デジャビュ
既視感とは
それまでに一度も経験したことがないのに、かつて経験したことがあるように感ずること。
なんか思ったのと意味が違いましたが大目に見てください。
出てくる人名や地名は全てフィクションです。
直帰とは、会社に寄らずに家に帰ることです。
初めて通った道なのに、妙に懐かしく感じることってありませんか? そこには貴方に知られたくない真実があるのかも知れません。
ジロウは仕事の出張で長根県を訪れていた。夕方には戻る予定だったが、先方との話に花が咲いて長居してしまい、幸い明日が休みと言うこともあって結局その日は宿を取って一泊することにした。電話で上司に報告がてら直帰することを伝える。そして夜の街に繰り出すのだ。
翌朝、起き上がるとこめかみの辺りがズキズキと痛む。先方行き付けの居酒屋で盛り上がり、二件目までは覚えているが、その後の記憶は曖昧だ。
熱いシャワーを浴びて、納豆をおかずに軽い朝食を済ませ宿を出る。思いっきり深呼吸すると、朝露で湿った土の匂いや山から吹き降りる冷たい風で肺が満たされた。
この街には城や古墳が点在しており、せっかくなので観光スポットを巡ることにした。
歴史ある町並みや文化に触れると、ジロウは既視感に包まれた。しかし初めて訪れた地だし親戚もいないのに何故?
スマホで周辺地図を開く。俯瞰して見てみると、自然も豊かでトレッキングコースも複数あった。ふと九命山という名にジロウの意識が反応する。閃きのような直感が働いたというべきか。自然と足が山に向かった。
汗だくで山道を登っていくジロウ。登山には不釣り合いなスーツ姿で息も絶え絶えに歩き続けた。
いつだったのかは覚えていない。しかしジロウはこの場所を知っている。途中から鬱蒼と茂る山林に分け入った。足場はぬかるみ何度も転んだ。その度に服は汚れ、枝で傷ついても突き進んでいく。
それはあった。眼前に現れた小さな洞窟。大人が一人、かがんで入れるくらいの小さな穴だった。中からは冷たい風が絶え間なく吹き出している。ジロウはつばを飲むと、意を決して足を踏み入れた。
日の光が遠ざかりスマホのライトで先を照らしてみたが、穴はまだ続いている。
足を踏ん張りながら、中腰の姿勢で進むが、穴が狭く頭を何度もぶつけた。湿り気が有り、滴る水と汗、泥で服はずぶ濡れ状態。一体自分が何をしようとしているのかさえ分からなくなってきた。
刹那、後ろから強い衝撃を受け、ジロウは前のめりに転んだ。振り返ろうとするが再びの衝撃、そして誰かが襲いかかってきた。殴られながらも抵抗し、落としたスマホを手探りで見つけてライトを向ける。暗闇に一瞬照らされた相手の顔はガスマスクを付けていた事だけはわかった。
ジロウは首元に強い衝撃を受け、意識を失った。
「なんでこの場所が分かったんだ」
「記憶消去が不完全だったようです」
「次からは完全消去を二回以上実施するよう進言しよう」
「彼はどうしますか?」
「記憶消去して新しい名前と顔を用意しろ」
「御意」
暗闇の中、二人のやり取りが聞こえていたかは定かではないが、ジロウの人生は幕を閉じた。
そしてどこかで新しい人生を送っている。
最近よく夢を見ます。朝起きて、忘れないうちに大枠を書いて、何度も読み返しているうちにこうなりました。ジロウは後付けです。イチロウでもよかったんです。
あきらかにあの動画が影響していると思います。私の夢は直近のドラマや映画、動画コンテンツ、漫画やゲームに影響を受けます。だから結末はいつも一緒。