episode11
「ちょっと待って。結婚ってどういうこと?」
突然のことすぎて、理解が追いつかないんですけど。どゆことどゆこと?
「響。お前はいずれこの家業を継がなければならない。そのためには家内が必要不可欠ではある」
ちょちょちょ!なんで旦那様も賛成派に寄ってるの?!
ツッコミどころが多すぎだよ。最後の望みを賭けて奥様の方を見た。
「一度、二人で話してみたらどう?」
奥様っ!
そうだよね。私もこんな形では受け入れたくないし。でも京本さんに対する愛があることは確か。ここの家のことにもツッコミを入れたい。
「分かりました。ではまた後日来ます。凛、行こう」
京本さんは立ち上がり私に手を差し伸べてきた。私はご両親に小さくお辞儀をして京本さんの手に自分の手を重ねた。
「また来る」
京本さんに手を握られながら和室を後にした。すごく一瞬のことで、何が何だか分からなかったけど、一度京本さんの考えてることを聞きたい。
「あの、京本さん」
「どうした?」
「私、京本さんのこと、好きです」
「.....」
「だから...その———」
京本さんは間を待たず私の体を引き寄せた。あの香り、私は満たされる。
「きょ、京本さん?」
「ごめん」
「え?」
「周りが見えなくなっていた。もし凛ちゃんが他の人と駆け落ちしたら、他の人を好きになったらって、考えれば考えるほど先を急いでしまった。凛ちゃんの意見も何も聞かずに。突然こんなとこに連れてきてしまい、すまない」
声がまっすぐで、優しくて、愛おしくて。私は京本さんの肩に触れて一度体の距離を離した。
「私、まだ結婚とか分からないけれど、いずれはの話ですよ?そんなに焦ることでしょうか?」
京本さんの頬を触りながら、髪の毛を整えてあげた。京本さんは嬉しそうに笑いおでこを合わせてきた。
「凛ちゃんには勝てないや」
「力以外はわたしの勝ちです」
「ははっ」
「で〜も、ツッコミどころ多すぎるんですけど」
「この家?」
私はコクリと頷いた。京本さんは少し微笑んだが、すぐに険しい顔になった。
「凛ちゃん」
「はい?」
「今日、一緒に泊まってかない?」
泊まってくって、京本さんの実家に———?!
「どうぞ。召し上がれ」
「ありがとうございます!いただきます!」
結局、一度は断ったものの、押しに負けて泊まることになってしまった。
旦那様、奥様、京本さん、私の4人で食卓を囲った。
いただきます!なんて呑気なこと言ったけど.....
なななななにこのお食事〜?!これは、どれから食べるのが正解なの?一品一品が小さく小分けされていた。大盛りの白米にお雑煮に.....
「凛?」
「あの!このお雑煮の味付けって、どう作られてるんですか?!こんなに濃くて、芯の通った味初めてです!」
———って、しまった。私ったら、興奮して机から乗り出してしまった。全員.....ぽっかぁ〜ん。
「すみません...」
箸を置いて頭を下げた。
「お醤油とお塩の量を少し増やしただけなのよ。それだけでこんな味になるの。」
「へぇ〜!今度わたしもやってみます!」
「人の作った料理を笑顔で食べてくれる人はね、絶対幸せになれるわよ」
私は思わず口を開けて真摯に話を聞いた。芯が通ったのは、料理だけではなかった。
「俺もな、和枝のお雑煮で結婚を決めたと言っても過言ではないんだ」
隣に座っていた旦那様が話し始めた。
「何年前かの冬、彼女をこの家に連れてきた。すでに死んだ母親と一緒に台所に立ち料理を作っていた。その後ろ姿を見ただけで、もう彼女を絶対に逃すまいと思ったんだ」
話の最後に旦那様と目が合った。弓で射抜かれたような感覚になった。
「話が長くなり申し訳ないが、最後に一つ。男が結婚を決める瞬間てのはな、台所に立った姿を見た時。それに尽きる」
「.....」
「あなたいきなりどうされたんですか?響が凛ちゃんを連れてきてから様子がおかしいですよ」
「全く。この間まで泣きじゃくってた響がな.....」
「父さん、まだ結婚が決まったわけじゃ」
旦那様は興奮気味に泣いていた。親子ともども、呆れながら背中をさすったりハンカチを渡したりしていた。
「すまんすまん。食事に集中しよう」
旦那様を囲う奥様と京本さん。3人揃って同じ笑顔を浮かべていた。
「ご馳走様でした!」
「よかった。それじゃあ2人はお風呂に入って寝床でゆっくり休んでね。響、しっかり説明してあげなさいよ?」
「分かってますよ。凛いこ」
響さんは立ち上がり部屋を出ようとした。
「京本さん、ちょっと先に行っててください」
「?。分かった」
京本さんは襖を開けて部屋を後にした。
「和枝さん、お片付け手伝います」
「ありがとう。ほらあなた、飲み過ぎですよ」
「んんー!分かってる分かってるわ!あいつはどこ行った!まだ飲むんだぞ〜!」
旦那様はというと、京本さんと飲みすぎたせいで泥酔していた。
「もう凛ちゃんに恥ずかしい姿見せないでください!ベッドに行ってください!」
お、おぉ.....奥様は力強く旦那様の頭を叩いた。びっくりしすぎて声が出なかった。
「はいはい寝ますよ!凛ちゃんおやすみなさーい」
旦那様はふらつきながら響、響と連呼した。私は心配になり立ち上がり付き添おうとしたが、奥様に止められた。
「大丈夫よ凛ちゃん。いつものことだから」
「そう、なんですね」
京本さんと違って傲慢な態度になるのか。絶対に絶対に言えないけど、京本響さんでよかった.....
「凛ちゃん、今から響と2人きり?」
「は、はい」
「響は2人の時大丈夫?傲慢な態度になってない?」
2人でお茶碗を洗いながら話をした。
「傲慢な態度?!そんなの一度も」
「そうなの?あの子、仕事の時はえらそうに威張ってるわよ」
「そうだったんだ.....わたしといる時は、いつもくっつきたがります」
「えぇ?!そうだったのね。実を言うとね、うちの旦那にそっくり」
こっそり耳打ちをされた事実に驚いた。
「厳さんも?!あの姿からは想像できません」
「そうでしょ。でも、そんな姿に惹かれた、っていうのもあるのよね。自分だけを特別に扱ってくれる。男前ってやつね」
そうだ、そうなんだよ。
京本さんはいつも.....
『凛ちゃ〜ん。仕事疲れた〜』
「えへへ...京本さんっ」
「幸せそうで何よりね」
「すみません.....」
「ゆっくり休んでね」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
奥様との片付けも終えて、やっと部屋を出た。
なんだか疲れた。早くお風呂借りて、京本さんのところに行こ。
「うわ〜!」
換気のために開いていた窓から、無数の星の空が見えた。思わず立ち止まり、外に出た。
「星...、、いち、にぃ、さん.....あれ、なんていうんだっけ」
「オリオン座」
「オリオン座.....って!京本さん!」
「こんなとこで何やってんの」
星を見ていると、あっという間に京本さんに捕まった。少しほろ酔いしている。
「たまたま、空を見上げたら、星があったので」
「へぇ〜。てか父さん酔ってた?」
「そこそこ、ですかね。京本さんも酔ってますよ」
「え〜。俺は酔ってないよ」
「酔ってます。苦しいです」
京本さんは首に手を回して窒息させる勢いでハグをしてきた。
「京本さん、なんだかいい匂いします」
「ん?そう?」
「はい。それに、和枝さんも厳さんも、同じ匂いがしてました」
「じゃあ、凛ちゃんも同じ香りになるよ」
「ふふっ」
「じゃあ、お風呂入ってきて」
京本さんは体を離して去ろうとした。やだ、このままずっと、こうしていたい。
「京本さん」
「凛ちゃん?」
「.....」
「.....」
「もう少しだけ、こういさせてください」
「.....はい」




