第7話 夏の部活と花火
美晴島の夏は、空が広い。
港の向こうに広がる水平線が、昼も夜も、どこまでも続いている気がする。
セミの声が響き始めると、島の空気が一気に夏になる。
中学3年の夏。
部活は引退間近で、受験の話題がちらほら出始めていた。
でも、俺はまだ、進路よりも弥生のことで頭がいっぱいだった。
「悠翔って、部活何してたっけ?」
昼休み、弥生が聞いてきた。
「卓球部。地味だけど、楽しかったよ」
「へえ、意外。動くタイプなんだ」
「いや、動かないタイプの卓球だった」
弥生は笑った。
その笑顔が、最近少しずつ柔らかくなってきてる気がする。
俺のことを“幼馴染”じゃなく、“今の悠翔”として見てくれてるような、そんな気がした。
夏休み前、島の花火大会があった。
港の広場に屋台が並び、島民が集まる年に一度の大イベント。
弥生を誘うのは、ちょっと勇気がいったけど、俺は言った。
「花火、一緒に行かない?」
「うん、行こ。浴衣着てくね」
その一言で、俺は一日中そわそわしていた。
当日。
弥生は、紺色の浴衣に髪をまとめて現れた。
俺は、Tシャツに短パン。……もうちょっと頑張ればよかった。
「似合ってるね」
「ありがと。悠翔も、涼しそうでいいじゃん」
その言葉に、少しだけ救われた。
花火が始まる頃、港の防波堤に並んで座った。
夜の海風が心地よくて、空に咲く光が水面に映っていた。
「来年も、見れるかな」
弥生がぽつりと言った。
俺は、少しだけ迷ってから言った。
「……同じ高校に行けたら、見れるよ」
弥生は、驚いた顔をして、それから笑った。
「そっか。そうだね」
その笑顔は、少しだけ照れてて、でも嬉しそうだった。
俺は、まだ告白してない。
でも、少しずつ、言葉が近づいてきてる気がした。
花火が、夜空に咲いて、消えていった。
その音が、俺の胸の鼓動と重なっていた。
 




