episode6
「いただきます」
机の上に並べられた和食の朝食に思わず見惚れてしまう。こんな栄養抜群の朝ごはんは久しぶり。
「召し上がれ」
目と目が合い、また幸せな気持ちでいっぱいになる。
「んー!美味しいです!」
「よかった」
はぁ.....キッチンに立ってる姿も素敵。私たちまだ付き合って間もないけど、いいよね。こんな恋も、ありかも。
「凛って好き嫌いないの?」
「特にないですけど、強いて言うならごぼうが苦手です。」
「そうなんだ〜」
「な、なんでしょうか」
「んん。なんでもない」
キッチンから頬杖をついてジッと見つめられた。大きな瞳に胸が弾んだ。
「今日は学校?」
「はい。今日は一日中あるんですよ〜」
「大変だね」
「京本さんはお仕事ですか?」
「うん」
結局、京本さんがどんなお仕事をしているのか知らずにいた。でもこんな大豪邸に住めるほどだから、きっとハイスペックな仕事なんだろうな〜。聞こうとも思ったけど、京本さん自身が話してくれる時に聞けばいい。
♢
「ごちそうさまでした。わざわざ朝食までありがとうございます。お皿は私が洗いますので」
「えーいいんですか。ありがとうございま〜す」
二人で朝食を終えた。私は京本さんの分の食器と自分の分の食器を持って台所に向かった。
スポンジを使いながら水で流して汚れを落とす。
その間に京本さんは自室に行って着替えてくると言った。
一人でこんな広いキッチンでお皿を洗う日が来るなんて。なんだか感慨深いな〜。こないだまで普通の大学生だった私が、仕事も知らないような男性と付き合うって.....まるで少女漫画の世界じゃない!
「へへっ」
気色悪く一人で笑っていると、入り口にもたれかかっていた京本さんがいた。腕を組み、すっかり仕事モードの服装になっていた。
「え、あ、京本さん.....!もうお仕事行かれるんですか?」
「うん」
長い手足がさらに目立つスーツ姿が眩しい。
京本さんは苦笑いをしながらこちらを見つめていた。
「そっか〜!もうそんな時間か!私もそろそろ行きますね」
変に笑ってるとこ見られて恥ずかしくなり、高速で食器洗いを終わらせた。絶対変だと思われたよね?!一人でへらへら笑って、気持ち悪いって思ったはず。
はぁ〜恥ずかしい.....
「お仕事、行ってらっしゃい」
京本さんの横で一度立ち止まり、京本さんの目を見て言った。
「凛?」
「はい!」
「.....」
「.....」
「いってきます」
玄関の扉が勢いよく閉まった。いま、キス.....
京本さんはいつも私を困らせる。
♢
「凛おはよ!」
「おはよ」
高校からの友達、北口祐奈。そのまま同じ大学に進学した。学部は違うけど、同じキャンパス内のためよく一緒に登校している。
「今日夜行くご飯屋さんってさ、駅前のカフェでいいよね?」
「うん!あそこ私たちの庭みたいなもんだしね」
「おっけーじゃあ予約しちゃおーっと」
祐奈は元気はつらつで周りをぱっと明るくできる。しかしそれゆえに高校時代はクラスでいじめに遭っていた。うるさい、リーダー気取るな、なんで祐奈?と、みんな裏垢を使って悪口を書き込んでいた。でも生徒間の裏垢なんて一瞬で広まってしまう。誰かが撮った写メが流出して学年集会にもなった。しかし先生側は辞めるよう声かけをするだけで、あとは何も言わなかった。
「私あっちだから行くね!駅前集合で」
「おっけー!またねー!」
でも私は、どうしても裕奈から離れられなかった。私もいじめられていた側だったから。クラスで無視された時、唯一声をかけてくれたのは祐奈だった。あの感動、今でも忘れない。
いまさら高校時代のことを思い出しながら講習室に向かった。
「.....でんわ?」
こんな朝から電話が鳴った。誰だろ?
———あ母さんだ。
「もしもし?」
『凛ちゃ〜ん!朝早くにごめんね!』
「大丈夫だけど、どしたの?」
『東京の暮らし、大丈夫かな〜って心配になっちゃったのよ!それとお父さんが電話しろってうるさいから』
「大丈夫だよ。祐奈もいるし、生活もなんとか一人でできてる」
『そう〜?よかったわ。何かあったらすぐ電話するのよ?わかった?』
「はいはい分かりました。もうすぐで授業始まるから切るよ」
『頑張ってね〜!』
まったく.....遠くからお父さんの声も聞こえたし、よほど心配してくれたんだよね。
「よしっ!」
夜には祐奈との食事が待ってる!一日授業頑張るぞ!
♢
「ずがれたぁぁ!」
「理系は大変だ」
全ての授業を終えて祐奈と約束していたご飯屋さんに来た。
「今日も実験?」
「そうだよ.....もうこりごり」
私はバリバリの理系クラスに所属している。そのため、1日のうちの半分は実験に使われる。
「まぁ今日は食べよ!」
「うん.....!食べて飲んで自分を労る!」
私たちはたくさんの食べ物と飲み物を注文した。
「あっはっはっは!祐奈それはやばいって!」
「あぁ〜ダメだこりゃ」
祐奈と飲むお酒は一番美味しい!はぁ〜楽しいなー!まだ飲み足りないよー。
「もう一杯!」
「凛!もう帰るよ!」
えー!まだまだいたいよぉー!
『お会計どうされますか?』
「玄関で」
『ありがとうございましたー』
「ほら歩いて!」
外に出て少し冷たい風が吹いてきた。
「祐奈の家行きましょうー!」
「はぁ?!今日は凛の家に行くって約束だったじゃん!今日は彼氏泊まってるから無理だよ!」
「えー!」
祐奈の家で飲もうと思ったのに!はぁ風が気持ちいいなー!祐奈の肩にもたれかかって、一緒に歩いて、ずっとこのまま友達でいようね。
「凛?」
「はいっ!誰か私の名前呼んだよね!」
「あの、どなたでしょうか?」
祐奈が誰かと話してる。だ〜れ?
「凛とお付き合いしております、京本響です」
え?!京本さん?!
「お付き合いしておりますって.....あんた彼氏いたの?!しかもこんな高身長イケメンと?!」
「京本さん!お帰りなさい!」
「凛?ここは家じゃないぞ?」
あはは!京本さんが迎えにきてくれた〜!これって私のこと好きってことなの〜!
「とりあえず、あなた本当に彼氏?」
「はい」
「じゃあ凛のこと家まで送ってあげて。ほんとは私の家に来る予定だったんだけど、彼氏いて来れないから。ちょうどよかった!」
「わ、わかりました」
はぁ〜!なんだか眠くなってきちゃった。祐奈の肩にもたれかかろうとしたけど、今度はガッチリとした背中によりかかった。祐奈ってこんなにガタイよかったっけ?
「それじゃあ、お願いします」
「ありがとうございます.....凛?大丈夫?」
あれ?祐奈の声じゃない。だれ?!
「こらこら降りようとしない」
「京本さん?なんでここに.....」
いつの間にか京本さんにおんぶされていた。どうりでガッチリしてるなーって思ったわけだ!
「今は、目を瞑っていなさい」
「えへへ。は〜い!京本響くん!」
『今日お友達と夜ご飯を食べるので、自宅に戻ります』
『分かった〜。迎え必要だったら言って』
『ありがとうございます笑』
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「迎え入らないって、言ったじゃないか。もうすっかり寝てしまって。かわいいな」
「ひびきさん.....」




