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君と一緒に歩くまで  作者: 双鶴


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2/13

第1話 春、君が戻ってきた

始業式の翌日。

教室の空気は、昨日より少しだけ落ち着いていた。

春の陽射しが窓から差し込んで、机の上に淡い影を落としている。

美晴島の中学校は、今日も静かに始まった。


俺――柳沢悠翔は、いつも通り教室の後ろの席に座っていた。

昨日の転校生騒ぎも、少しずつ日常に溶け込んでいく。

でも、俺の中では、まだうまく整理できていない。


清沢弥生。

小学校3年まで隣に住んでいた幼馴染。

昨日、転校生として教室に現れた彼女は、俺の記憶よりずっと綺麗で、ずっと遠くに見えた。


「悠翔、ノート貸して」


昼休み、弥生が俺の席まで来て、そう言った。

声は、昔と変わらない。だけど、距離感が違う。

俺は、少しだけ緊張しながらノートを差し出した。


「ありがと。……字、変わってないね」


そう言って笑う弥生の顔に、俺はまたドキッとした。

懐かしいのに、知らない。

知ってるはずなのに、わからない。

その矛盾が、胸の奥で静かにざわついていた。


教室の隅では、女子たちが弥生を囲んで話している。

「かわいい」「都会っぽい」「髪サラサラ」そんな声が聞こえてくる。

俺は、弁当を食べながら、遠くからその輪を見ていた。


昔は、俺の隣にいたのに。

今は、少し離れた席で、俺の知らない話をして笑ってる。

それが、なんだか寂しくて、でも不思議と嬉しくて。

俺は、彼女のことを“幼馴染”としてしか見てこなかった。

でも、今、目の前にいる清沢弥生は、

俺の知らない“女の子”だった。


放課後、港の方から漁師のおじさんが声をかけてきた。


「弥生ちゃん、戻ってきたんだってな。悠翔、よかったなぁ」


俺は、照れくさくて「まあ……」とだけ返した。

おじさんは笑って、「島の春が賑やかになるな」と言った。


その言葉が、なんだか胸に残った。

春が始まった。

そして、俺の中の何かも、静かに動き始めた。

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