第1話・不良がモテるのは本当か!?(前編)
基本1、2話完結の話が続いていく感じです。
ドンドンドン、と扉に何の恨みがあるんだと言いたげに叩く音がした。
そろそろ下校の時間だというタイミングでの、この異音。
嫌な予感はしたが、背後の視線が痛いのでボクは渋々ながら厄介ごとの種を招き入れた。
「風紀委員会はここか!」
開口一番そう叫んできたのは、坊主頭の眉毛の太い生真面目そうな男子生徒だった。
いっそ違いますと言ってやりたかったが、やはり背後の視線が爛々としているので肯定する。
「会長はどいつだ! お前か!」
ボクが首を振り、そのまま後ろを示すと、それに呼応するように会長が椅子から立ち上がる。
「こんにちは! ワタシこそ、南あさひ高校・風紀委員会の会長よ! ワタシの顔をしっかり目に焼き付けて、後世に語り継ぐことをオススメするわ!」
長い髪を大仰な仕草でかきあげながら、ぱっちりした目を見開き。
小さめの唇を精一杯大きくしながら自己を紹介する会長。
そんな会長に坊主頭君は、ややたじろいだ様子だ。
その舞台じみた美しい仕草に驚いたのか、魅惑的な顔つきに魅入られたのか。
はたまたその圧倒的な存在感漂う彼女に出会えたことに打ち震えているのだろうか。
……なんてことを、おそらく会長は妄想していることだろう。
ボクの予想としては、シンプルに驚いただけだと思う。
まあ、会長が美人なのは事実なのだが。
やがて坊主頭君は一度咳払いをして、会長に歩み寄る。
「ここでは、恋愛の相談をしてくれると聞いたが本当か」
その発言に、会長の目は一層輝き、ボクは耳を疑った。
「頼む! どうしても別れさせたい奴がいるんだ! ぜひとも『破局の魔王』と名高き会長の力を貸して欲しい!」
続いた発言に、会長の目は一瞬で死んだ魚のようになり、ボクは納得して彼に椅子をすすめた。
※
「俺には幼馴染みの女子がいるんだ」
会長の机をはさんで、向かい合う会長と坊主頭君。
会長はすっかりやさぐれた様子で、椅子にだらしなくもたれながら話を聞いている。
聞き流している可能性もあるので、とりあえずボクが先を促した。
「その子が最近、ある生徒と付き合いだしたんだが。そいつが悪い噂の絶えない筋金入りの不良らしいんだ」
「もしかして、2年の羽藤院クンかしら」
「ああ、知ってたか。やっぱりどこでも悪名高くて有名な奴なんだな」
ボクも名前くらいは聞いたことがある。
何度か暴力沙汰を起こしているが、家が金持ちだから容易く揉み消されているとか。
眉唾なゴシップ情報がよく流れてくる生徒ではあるが。
目の前の坊主頭君はそれを信じきっている様子だ。
「どうしてそんな奴と付き合うことになったかは知らない。おそらく無理やり了承させたに決まってるんだ」
「決めつけは、どうかと思うけど」
「もしそうでなかったとしても、絶対にいい結果になるとは思えないだろ? 頼む、どうにか別れさせて欲しいんだ!」
「……そう言われても、ねえ」
会長は変わらず、だらけた姿勢を変えずにいる。
そんな会長の様子に、坊主頭君は太い眉を釣り上げて唾を飛ばしだす。
「なあ頼むよ! 風紀委員ならフジュンイセーコーユーで取り締まるとかできるんだろ? 特に会長は今までもそうやって、何人も破局させてきたって聞いたからわざわざ来たんだぞ!」
その発言に、ピクピクと会長はこめかみうぃヒクつかせている。
これは今日の帰りにスイーツを奢らされるのが確定したようだ。
「あーはいはい、わかったわよ。とりあえず、羽藤院クンに話をしてみることにするから」
「そうか! ありがたい!」
会長にそんな大人な言動ができたのかと感動するボク。
とにかく、これ以上の面倒を起こす前に帰って貰おうとボクはお客様を扉に誘おうとしたが。
「じゃあ、行こうか!」
続いたその言葉の意味を、ボクも会長もすぐには理解しそこねた。
「実はもう、羽藤院を校舎裏に呼び出しているんだ! 遠慮なく、説得して別れさせてくれ!」
どうやら目の前のこの坊主頭君は、思った以上に面倒な御方らしいと理解した。
※
校舎裏には、男子生徒がいた。
彼は180センチ近い長身でかなり強面な顔立ちで、
髪もキンキラの金色をしており相当に目立つ印象の生徒だった。
「待たせたな羽藤院!」
坊主頭君の言葉に、羽藤院は眉をひそめて睨んでくる。
呼び出しが嫌ならいっそ帰っていて欲しかったが、放置もできなかった感じだろうか。
「それで。何か用か」
羽藤院の眼光と地獄から響くかのような一言に、坊主頭君は一歩後退りつつも負けじと言い返す。
「よ、用があるのは、こちらの風紀委員会の会長様だ! 彼女からお前に言いたいことがあるんだ!」
その紹介に、非常にゆっくりとした足取りで前へと歩み出る会長。
対する羽藤院は、更に眉の皺を深くした。
「あー、ご紹介に預かりました。風紀委員会の会長でーす。よろしくー」
なんとも気だるげな様子に、ボクはハラハラしてしまう。
万が一暴力沙汰にでもなったら、血を見ることになる。ボクの。
「えっとね。とりあえず羽藤院くん。あなた、お付き合いしている人がいるのは本当?」
「ああ」
会長の質問に、羽藤院は首を上下に動かす。
それを受けて会長は、ため息をひとつ吐いた。
「一応はウチの高校、恋愛禁止っていうクソみたいな…………コホン。前時代的な規則があるのは知っているかしら?」
「いいや」
「あるのよ。ご丁寧に生徒手帳にも書いてあるわ」
「そうか」
そこで一旦話が途切れた。
会長は先を進めるのを躊躇っているようだった。
羽藤院も寡黙な性格なのか、話がなかなか進んでいかない。
それでもようやく、会長が再度口を開かせた。
「えっと、あのね。でもワタシは無理に別れろとは言わないわ。あなた達が真剣なら、しばらく友達という関係でいて、高校を卒業してから関係を育めばいいと思うの。まあでもワタシ自身はむしろ恋愛を推奨したいくらいなの。嘘でも冗談でもなく本気でそう思ってるわ。ええ、本当に」
会長の押さえきれない本音に、坊主頭君が何を言ってるんだと言いたげに割って入ろうとしたが。
一旦ここは抑えてもらった。
ボクとしては、何となく結末は既に察していたからである。
「だからね、あのね」
「わかった」
会長はまだ言葉を続けようとしたが、それより先に羽藤院が話を終わらせてしまった。
「アイツとは別れる。それで話は終わりか」
「え、ええ。まあ、そうね」
会長が肯定すると、羽藤院は何事もなかったかのように踵を返して去っていってしまった。
会長はもちろん、ボクらの方を一瞥もしなかった。
「なんだ、あっさり引き下がったな。面倒だから口だけ適当なこと言ったんじゃないだろうな」
坊主頭君はまだ半信半疑、むしろ疑いの方が濃い感じだったが。
「もしそうなら、また注意するだけよ。安心しなさい」
「おっ、そうか。助かる」
会長の一言で、坊主頭君も一旦納得し。
そのまま社交辞令を交わして帰っていった。
そうした残されたボクと会長。
ボクはその日の帰りにコンビニのプリンを会長に奢る羽目になった。
まあ、不機嫌さをずっと継続されて風紀委員の仕事が滞るよりはマシだ。
とりあえずボクは、これ以上なにも起こらないことを祈りたかったが。
無理だろうなあと予想していた。
※
そしてその翌日。
登校してすぐ結果はわかった。
下駄箱のところで、件の坊主頭君がボッコボコにされていたのである。
とりあえず、細かい部分は加筆修正していくかもしれません。