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「孝弘さん、お聞きしたいことがあります」


 とある休日の午後、自宅にて、アオイは孝弘に切り出した。


「どうしたんだい?」


「なぜ、孝弘さんは私に“孝弘さん”と呼ばせるのでしょうか。通常、私達は主人のことをマスターと呼びます。しかし孝弘さんは、孝弘さんと呼ぶように命令しました」


「嫌……かな?」


「そのようなことではなく、疑問に思ったので」


「…………」


 孝弘は言葉に詰まっていた。

 それは彼のわがままだった。女々しくも儚い、彼の小さな抵抗だった。だがそれをアオイに伝えることは憚られる。

 孝弘は、小さく唾を飲み込んだ。


「……僕は、君を家族として迎えたいんだ。道具ではなく、一人の人間として」


「人間、ですか……。しかし、私は――」


「わかっている。だが、それはあくまでも君の体の構造でしかない。……ねえアオイ。人と絡繰りの違いって、何だと思う?」


「無論、生物か人工物かにあると」


「確かにそうだね。だが君は、僕の呼び方について疑問に思い、それを伝えてきた。君は自分で考え、行動したんだ。生身の人であっても、疑問を抱いて行動に移すことをしない者もいる。では、君とそんな人たち、どちらが機械的だろうか」


「それは……」


 少し意地悪が過ぎた、と。

 孝弘は反省をした。


「……僕が言いたいのはね、君がどんな存在なのかを決めるのは、君に接する人次第だということなんだよ。少なくとも僕は、君を人として認識している。どれほど馬鹿にされようとも、変人と揶揄されようとも、それを否定できやしない。僕の認識がある限り、アオイ、君は確かに人間なんだ」


「私は……人間……」


 アオイは、自分の体を見つめながら復唱する。

 

(よくも舌が回るものだな……)


 孝弘は、自分の卑怯さに落胆をかげらせた。

 崇高ではない。高尚ではない。

 ことはより単純で、明確だった。


 しかしこの言葉が、少なからずアオイの思考を鈍らせていく。

 鮮明であった行動指針に、少しずつノイズを起こしていく。

 じわじわと彼女のうちに広がるそれを、彼女自身が決して口にすることはなかった。




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