第5話・恋は見た目が100%!?(後編)
細かい設定は、話の中でちょこちょこ肉付けしていくつもりです。
ボクはさすがに気になったので、事の顛末を会長から聞くことにした。
そもそも飯須田くんがストーカーだと思っていた子は、彼のことが好きなわけではなく。
そのA子さんは、友達のB子さんに彼の写真を撮ってきて欲しいと頼まれたとのことで。
何でもB子さんは飯須田くんに中学時代に告白してフラれたが、彼のことを忘れられなかったらしい。
A子さんはストーカーまがいの案件に、最初あまり乗り気ではなかったようだが。
いっそ飯須田くんのダメなところを写真に撮って幻滅させ、忘れさせようと思い直したとか何とか。
会長は最初それを聞いて、普通に説得してやめさせたのだが。
飯須田くんが自分に告白して来たことで、方針を変えることにした。
A子さんに再度連絡をとり、自分にアプローチしている姿を敢えて写真に撮らせた。
もちろん、今度は飯須田くんに気付かれないポイントをちゃんと指定して、だ。
更に、B子さんが想いを断ち切れる説得の仕方をA子さんにレクチャーするのも忘れなかったという。
会長自身嫌がっている『破局の魔王』の二つ名だが、今回ばかりは躊躇なくその力を行使したらしい。
もちろん。今回の件の元凶に対しても、だ。
*
そこまで話を聞いたところでボクは一度席を立ち、会長にお茶を淹れることにした。
会議室の棚に常備してある電気ケトルとカップを取り出し、粛々と用意を整える。
こんなときのために準備してある、お高いクッキーも忘れずに。
それというのも、ボクが話を聞く前から会長はすこぶる機嫌が悪かった。
おかげで今日は風紀委員会の定例会議の日だったのに、ボク以外の風紀委員は早々に退散してしまい、
会議の議題をボクらだけで片付ける羽目になってしまった。
やれやれだ。
「えっと、どこまで話したかしら」
そして、会長は一度カップに口をつけたのち、続きを話し始める。
とはいえボクとしても、そのあとなにがどうなったかは既に察しがついていた。
一番の問題はやはり飯須田くんにある。
彼は中学のときに出会ったB子さんと、高校にあがってから自分に付き纏っていたA子さんが、
まったくの別人だとまるで気づいていなかったのだから。
A子さんの話では、確かに自分とB子さんの髪型や雰囲気は似ていたらしいが、目鼻立ちはまるで違っていたという。
にもかかわらず、飯須田くんは自分に付き纏う厄介な女という印象で片付けて深く考えようとしなかった。
そもそも今回のことは、飯須田くんが自分に付き纏う子と真正面から向き合い、
明確な拒絶の意思をとっていればよかっただけの話だ。
飯須田くんはそれをせず、それどころか会長に惚れたと言って告白する始末だ。
もちろん、本当に本人に悪気はなかったのかもしれない。
彼を責めるのはお門違いという意見も存在するだろう。
だがそれでも。
すべての事情を知った会長は飯須田くんを呼び出し、
自分に告白してくれた子の見た目をろくに覚えてないような人と付き合う気は無い。
と、今回ばかりは真正面からハッキリと脈無しだと伝えた。
結果。飯須田くんはすっかり意気消沈して、去っていったという。
「……とまあ、そんな感じのことがあったのよね」
話しながらお茶とクッキーを堪能し終えた会長は、
そこですこし顔を俯かせて、ふぅと息をつく。
「さんざん偉そうなことを言ったけど、ワタシも人のことは言えないわね。彼からの告白を、中途半端に希望を持たせる形にしてしまったんだもの。反省しないとね」
椅子に深くもたれかかり、ぐっと背伸びをする会長。
その際に豊満な胸元が強調され、ボクは慌てて目線を逸らした振りをした。
「次からは、最初からキッパリ断ることにするわ。まあ、大体はワタシの顔とかスタイルとか目当てな男子ばっかりだから、遠慮しなくていいけど。ねえ?」
そう言う会長はニヤニヤしながらこっちを見ている。
秒でバレていた。
会長相手に、誤魔化しは無理なので話を逸らせることにした。
なによりボクは好奇心から聞いてみたかった。
会長は誰かを好きになるとき、一体どこで好きになるのかと。
会長は一度ぱちくりとまばたきしたあと、口元の笑みを深くしながら言った。
「さあね」
次をどういう話にするかはまだ考え中です。