笑ってしまう。

「会いたかったよー」

「ついさっき会いました」

「ずっといたい」

「またそのセリフ」

少し左右に揺れながらしばらくハグをした。一週間の疲れがこれで全て吹っ飛んでしまう。幸せという言葉が脳裏に思い浮かぶ。

「夕飯食べた?」

「食べてないです」

「ロコモコ丼あるから一緒に食べよ」

「ありがとうございます」

2人で笑いながら軽いキスをして部屋の中に入った。

「いい匂いー!」

「味見」

キッチンに立った京本さんが箸にハンバーグを乗せて口元に運んできた。

「ん.....んん!美味しい!」

「うん。いい出来」

京本さんも同じようにハンバーグを食べた。

「味付けはどんな感じにしたんですか?」

「これはね———」

二人でキッチンに立ち、笑いながら部屋が暖かくなった。




「いただきまーす!」

「召し上がれ」

2人で食卓を囲みながらゆったりとした雰囲気で食事をした。

「見てあれ」

京本さんは箸を置いてある方向を指差した。注意を向けると、お勧めしたピンク色の秋桜が生けてあった。

「早速飾ってくれたんですね」

「うん。水の分量、あれくらいで大丈夫?」

「大丈夫です。ていうか京本さんってなんでも出来そうな人かと思ってたけど、お花だけには疎いんですね」

私はイタズラに笑った。

「はいはい黙って食べてくださーい」

「あー!それ私の!」

京本さんは机の上にあった私の分のハンバーグを食べてしまった。私は怒り、ムスッとした態度で食事に集中した。

「りーんちゃーん。なんでそっち向くの」

「京本さんがハンバーグ食べるからでしょっと」

「あ、食べた」

仕返しの意味も込めて京本さんのハンバーグを食べた。

「これじゃただの交換っこですね」

私は笑いながら再び食事を始めた。一人で笑い急に恥ずかしくなった。

チラッと京本さんを見ると、箸を止めてこちらを見つめていた。

「どうしました」

「ううん。ただ可愛いなーって思って」

自然と口元が緩んだ。恥ずかしくなり、何も言えなかった。

京本さんのすごいところは、なんの恥じらいもなく堂々とこんなことが言えること。その度に胸が弾けて、息が苦しくなる。

「そういえば、京本さんお仕事はどうでした?」

「疲れたよ」

「そうですか」

彼がどんな仕事をしているか、気になって気になって仕方がない。でも、彼が言ってくれるまで絶対に聞かない。そう自分の中で決めていた。

「凛ちゃん」

「はい.....なんでしょう?」

「俺ってさ、なんの仕事してるように見える?」

「う〜ん、弁護士、とか?」

すると京本さんは鼻で笑い徐々に声を大きくした。

「俺が弁護士か〜。憧れた時期もあったな〜」

「弁護士じゃないなら、社長さんとか?」

「おっ、近づいてきてるね〜」

私たちはいつの間にか手を止めて話をしていた。食事中だけど、別にいいよね。この家には私たち2人だけ。少し行儀が悪くても京本さんと目と目を見て話せるなら、それでいい。

「凛ちゃん、明日なにか予定ある?」

「特にないですよ。明日は、大学も、バイトも.....あ!どこか遊びに行きます?!」

思わず大きな声を出してしまった。私は口を押さえて恥ずかしくなり下を向いた。なに言ってんだよ私.....

「いいよ、どこか行きたいところある?」

やったー!!京本さんと2人でおでかけっ!

「京本さんは行きたいところないんですか?」

「う〜ん.....じゃあさ、仕事、見に来てよ」

「仕事って、京本さんの.....?」

京本さんは優しく笑い頷いた。

「京本さんのお仕事姿.....見てみたいな〜」

私は口元を緩めた。そして箸を持ち食事を始めた。

「期待しといて」

京本さんはそう言いながらデコピンをしてきた。

「いった〜!」

二人で笑いが起こり、ワッと空気が緩んだ。そんな中でも京本さんでも、かっこいい。



『いま終わりました。そちらに行っても?』


『お疲れさまー。早く来てください』


『分かりました笑』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ