第2話 微笑みとツンデレ
「それ、まだやってんの? ネトゲ」
昼休み、俺の机に肘をついて覗き込んできたのは、清沢弥生だった。
俺は、スマホの画面を慌てて伏せた。
画面には、昨夜のログインボーナスを確認してるだけだったけど、なんか見られると恥ずかしい。
「……別に。暇つぶしだし」
「ふーん。変わってないね、悠翔って」
そう言って、弥生は笑った。
でも、なんかちょっとだけ、意地悪そうな笑い方だった。
昔はもっと素直だった気がする。今の弥生は、なんていうか……ツンとしてる。
でも、笑顔の奥に、懐かしさみたいなものが見え隠れしてる。
「ていうか、あんた、まだジャージで寝てんの?」
「……見てたの?」
「引っ越す前、毎朝ジャージでゴミ出ししてたじゃん。あれ、近所で有名だったよ」
俺は、顔が熱くなるのを感じた。
弥生は、俺のことをよく覚えてる。
でも、それをからかうみたいに言うのが、なんか悔しい。
だけど、嬉しい。
なんだよそれ。俺、どうしたんだ。
午後の授業中、ふと後ろを振り返ると、弥生がこっちを見ていた。
目が合った瞬間、彼女はすっと視線を逸らした。
でも、口元が少しだけ笑っていた。
俺は、ノートに落書きしてたペンを止めた。
心臓が、少しだけ跳ねた。
放課後、帰り道。
港の方から、また声をかけられた。
「弥生ちゃん、悠翔と同じクラスなんだってな。よかったなぁ」
商店のおばちゃんが、買い物袋を手に笑って言う。
俺は、また「まあ……」とだけ返した。
弥生は、隣で「別に、よくはないけど」と言った。
でも、その声は、ちょっとだけ照れてるように聞こえた。
俺は、歩きながら思った。
弥生は、変わった。
でも、変わってない部分もある。
そして、俺の中で、彼女は“幼馴染”じゃなくなってきてる。
ツンとしてて、でも笑ってて。
からかってくるのに、優しくて。
俺は、彼女のことを、もっと知りたくなっていた。
 




