表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

うつくしく生える森

作者: 鈴々

昔書いた第二弾。

またまた病んでる系だけどちょっと希望もみたいな?

気が付くと、私は深い森の中に立っていた。

とても広い森なのだろう。周りを見回してみても森の出口が全くわからない。

更に、旺盛に生い茂った草木たちが、まるで監獄の中にでも放り込まれたみたいに周囲を取り囲んでいる。簡単に出口を探し出せるような状態ではない。

突然訪れた目の前の状況に、ひとりきりの私は進む方向も定まらず、ただ立ち尽くしていた。


時々、遠くの方から声が聞こえてきて、その声のする方へと進んでみた。

しかしその声の主にも、また他の誰かしらにも、全く会うことは出来なかった。

再び私はその場に茫然と立ち、周囲の気配、音に感覚を研ぎ澄ましてみる。

何も感じない。

何も聴こえない。

時間だけが絶え間なく過ぎていく。


たった一人きりの森。

どれだけの時間が過ぎただろう。

森は少しずつ、季節の移ろいと共にとその姿を変えていく。

太陽の陽の光が、風に揺れる緑の木々の間からきらきらと眩しく降り注ぎ、やがて葉はその色を鮮やかに変化させ、紅葉が森を艶やかに染め上げていく。そして寒さも深まると、葉はすっかり枯れ落ちて辺りはすっかり寂しくなってしまった。

私も、この痩せこけてしまった森のように、すっかり体力も衰え、やがて立つ事も出来ず木の根元にもたれかかるように横になる。

少しずつ、落ち葉が身体にかかり、身体は動かなくなっていき、皮膚は汚れ、爛れていく。身体は腐っていき、やがて、骨だけが残った。


私はこの森と、ひとつになっていた。

そして再び声を聞いた。

この森の声を。

森に住む動物達、植物達の声を。


彼等はすぐ側で、ずっと私を見守っていた。

初めてその事に気付いた私は、改めてこの森を見回してみた。

そこには、沢山の生命が溢れていて、私もその生命の中の一つであることを初めて知った。

今、森とひとつになった私は、一人ではなくなっていた。

違う。初めから一人じゃなかった。

森とひとつになる前から、私は決して一人ではなかった。

でも、ずっとわからなかった。私はこの森の中でひとりぼっちで寂しく朽ちていくのだと思っていた。

でも違った。

ようやく気付けたのだ。

森の沢山の仲間達がいつも私を優しく包んでくれていた事に。

それがどれだけ嬉しい事か。

どれだけ喜ばしい事か。

まだ、うまく素直に思えないのだけれど。

それでも少しずつ。少しずつでいいから。

皆と一緒に歩んでいけたらと思う。

この森の一員として。


この森で、春を祝い、夏を飾り、秋を彩り、冬を安らぐ。

生命の溢れる此処で、今日も私は生きていく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ