冤罪?構いませんよ、好都合です
誤字報告ありがとうございます
「リリス・エルトール、またお前はミスティナを虐めているのか!いい加減にしないか!」
お昼休みの時間に私リリス・エルトール侯爵令嬢は、なぜか婚約者である王太子のセドリック殿下に突然呼び出され、全く身に覚えのないことで詰められている。
「はぁ、そのような事実はございませんが」
「ミスティナはお前に嫌がらせされていると、恐れながらも告白してくれたんだぞ!!今さら言い逃れをしようとするな!」
あぁ、またですか。殿下には昔から思い込みの強いところがあった。今回もその類いのようだけども
よく考えたら、別にわざわざ弁明する必要はないわね?
なぜなら、私は転生者だ。そして、この世界のことも知っている。この乙女ゲームでは悪役令嬢リリス・エルトールが、ヒロインである平民のミスティナは王太子に寵愛されていることを知り様々な嫌がらせを行ってくる。最終的には婚約破棄され、修道院へと送られてしまう。
正直、殿下は私のタイプではないし、ゲームの世界と違って恋愛感情も一切ないので虐めをする理由もないのだが、修道院生活の方がよっぽど気楽なものだわ。王太子妃は私には向いていないもの。たくさん可愛がってもらった王妃様には申し訳ないけど、私にとってもこのままの方が都合いいわ。
「そうですか、言い逃れなどはしていませんよ」
それだけ言い残して、私は自分の教室へと帰らせてもらう。その後ろでは
「罪を認めたな!やはりお前のような悪女は…」
何か言いかけていましたが、特に最後まで聞く必要のないことでしょうし振り返ることはしませんでした。
そこからは、仮にも婚約者同士であるにも関わらず会話もなくなり、さらに殿下との関係は冷めていきましたがどうでもいいことですね。
侯爵令嬢と言ってもいわゆる取り巻き令嬢たちは存在しませんので、学園でも友人と言える友人は少ないですが、その中でもフレッド・クレイトン伯爵令息とその妹のリズ・クレイトン伯爵令嬢はほとんどの時間を一緒に過ごしていて、友人と言ってもいい関係でしょう。
前世のことを考えると、友人が2人しかいないというのは悲しいけどね。
ですが、この2人のおかげで卒業まで特に孤立することもなく平穏に過ごすことができました。
そして迎えた卒業記念パーティーの日。
「リリス・エルトール!私はお前との婚約を破棄する!!」
あぁ、来ましたか。何もしていないので起こらないかと思いましたが物語はシナリオ通りに進むんですね。
「そうですか、その婚約破棄、承りました」
「はっ…?いや、待て!話はまだ終わっていない!お前はミスティナに対し数々の嫌がらせを行ってきた!その悪行、とても見過ごせるものではない!!」
それにしても、何もしていないのだからそんなものあるわけないのだけど、でっち上げたのかしら?
「少しは反省する態度を見せたらまだ考えてやったが、この期に及んで一切の反省も見せずに開き直るだけ。お前にこの国の地を踏む資格はない!お前は国外追放の処分とする!!」
あら、シナリオと違うわ。でも、これはこれで好都合かも。修道院送りだとその中でしか生活できないし、国外に行けば自由に動けるもの!さて、何をしようかなと頭の中で考えるほど浮かれていると
「なら、俺が貰っていいよな、彼女」
「突然なんだ、お前は…フレッド・クレイトンだったか。伯爵家ごときが何を言うというのだ!」
「あぁ、そうか。もうこれはいらないな」
え?何?フレッドは何を言っているの?
そう言ったフレッドはどこにあったのか、いつの間にかパーティー用の衣装ではなく着替えていました。あれは…アストリア帝国の?まさか
「な、な…あなたは」
「私はアストリア帝国皇太子、アルフレッド・アストリアだ。今リリス・エルトール嬢との婚約関係は破棄したと、そう宣言したな。ならばなにも問題あるまい」
えっ?皇太子??
「え、フレッド…じゃなくてアルフレッド殿下、どういうことですか?」
「今まで通りフレッドで構わないよ、リリス。なぜここに通っていたのか、かい?それは皇帝直々の命令でね、国内だけでなく国外の見識も広めてこいということで元々繋がりのあったこの国の学園に入れてもらったんだよ」
いや、それも気になることだけどそっちじゃなくて。さらに聞き直そうとしたところ同じ疑問を抱いたのかセドリック殿下が先に声を上げた。
「そもそもなぜ、身分を隠して…?」
さっき酷く侮辱してしまったという自覚はあるのか、殿下らしくないかなり下った態度で言った。
「ああ、そのことか。私が皇族だと知れてしまうと君たちは態度が変わるだろう。私が知りたかったのは皇族に対しての対応ではなく貴族同士の行動だったからな」
まさか、こんなことになるだなんて…ん?そういえばさっき私を貰うって…
急に思い出してしまい顔が赤い。いや、そういう意味ではない、はずよ。私がそんなことに意識を取られていると、急に体が浮き上がった。
「きゃっ!?」
えっ、私…お姫様抱っこされてる!?
「もう気は済んだだろう、先ほど言った通り彼女は俺が貰っていくぞ。ほら、エリザベス帰るぞ」
「分かったわ、お兄様」
え、えっ?リズも本当はエリザベスって名前の皇女様だったのかとかいつの間に終わってたのとか色々言いたいことはあるけどそれよりも!
フレッド、私に求婚してるってことよね。求婚…フレッドと……だめだ、顔が赤い。
もう!なんなのよ!
私は全く状況が把握できないまま抱えられて連れ出されてしまった。
それから1年後、なんやかんやあって私とフレッドは結婚することになった。
あの後、すぐにアストリア帝国へと向かうことになり宮殿まで運ばれ、あれよあれよという間にもう引き返せないところまで来てしまった。家族も一緒に帝国に移住、爵位もそのままという異例の処置だったがそこはフレッドが無理やり捩じ込んでしまった、皇太子の権力恐るべし。
「私、フレッドと結婚することになるなんて思ってなかったわ…」
「そうだろうね。でも俺は最初からリリスのことが好きだったさ、俺の最愛のお姫様?」
この1年間嫌というほど聞いた言葉だけど、まだ慣れないわ…もう……イケメンって暴力だわ。
「わ、私も、愛してるわ、フレッド」
~fin~