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君と一緒に歩くまで  作者: 双鶴


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第9章 失敗とリトライ

夏休みが近づいてきた。

進路希望調査も終わり、教室の空気が少しずつ“受験モード”に変わっていく。

でも、俺の頭の中は、弥生のことでいっぱいだった。


「告白、するなら今だろ」


ネトゲのギルドチャットでそう言われた。

「花火大会のあとがベストだったのに」「次は夏祭りだな」――みんな好き勝手言ってくる。

でも、俺はもう、待てなかった。


放課後、港の防波堤。

弥生と並んで座って、海を見ていた。

潮風が静かに吹いて、空は少しずつ夕焼けに染まり始めていた。


「弥生」


「ん?」


「俺さ……その……」


言葉が出てこない。

何度も練習したはずなのに。

恋愛ゲームのセリフも、ギルドの助言も、全部忘れた。


「……同じ高校、行けたらいいなって思ってて……それで……」


弥生は、静かに俺を見ていた。

俺は、顔が熱くなるのを感じながら、続けた。


「……その、俺、弥生のこと……」


その瞬間、後ろから声が飛んできた。


「おーい悠翔ー! 弥生ちゃーん! 今日も仲良しじゃのー!」


漁師のおじさんだった。

俺は、言葉の続きを飲み込んだ。

弥生は、笑って「おじさん、タイミング悪すぎ」と言った。


俺は、がっくり肩を落とした。

告白、未遂。

タイミングも、言葉も、全部失敗だった。


その夜、商店のおばちゃんに会った。


「悠翔、頑張ってるねぇ。島中が応援してるよ」


「……えっ?」


俺は、思わず聞き返した。

「応援って……何で? バレてるの? っていうか、みんな知ってるの?」


おばちゃんは、笑いながら言った。


「そりゃあねぇ、あんたが弥生ちゃんのこと見てる目、みんな気づいてるよ。港でも、学校でも、祭りでも。島は狭いんだから」


俺は、顔が熱くなるのを感じた。

恥ずかしい。でも、なんか……嬉しい。

見られてた。見守られてた。

俺と弥生のことを、誰かが気にしてくれてた。


「弥生ちゃん、待ってると思うよ。ちゃんと、悠翔の言葉でね」


その言葉が、胸に残った。

俺は、失敗した。

でも、リトライする。

ちゃんと、自分の言葉で、俺の気持ちを伝えるために。


次の日、弥生が言った。


「昨日の、続き……聞いてもいい?」


俺は、ドキッとした。

でも、まだ言えなかった。

ちゃんと、俺の言葉で言いたかった。


「……もうちょっと、待ってて」


弥生は、笑って「うん」とだけ言った。

その笑顔は、優しくて、少しだけ期待してるように見えた。


港の風が、少しだけ強く吹いた。

その風に背中を押されるように、俺は歩き出した。


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