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「――……手を、繋いでもいいかい?」


 須田孝弘の言葉に、彼女は小さく頷いだ。


「はい……どうぞ」

 

 無機質な声と共に差し出された右手。

 白く、滑らかで、傷一つない美しい手であった。しかし触ると、やけに冷たい。

 この季節になると、まだ夜が浅い時間でもかなり冷え込む。

 孝弘は、温もりの欠落の理由を、そんな天候に押し付けた。

  

「寒くないかい?」


「はい、大丈夫です。孝弘さんは?」


「僕は……大丈夫さ」


 血の通う暖かい手と、人工的で冷たい手。二つの手を握り合って、孝弘と彼女は街を歩いていた。

 ふと、孝弘は横目で彼女を見た。


 彼女の名は、アオイという。

 孝弘が名付けた。

 妙齢の女性であり、艶やかな黒髪は長く、痛みの一つもない。立ち振る舞いに無駄はなく、常に一定の姿勢を保っている。そして表情。その整った顔立ちは見る者を振り返らせる程であるが、まるで生気のないアオイの表情を見た者は、皆一様に胸に落ちる。


 アオイには、もう一つの名があった。

 シリアルナンバーRS5100/291W。

 その見た目は人そのものであり、発売当時、世界に衝撃を与えた。

 自立AIを有し、通常会話をはじめ家事全般までこなすことが可能とされる奇跡の発明。もちろん、その余りにも人に似通った容姿から未だ賛否が取り沙汰されるが、人口減少問題の解決策として確かな光明となっている存在。

 

 人はそれを、アンドロイドと呼んだ。


 アオイは、現行の最新型である。

 しかしながら、如何に奇跡の技術が込められたとしても、所詮は人工物でしかない。細かな表情や仕草には人らしからぬ精密さが垣間見える。

 無論それは仕方のないことである。

 だが孝弘は、彼女の横顔を見つめ、一人静かに瞳を伏せるのだった。


「孝弘さん、明日は雨天ですのでご注意を」


 ふと、アオイは告げる。

 

「そうなのかい? でもそうは見えないけど……」


 孝弘は空を見上げた。

 空は薄暗く、星の光すら見えない。月は霞がかり、どうやら雲が張っているようだ。曇天は光を奪い、夜闇を更に深くする。街灯の灯りがなければ、数メートル先すら見えないかもしれない。


「気象レーダーを確認したところ、明日の正午から夕方にかけて雨が降るようです」


「そうか……ありがとうアオイ。助かったよ」


「助けるのは当然です。私は、孝弘さんの――」


 その先は、聞きたくなかった。




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