ずっと隠れてる
私は、かくれんぼではいつも最後まで見つけてもらえない。
「佐由理ちゃん、みぃつけた!」
「えー、もう?」
公園に、皆が無邪気に遊んでいる声が響く。
「優衣ちゃん、やっぱり探すの上手だね」
「優衣ちゃんが鬼だと、すぐに見つかっちゃうもんね」
先に発見された子たちのおしゃべりが聞こえる。きっと皆、お気に入りのベンチに座っているんだろう。そこにいるのは、私の仲良しの子ばかりのはずだ。
「よし、これで全員だね」
優衣ちゃんは佐由理ちゃんを連れて、皆のところへ戻っていったみたいだ。
待って、私、まだ見つけてもらってない!
声を上げたかったけど、無理だった。隠れてるときは、物音を立てちゃいけないってルールだから……なのかな。
私は、かくれんぼが得意だ。一度隠れる側に回ったら、最後まで見つからない自信がある。
でも、物陰に身を潜めているときは、いつも不安な気持になってしまう。もし、このままずっと放っておかれたらどうしよう、って。今は、まさにそんな気分だった。
「ねえ、何か変な匂いしない?」
「……あっ、あそこの電柱のところに、生ゴミが捨ててあるよ! きっとそのせいだよ!」
「そんなことより、次は何する?」
皆は私を置いて、とりとめもないことを話したり、次の遊びについて考え始めたりした。
ねえ、待って。私も一緒に遊びたい。どうしてこんなに目立つところに隠れてるのに、誰も気が付いてくれないの?
私は焦った。そのとき、佐由理ちゃんが呟く。
「楓ちゃん、どこ行っちゃったんだろうね」
『楓』は私の名前だ。やっと気が付いてくれた! 私は、とっても嬉しくなった。
でも私とは反対に、皆は暗い顔になった。それを慰めようとしたのか、優衣ちゃんが、「私、いい物持ってるよ」と明るい声を出す。
「それ、ブローチ?」
「綺麗な石がついてるね。その周りに何か書いてある……。外国の言葉かな?」
皆は、優衣ちゃんが出したものに興味津々みたいだった。私も見たかったけど、ここからじゃ何も分からない。皆の話を聞きながら、想像で我慢するしかなかった。
「何なの、これ?」
「魔法のアクセサリー! 会いたい人を一人だけ呼び寄せられるんだって!」
友だちからの質問に、優衣ちゃんが真剣な声で答える。
「親戚のおじさんが海外旅行のお土産でくれたの。もしかしたら、楓ちゃんを探すのに役立つんじゃないかなって思って、持ってきたんだ」
「どう使うの?」
「このブローチを、水を張った桶か何かにつけるんだよ。そうすると、ブローチはゆっくりと沈んでいって、底についたときに、呼んだ人が来てくれるらしいよ!」
「すごい! 早速やってみようよ!」
皆は、優衣ちゃんの話に夢中になっていた。
砂場に置きっぱなしになっていた小さい砂遊び用のバケツを拾ってくると、そこに公園の水飲み場の水を張り、中にブローチを入れる。すると、ブローチはゆっくりと沈んでいった。
私はその様子を、皆のおしゃべりを通して聞いていた。
しばらくして、嬉しそうな声が上がる。
「ついた! 底についたよ!」
「楓ちゃんに会わせてください!」
皆が口々に叫んだ。
次の瞬間には、ふにゃふにゃになっていた私の体に、段々と力がみなぎっていた。すごい! これが魔法の効果!?
私は足に意識を向けた。ピンと筋肉が張る感覚がする。……動ける! 私、動いてる!
私はそのまま、勢いよく頭の上にかかっていた土をはね飛ばした。
「い、いやあぁぁ!」
皆の絶叫が響く。
土だらけの私を見て、驚いたのかな?
それとも、私の体が黒焦げで、そうじゃないところは腐りかけてたから?
「皆……待って……」
私はボロボロになった体でよたよたと歩く。手を伸ばすと、爛れた皮膚の間から、白い骨が見えた。
「ば、化け物!」
皆は絶叫し、泣きながら逃げていった。
その途中で、地面に置いてあったバケツを誰かが蹴飛ばす。小さなバケツは倒れ、その中からブローチが飛び出した。
途端に、私はまた体に力が入らなくなり、その場に倒れた。魔法は解けてしまったみたいだ。
でも、良かった。だって、やっと見つけてもらえたんだから。
最後に皆とかくれんぼしたあの日、私は知らない男の人に無理やり物陰に連れ込まれ、首を絞められて殺された。
その人は私の体を燃やして、あの公園の花壇の下に埋めたんだ。
その日から、私はずっと誰かに見つけてもらえるのを待っていた。冷たい土の下で、ずっと。まるで、終わらないかくれんぼをしてるみたいな気分だった。
その気の遠くなりそうな長い遊びが、今、やっと終わったんだ。
みぃつけた、って言ってもらえなかったのはちょっと残念だったけど、心の底から満足する私の気持ちに応えるように、もう動かなくなったはずの口元が、微笑むように歪んだ気がした。