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episode17

「ん〜!あぁぁあ!」

今日は1限から授業の日。午前中は講義をみっちり受けて午後は研究室で研究の日。夜は祐奈に会う予定だけどお互いの気分で決める。

「ってことで今日どうする?」

『いやほんとにどっちでもいんだよね。けどちょいとめんどいかも』

最寄り駅までの道で、祐奈と電話した。こんな朝イチでも電話おっけーなのは彼女だけだ。

そして祐奈も朝からコマが入ってるらしい。昨日の夜も課題が終わらなくて嘆いていた。確かに、明らかに眠たそうな声をしている。

「まぁまた連絡するわ」

『おけで〜す』

電話を切ってポケットにスマホを入れた。その前に、有線イヤホンを繋いで音楽をかけた。これでも意外とロック系が好き。最近はあるボーイズグループにどハマり中だ。

みんなも一度はやったことあるであろう、曲を聴きながら浸る。

自分だけの世界観を持ち想像することは本当に大切。嫌なことも、ストレスも、何もかも全部忘れられる。この瞬間は嫌いじゃなかった。

いつも通りの速さで歩き、いつもと同じ電車に乗り、いつもと同じ駅で降りて大学に向かう。

刺激のない毎日が繰り返し続いていく。別にこれは悪いことではない。ただ、自分の人生を回顧するたびにいい気持ちにはならない。

でも、こんな私でも周りとは違うことが一つある。

それは.....響さんだ。

彼がいるから私は頑張れる。彼がいるから乗り越えられる。

振り返ってみれば、彼は私を救ってくれた人。響さんと出会ってから視界が変わり、モノクロに色がついた。今まで人生に豊かさがなかったから、こんな人がいるんだと感動した。

でも、響さんと出会えたのは私の努力じゃない。私は今まで、何かに打ち込んで努力して達成した経験がない。趣味もないし、好きなこともないし。

「趣味か.....」

深く考えながら空を見上げた。




「おはようございまーす」

「おはよっ!今日もずっと薫さんと実験してた!見て見て!新発見!」

同じ研究室の後輩、宮野功太が子犬のように話しかけてきた。本当に耳から垂れ耳が生えてきそうな勢いで。

実を言うと、彼みたいなタイプはあまり好きではない。もちろん頭もいいし研究スタイルも悪くない。けど、性格がはなから合わないのだ。なのに私にズカズカ話しかけてくる。

もうそろそろやめて欲しい。

「はいはいどれですか?」

「これなんだけど.....論文に出来ます?」

顕微鏡で細胞を覗いてみると、教科書通りのものが見えた。

「これじゃ弱いな。コンテストに出すレベルに到底達してない。もう一回調べ直すよ」

「はいっ!」

今、私たちは現在進行形で、大学細胞コンテストというものに向けて準備を進めている。

大学細胞コンテストとは、東京都内の大学生が細胞研究をし、新たな細胞発見の成果を発表する大会。このコンテストは著名な理科学者が審査員を務めている。もしここで何か賞をもらったら、その学者のもとで一緒に研究ができる。こんないい機会、他にない。

「私もこのコンテスト毎回参加してるけど、賞を取るってのは狭き門よ。選ばれし者って感じでね」

薫さんがそう言うのも無理はない。

「薫さん昨日ここに泊まりました?」

「それがさぁぁあ!?聞いてよね!」

始まった、いつものやつ。

薫さんは自称、理科研究を世界で最も愛してる人らしい。徹夜上等。

「昨日は早めに家に帰ろうと思ったのね?そんで8時くらいに研究室の鍵を閉めようと思ったら、事務室閉まってて。結局鍵返せなくてここに泊まったわよ」

「それはそれはご苦労様です。でももはや薫さんここが家みたいになってません?」

すると薫さんはメガネの位置をずらして言った。

「あはた、よく分かってるわね。ここは私の住処なのよ。さぁさぁ!そんなこといいから研究の続きやるわよ!人生最後のコンテスト、絶対に成功させたいから手伝ってよね!」

学年的にも薫さんはこれが最後のコンテスト。私ただはまだ2、3回と参加できる。

「宮野くんそこの資料取ってもらっていい?あとここのところ、もっと丁寧に書かないと文章全体の意味が崩れちゃうからすぐに訂正して」

「うわ〜ここ頑張ったとこだったのに!」

キャスター椅子に座ってた宮野くんはくるくると回りながら部屋を一周した。

私たちは当たり前のように無視する。彼はいつも勝手に暴れて勝手に終わる。

「集中します」

これも皮肉じゃなくて、気を許してるってこと。


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