第4話・恋は見た目が100%!?(前編)
会長が告白されたらしい。
相手は一年生の飯須田くん。
まだ幼さの残るかわいらしい系の顔つきで、女子がショタ系男子に盛り上がっていた記憶がある。
それにしても、基本恋愛禁止のこの高校で、しかも会長に告白する猛者がいるとは思わなかった。
まあ、一年生にはまだ『破局の魔王』の噂もそこまで定着していないからだろうか。
ということがあったわけだが。
風紀委員会の使用する会議室で、会長は特に動じた様子もなく書類に目を通しながらその件について話している。
「困っちゃうのよね、悪気がないぶん余計に」
会長は恋バナには目がないが、それが自分のことになるとなぜか途端に消極的になる。
校則や、風紀委員長という立場もあるので尚更に。
「恋愛禁止を理由に断ったのが悪かったかしら。延々と、せめてお友達関係になろうとしてアプローチを続けてくるんだもの」
確かに今日も、登校時の持ち物検査のときにやたらと会長に話しかけてきていた。
さすがに風紀委員の仕事の邪魔になるので、ボクが間に入ってお引き取り願った。
その時にやたらと睨まれてしまったが。
ファニーフェイスのせいか、まるで怖くなかった。
※
そして下校の時間になり。
「すみません、ちょっといいですか」
校舎を出たところで、急に呼び止められた。
予想通りそこにいたのは飯須田くんその人であり、ボクは深々と息をついた。
どこかの喫茶店で落ち着いて話したいと言う飯須田くんだったが。
風紀委員の立場から寄り道はできないと告げ、駅へ行くまでに話をする方向に持っていった。
「あの、あなたは会長とお付き合いして……る訳ないですよね。すみません」
どういう意味だコラ。
「会長には、どなたか想い人がいらっしゃるのでしょうか」
なぜそれをボクに聞くのか。まあ、会長本人に聞いても間違いなくはぐらかされるだろうけど。
「会長は僕のことをどう思っているのでしょうか」
適当に返答しながら、しばらくそんな具合に会長に関することを根掘り葉掘り聞かれ。
話の流れで、会長を好きになったのはやはり美人だからかという疑問を投げかけると。
目に見えて眉をひそめて、やれやれと肩をすくめてみせる。
顔はともかく、仕草が鼻につくなコイツ。
「会長は、僕にとっての光なんです」
やがてなにやら語りだした。
どうやら会話のチョイスをミスったらしい。
「実は僕、中学時代にストーカーに遭ってまして」
なんだかヘビーな話になってきた。
ボクはマンガでもドラマでも、そういう話は趣味じゃないんだが。
「高校にあがって別々の学校になっても、まだつきまとわれちゃって困っていたんですが。それを助けてくれたのが会長だったんです」
ボクはようやく駅が見えてきたので、気持ち早足に歩を進めた。
「会長がその人と少し話をしただけで、ピタリとつきまといが止まったんです。僕は確信しました。会長は人の心を動かす凄い人だと。学校では色々と妙な噂も聴きますが。僕は会長が悪い人だとは思いません。むしろそんな悪評を取り去ってあげたいと思っているんです」
つらつらと語るその眼にはなんとなく熱意のようなものがあるような気がした。
どうやら彼は会長の噂を知らなかったのではなく、むしろ逆境に燃えるタイプだったらしい。
「世の中には、女性を見た目だけで選ぶ不届きな男もいますが。僕は会長の内面に惹かれたんです。本気なんです。わかっていただけますか」
ボクはとりあえず、その心意気は汲むけれど相手の気持ちも考えないといけないよということを、
やんわりと懇切丁寧に伝えたあと、駅の改札をくぐった。
「僕は絶対に、諦めません」
さすがにそれ以上ついてくることはなく、飯須田くんは回れ右して足早に去っていった。
このあと彼がどうなるのか、ボクには何となく察しがついた。
※
それから数日後。
飯須田くんは、会長から手を引いた。