episode18
「はぁ〜!おわったあぁぁあ!」
あれからぶっ通しで研究を続けた。時刻は夜の7時。こんな時間まで大学にいることは滅多にない。
「いや〜今日は長かった。2人ともお疲れさま!続きは明日やりましょ」
薫さんはパソコンを閉じながら帰り支度を始めた。私たちも同じように作業を中断して、荷物をバッグの中にしまった。
「俺の分は終わりましたよ」
「あなたの分が終わったからって終わりじゃありません」
「げ〜。あ、明日2時まで講義入ってるんで、少し遅れます」
「おっけー」
私は別の部屋に移動していたため、遠くから2人の会話を聞いていた。私は明日は大学はない。研究もお休みをいただいている。お花屋さんも、売り子もないから完全フリーな日。
「それじゃあ私先に上がりますね」
「おつかれー!あ、ちょっと待って!」
薫さんの声に足を止めた。振り返ると、なにやら財布から取り出そうとしていた。
「はいこれ!2人ともいつもありがとう!ってことでそこの自販機で好きなもの買って」
「え!いいんですか?」
「こんな夜遅くまで手伝ってくれるの、2人だけだからさ。感謝よ感謝。功太くんもどうぞ」
「俺までいいんすか!?ありがとうございます!」
薫さんから小銭800円をもらった。私たち平凡大学生にとって800円は偉大すぎる。
もう一度改めてお辞儀をして丁寧にポケットにしまった。
「凛ちゃん一緒に帰ろ!」
「.....」
「もう〜またー?」
重たい荷物があって疲れてるって言うのに、しつこく話しかけてきてさらに疲れ要素が増える。
早歩きでサッサと帰ってお風呂に入って寝よう。
明日は何をしよっかな〜。1日フリーだなんて久しぶりすぎて何してたか忘れちゃった。
1人で考え事をしている間もずーっっっと話しかけてきた。
「明日はなにするの?」
「未定」
「明後日は?」
「バイト」
彼は聞き流しておけばそのうち静かになる。さらに歩く速さを早めた。
「それじゃあ、私こっちだから、またね」
「お疲れ様っす!」
宮野くんは正門からではなく、裏門から出て家に帰っている。大学の近くに家があるって羨ましい。私は今から電車に乗ってバスに乗って、ですよ。
好きな音楽でも聴きながら頑張るか。
イヤホンを取り出しながら正門に辿り着いた頃、一台の車が止まっていた。どこかで見たことあるような車体.....
すると、運転席から運転手が降りてきた。
そこには、まさか———
「おつかれさま」
「響さん.....」
黒のロングコートを羽織った響さんが正門の前で待っていた。身長が高いからとっても顔が小さく見える。車体の窓に手を置いて。月明かりの下で優しく笑っていた。
「…..響さんっ!」
「うおっ!びっくりしたー」
こんな響さん見たら、くっつきたくなる。
響さんの両手が頭後ろに回った。何度かぽんぽんと撫でられて、思わず肩の中で笑った。
「急にどうした」
「ただくっつきたかっただけです」
「ははっ。凛ちゃんのおかげで疲れなんてなくなった」
「それは良かったです」
しばらく抱きつきあったあと、響さんは手を離した。
「どーぞ」
「お願いしまーす」
扉を開けて中に入れてくれた。暖房の効いた車内が体をワッと包み込んだ。シートベルトをつけて大きなあくびをした。
「まだ夕飯食べてない?」
「食べてないです」
「どっか食べに行く?」
「行く!どこにします?」
「う〜ん、おしゃれなところ?」
「いや、わたしカーナビするんで」
「おっ。それは楽しみですなー」
到着するまで行き先は伝えないようにした。私が今急に食べたくなったもの。よく祐奈とも行く穴場スポット。
「…..って、またなんでこんなとこに」
「仕事終わりの油っぽいものはさいっこうですよ!」
私たちは近所のお好み焼き屋さんにやってきた。1番奥の座布団席。ここは学生時代からお世話になってるところ。本当に美味しいから毎日通いたいくらいなの。
「俺作るよ」
「いや、私作りますよ。あ、じゃあどっちが上手く作れるか勝負します?」
「そんなの俺の勝ちだよ?」
「い〜や!何年通ってると思ってんですか!」
注文を待っている間、響さんとたわいもない会話で心を落ち着かせた。萌え袖で頬杖をつく姿が本当に見惚れる。こんなかっこいい人が私の彼氏になるだなんて…..人生なにがあるか分からないなぁ。
「今日はどんな研究したの?」
「なんか、植物の栄養とか、いろいろ」
「へぇ〜。俺には全く分からない分野だ」
響さんはそう言いながらノンアルコールビールを飲んだ。私も少し味が違うノンアルコールビール。響さんは飲んでいいよと言ってくれたけど、私1人で飲むのは辛い。あとでゆっくり2人で同じお酒を飲むんだ。
「お待たせしましたー。明太チーズとエビもちでーす!」
「ありがとうございます。そんじゃあ勝負だ!」
「絶対負けませんよ!」
2人ともなれた手つきでお好み焼きを作り始めた。




