episode16
「凛ちゃん今日の最後までいるよね?」
「もうそうなんですよ〜」
バイト先に着いて世間話をしながらスタッフルームに行った。
先輩の峯さんと一緒に一息ついた。
「今日は寒かったわ〜」
「そうですねー。明日から一気に寒くなるみたいです」
「うそ〜!」
スマホで天気予報を確認した。そろそろコートが必要になってくるみたい。まだクリーニング出してないから大変だ。
「峯さんコートクリーニング出しました?」
「昨日出しに行ったのよ〜!子供の分もあったからかなりお金取られちゃった」
峯さんには小学生と幼稚園生の子供がいる。毎日送り迎えで忙しいみたい。シフトに入る時間は少ないとはいえ、交友関係は広かった。
『困ったことがあれば峯さんに聞く』
これがここでの鉄則だ。
「それじゃあ先に店行ってます!」
「りょーかい!」
エプロンをつけてシワを伸ばしながら店先に出た。
一つ前のシフトの子たちが業務をこなしてくれていた。
「いらっしゃいませ!」
いつも通り、レジは他の子に任せて店前に飾られている花の手入れを始めた。
今日も秋桜がたくさん咲いている。
綺麗だなぁ。
「…..」
京本さん、いま何してるんだろう。もう仕事行ったかな?休憩時間に連絡したら、きっと迷惑だよね。京本さんも頑張ってる。私も頑張らないと。
「あの...」
「はい!どうされました?」
「その色の秋桜、一輪お願いします」
「はい!花言葉はこちらです」
「.....やっぱり、赤色でお願いします」
赤色の秋桜の花言葉は———
「愛情、調和という意味が込められています」
「素敵ですね」
買いに来てくれたのはスーツを着た男性。年頃的に、彼女さんへのプレゼントかな?聞いてみたいけど、そうじゃなかったら嫌だから聞かないでおく。
「では、こちらにお願いします」
レジには他の子がいてくれた。後をその子に任せて、また店先に出た。
駅の前ということもあり、人通りが多かった。たくさんの人が衣替えをしていた。でも私は薄いシャツに腕を捲ってる。ちょっぴり、冷たい風が苦しかった。
「お疲れ様でしたー!」
「お疲れ〜!」
夜の8時になり、エプロンをロッカーにしまった後すぐに店を出た。
スマホの画面を確認するが、特に誰からも連絡は来てない。
ほんの少しだけ、期待した自分がいたのは本当だろうか?
「さっむ...」
思ったよりも風が冷たく、手と手を合わせてさすった。
空を見上げると、白い息が視界を覆った。もうすぐ冬が来るのか〜。やだな。
私は生粋の夏派。
冬は食べ物も美味しいし、服の種類もたくさんあるけど、朝起きるのが何よりも辛い。
若干高いヒールを履いてきたせいで、コンクリート製の地面がコツ「」コツと音を鳴らした。歩きづらい。やっぱりバイト先にシューズを置いておくべきだな。次のバイトは明後日だから、その日に靴を持って行こう。
考え事をしている間に、自宅に着いた。
暗証番号を入力してエントランスを通った。
住んでいるのは8階建てのマンション。私が住んでるのは2階。右隣は4人家族。左隣は同じ一人暮らしの女性だ。
「.....」
最近はただいまって言うことが多かったから、なんか不自然。あとから遅れて、”ただいま”、と呟いた。
荷物を置いて手を洗い、ソファにダイブした。
「あぁ〜つかれた」
今日はどっと疲れた。特に悪いことがあったわけでもないのに、気分が上がらない。ずっとモヤモヤしている感じがした。
起き上がって、ご飯作らないと。
めんどくさい。でも頑張らないと。
プルルルル!
「電話?」
誰だろう。相手主を確認すると、そこには———
「京本さん?どうしたんですか」
京本響と書かれてあった。
『メッセージ送ったけど、気づかなかった?』
「あれ?ほんとだ。すみません、いまちょうど休憩してて」
『そっか、ごめんごめん。かけ直さなくて大丈夫?』
「大丈夫です!このまま繋いでおいてください」
京本さんの声を聞くと、自然と体が動いた。
カウンターにスマホを置いてスピーカーにした。
「京本さんお仕事帰りですか?」
『うん。いま車』
遠くからエンジンの音と街の音が聞こえた。
『凛ちゃんは何中?』
「料理中です。今日は疲れたんで頑張ってビーフシチュー作ります」
『えっら!俺も頑張って何か作ろっかな〜』
「今日は寒いのでシチューとか、カレーとか.....」
ってあれ?私、さっきまで気分上がらなかったのに。いま、すっごい幸せ。
『そういえば凛ちゃん』
「はい?」
『昨日の夜、旅行に行こうって話してたじゃん?』
「はいはい」
『2人で、行きたいところあるんだけど』
「絶対行きましょ!ちなみにどこですか?」
『スキー旅行は、どうかな』
「スキー旅行!?」
2人での初遠出が、スキー!?京本さんは何か考えててくれてるのかな。本当に楽しみでしかない
『どうしても行きたいところがあるんだよ』
「わたし喜びます?」
『うん。もう飛び跳ねるんじゃない』
「そんなに?」
『うん』
「じゃあ楽しみにしてますね。日にちはどうしますか?」
『凛ちゃんの空いてる日で動こう。三連休とか取りにくいよね———』
「いーえ!何十連休だろうか死ぬ気で取ります」
すると電話越しで笑い声が聞こえた。
『俺も頑張るわ!絶対2人で旅行に行こう』
「もちろんです」
この一言だけでいい。
私がモヤっとしてた感覚、まだこの正体は分からない。だけど、これだけは言える。
京本さんと話せばなんでも吹っ飛ぶ!
原因は突き止めない。この先ある幸せを噛み締めていかないと。
『じゃあまた連絡する』
「はい。おやすみなさい」
『おやすみ』
電話を切った。
「.....っ!ひゃっふぅー!!!!」
京本さんと2人で旅行!?マジで!?やばいやばいやばいよ!
今日は一日中、情緒不安定な1日だったな。




