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いじめられっ子涼月さん  作者: 大居暗仔
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人生の終わり

 放課後、校舎から出た涼月さんを尾行してわかったことだけれど、どうやら彼女は塾に通っていたらしい。

 僕は涼月さんのことを、放課後には教室で読書をすることしかやることのない変人仲間のように勝手に思っていた。けれど、涼月さんにとって、あれは少し遅い時間から始まる塾の待ち時間を潰していただけのことだったのだ。ちょっと裏切られた気分になった。まあ、別にそれで殺意が昂ぶるとかはないけれど。憎しみとか感情とか、そういう強い気持ちがあって殺すんじゃない。

 言うなれば気分だ。

 ふと、殺そうと思って、殺したくなって、殺すことにしたから、殺す。

 殺人というある種の現代の最大の禁忌へ挑む気持ちが、ここまで軽いだなんて、僕に殺される方からすればこんな理不尽なことはないだろうな、と他人事のように思う。

 けれど、殺人なんてのは殺人でしかない、とも思う。殺人というのは重い行為だと、ある種の物語の中でも重みを持っていることだと、倫理観に反すると常識の範囲外だと日常に対する非日常だと、そんな風に喧伝するようにするのも自由だし勝手にすればいいと思う。だけれど、これだけ莫大な数の人間がいるのに、人を殺そうと思う人がいないと考える方が、僕からすればどうかしている。

 僕が人を殺すのに理由はない。

 ただ殺すだけだ。

 それだけでいい。


 涼月さんの塾は遅めの時間から始まるだけあって、帰宅する頃には二十ニ時を回っていた。

 こんな時間に女の子が一人帰るなんて物騒だなと考えて、笑ってしまう。

 これから涼月さんを殺そうという男が思うことか? これが。

 自分の中でうまく繋がっていない気がした。涼月さんと放課後、何回も話してきた僕と、これから涼月さんを殺す僕が。

 しかし、そんなことを言ったところで、これから殺人に及ぶという行為が変わるわけじゃない。人を殺すのに心の準備なんていらない。

 なんとなくだけれど、涼月さんを殺すので僕の人殺しは終わりでいいという気がしていた。だから、今回は殺した後に多少なりとも逃げることを意識した、桜川の時のような上着も用意していない。涼月さんを殺した後、当然のように僕は捕まるだろう。

 少年法や刑法をちゃんと調べたわけではないけれど、人を一人殺した時点で、まともな人生は終了するという認識を僕はちゃんと持っていた。桜川を殺した時点で、僕の人生は終わったようなもので、だからこれは延長戦みたいなもの。

 いじめっ子桜川を殺した。

 そして、いじめられっ子涼月さんを殺す。

 それで殺人者新野殉一の人生は終わる。

 もうそういうことでいいだろうと思った。

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