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卍 そんなん割烹に書けよ‼ 2 卍

卍 『三体Ⅲ 死神永生』読了! 卍

ネタバレあり。未読の方はブラバ推奨。


 『三体Ⅲ 死神永生』読了。

 アマレビの賑やかさからしてSFムラの住民諸氏もおおよそ深い満足に浸っている模様。

 筆者の二年間にわたる『三体』との付き合いもついに終わったわけですが、感無量でした。

 去年五月に発売されて、七ヶ月も読み始められずにいたけれど、その主な理由は(月並みながら)中折れを心配していたからです……前作『三体Ⅱ黒暗森林』があまりにも傑作だったから「三作目でがっかりさせられたらどうしよう」と心配してたため。

 実際三作目でコケた例って多いですし……『ニューロマンサー』とか『マトリックス』とか、尖った作品ほど作者の張り切りが上滑りするですやろ?



 まあそんなのは余計な心配であった。まさしく『ニューロマンサー』『ハイペリオン』に並び20年に一度くらいの傑作でありました!

 唯一の懸念は「前二作に比べて新主人公の女の子(←ここ重要)程心(チェン・シン)がドジっ子すぎて共感できない」という評判だったけれど、そういう意見言ってる人はちゃんと読んでませんね。


 たしかに、彼女は重大な判断ミスを二度も犯して人類全体を窮地に陥れちゃうわけだけど、これは物語上必然なのよね。

 だって『三体』を通じて作者 劉 慈欣 が書いていたのは、この宇宙「暗黒森林」が、高等異星人たちの男性的、冷徹なパワーゲームによって致命的な相互不信にがんじがらめになってる、ということだったから。

 そして、中国人 劉 慈欣 がそんな冷たい宇宙に対して唯一抵抗可能かもしれないと主張したことは、大昔に『宇宙戦艦ヤマト』でさんざんテーマにされ陳腐化してしまった言葉、「愛」なのであった。


 母性的な慈愛――共感、同情、思いやり、それだけがこの荒んだ宇宙に光をもたらしてくれるかもしれない……だから優しき主人公 程心は感情優先でそちらに掛けて、敗北する。なぜならこの宇宙はもう猜疑心に満ちた異星文明の戦いによって修復不能なほど改変され、滅びるしかないからだ。


 「暗黒森林」はリアル世界のメタファーであり、相互不信、便宜主義的な男性的政治ノウハウがいずれ地球を滅ぼす、と作者は予言している。

 中国人からこういう発想が生まれた、という事実がいかに画期的で希望に満ちたことであるか……かの国の傍若無人ぶりは皆さんよくご存じでしょうから。


 残念ながら、『三体』が書かれた12年前と比べて現在の中国は文革パートⅡのまっただ中。この小説に描かれた先進性、自由さはすでに失われていると考えられる。

 そうした喪失感を含めて読後の余韻は重く、しかし妙に心地よくもあり。


 結末近くの混沌と虚無感はじつに『火の鳥』や『果しなき流れの果に』を想起させる。日本人には大いに親和性があり、かつ物語を推し進める力強さは日本的にナヨナヨした耽美主義(結末に向き合えずグルグル勿体ぶるところ)とも異なる。それでいて欧米的な人類文明中心主義とも異なる。

 きっと小松左京や大友克洋や石ノ森章太郎や平井和正にもうちょっと胆力があればたどり着けたかもしれない結末……それがある。

 すなわち宇宙の終焉と人類の行く末……クラークやグレゴリー・ベンフォードをはじめいろんなSF作家が挑戦してうやむやで終わったテーマである。


 よくぞ書き切った、天晴れというしかない。


 われわれ日本人はちょっぴりジェラシーを覚えつつ、だけど賛辞をもってこの本を愛読すべきでしょう。



 語り尽くせぬ『三体』の感想文つづきを活動報告で述べております。

 また一作目の感想もエッセイ集『卍 そんなん割烹に書けよ!! 卍』63部分で公開しております。併せてお読みいただければ幸い。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  流石はさからい先生。私もⅢの後半部分を読んでいる時に手塚治虫先生の「火の鳥 太陽編」のラスト近くを読んでいる気持ちになりました。物語の方が先に進み過ぎてちょっと置き去りにされてしまった感…
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