第3話・不良がモテるのは本当か!?(後編)
不良編はここまでです。
ボクは放課後、校舎裏に来ていた。
「なによあんた、こんなところに呼び出して」
そこには件の幼馴染みさんと、AさんBさんがいた。
といっても呼び出したのは、幼馴染みさんだけなんだが。まあいいけど。
「あ、思い出したわ。コイツ確か風紀委員よ。会長の隣にいるやつ」
「まさか私たちに文句でもあるわけ? 痛い目みたのこっちなんですけど」
「てか、もしかしてあの会長の彼氏? 自分はやることやってんのね。趣味は悪めだけど。キャハハ」
なんか好き放題言われているが、全て無視してボクは三人を引き連れ、校舎裏から少し離れた裏門付近へと移動する。
「ちょっと、どこまで行くのよ」
文句を言い出す幼馴染みさんに、ボクは口元に人差し指をおいて静寂を促す。
「おいてめえ! 見つけたぞ羽藤院コラァ!」
ちょうどタイミングよく、外から叫び声が響いた。
裏門の向こうにいるのは、羽藤院と、ワルそうな印象の方々が五人ほど。
リーゼントとかリアルで初めて見た。
とりあえず、ボクは三人娘を連れて近くの茂みに身を潜める。
「誰だ?」
下校しようとしていた羽藤院は、端的に言葉を返す。
「ざけんな! この間、てめえが殴りかかってきたんだろうが!」
「すまん。覚えていないな」
羽藤院の冷めた態度に顔をタコみたいにするリーゼント男。
そいつは、つばを飛ばしながら説明をはじめた。
説明が下手なので要約すると。
リーゼントはゴミのポイ捨てを通りかかった羽藤院に咎められ、逆ギレしたら殴られたのだという。
「すまん。やはり記憶に無いな」
「いい加減にしろ! お前に殴られたせいで、その日の族同士の抗争にも負けちまったんだ! あれで俺らのチームは解散させられたんだぞ!」
リーゼントのその発言に、後ろの女子たちがひそひそと話し合う。
「ね、ねえ。族とか抗争ってなんのことかな?」
「暴走族のことじゃない? バイク乗ってうるさいやつ」
「羽藤院くん、だいじょうぶかな」
不安そうな彼女らとは対照的に、羽藤院はまるで表情を変えず。
そのまま踵を返そうとする。
「それこそ知ったことじゃないな。もういいか?」
「そうはいかねえ! テメエが逃げるってんなら、家族も恋人も学校の連中も、八つ裂きにしてやるぞ!」
リーゼントのその言葉に、羽藤院は眉をひそめ五人に向き直る。
ようやく空気が変わった羽藤院の様子に、リーゼントはにやりと笑う。
「わかったようだな。もうテメエにあんじょうの地はねえってことに!」
「あんじょう……?」
おそらく『安住の地は無い』と言いたかったのだろう。
難しい事を言おうとして、恥を晒しているのに気づいていない。
「それで、どうすれば満足なんだお前ら」
「なに簡単なことだ。俺らの気が済むまで殴られてくれりゃいいんだよ」
リーゼントのその言葉で、他の連中が羽藤院を囲むように位置取る。
しかしそれでもなお、羽藤院は冷ややかに言葉をつづける。
「断る。お前らのような手合いは、調子に乗らせるとつけあがるからな」
「チッ、調子乗ってんのは……テメエだろうがよぉ!」
そして五人は一斉に羽藤院に襲い掛かった。
そして特にこれといった見せ場もなく、あっさりやられた。
文章にすれば2行くらいで瞬殺されたことだろう。
「ぐ、つ、強ぇ……」
「お前らが付け狙うのは勝手だが、周りには迷惑をかけるな。度が過ぎれば今度こそ容赦しないからな」
そして羽藤院は去っていき。
そこでようやく騒ぎを聞きつけた警備員がやって来た。
リーゼント達のことはその警備員に任せるとして、ボクは用事を済ませることにした。
ずっと戸惑い調子の女子たちに、ボクはこんこんと語る。
羽藤院があなたをフッたのは、こうした喧嘩に巻き込まないためだと。
会長も、坊主頭君も、あなたの身を案じていただけなのだと。
まるで幼馴染さんが物語のヒロインであるかのように、工夫して説明した。
それが事実かどうかは関係ない。重要なのは、彼女がどう思うかだ。
案の定、幼馴染さんはすべてを聞き終わるとうっすら涙すら浮かべて、AさんBさんに付き添われて帰っていった。
*
そして翌日の放課後。
風紀委員会の会議室で、ボクと会長は仕事をこなしていた。
先日の羽藤院の一件で、下校途中の生徒の安全性についてが問題視され。
その対策を色々と風紀委員でも検討しているというわけだが。
「そういえば、あの子が今日謝りに来てたわ。ほら、あの騒がしい女子生徒の」
会長は、ボクが座っている方向をずっと見つめている。
「会長の心遣いに感謝するとか、坊主頭の男子と仲直りしたとか、羽藤院くんとどう付き合うかは改めてちゃんと考えるとか、色々よくわからないことを言ってたけど、心当たりはあるかしら」
ボクはさっぱりなんのことかわからないという感じで、首を振っておいた。
「ふぅん……。まあ、いいけどね」
会長はクスッ、と可愛らしい笑い方をして、鼻歌交じりに仕事に戻った。
これにて万事解決。
しばらく、風紀委員の仕事は滞りなく進むことだろう。
もしも事の顛末を知っている者がいれば、なにを格好つけているのだと思われそうだが。
正直なところ、ボクは本当に誰に感謝されることもしていない。
むしろ非難されても仕方ないことをしただけだ。
なにしろ、
羽藤院がこの高校の生徒だとバラしたのはボクなのだから。
高校の近所でたむろしている不良連中に、羽藤院のことを聞きまわり。
それらしい反応があった相手を、軽く焚きつけておいたのだ。
その結果どうなったかは、もはや語るまでもない。
羽藤院には悪いことをしたが、もともとリーゼントたちは羽藤院を探し回っていたようなので、遅かれ早かれ同じ結果になったのは間違いないわけだし。
罪滅ぼしに、ちゃんと風紀委員としてできることをするので勘弁して欲しい。
なにより、健気な女子に思いを寄せられるモテ男くんは、
モテない男子のやっかみぐらいは、大目にみてくれるだろう?
次の回はたぶん、会長について掘り下げる話になるかと。