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いじめられっ子涼月さん  作者: 大居暗仔
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放課後の夕焼け

 それから数日後、ようやく桜川の死体が発見された。

 僕は殺人への欲求を強めていたものの、気が向く相手が見つからず、このまま捕まるかもしれないな、と思っていた。

 そんなある日の放課後。

 夕焼けの中、僕はいつも通り教室で読書を続けていた。

 顔を上げると、涼月さんの背中が目に入った。

 初めて涼月さんと話した時から、僕と涼月さんの放課後はこんな感じだ。

 帰宅部なのにも関わらず、帰るという活動を疎かにし、どこかに遊びに行くでもなく、教室で誰もいなくなるまで本を読んで暇を潰す。そんなよくわからない行動をしている人間が、このクラスには二人もいて、それが僕と涼月さんだったというわけだ。

密かに二人だけ残る教室に共犯関係のようなものを感じていた僕は、彼女に読んでいる本を尋ねたのだった。

 それがはじまり。

 そして、今日も僕は立ち上がり、涼月さんの机に近づくと、声をかける。

「まだキリがいいところじゃないかな?」

「うん? ああ……いいですよ。ちょっとお話しましょうか」

 しばらく読んでいる本のことや、読みたい本のことなどで雑談した後、僕は少し考えてからそれを切り出す。

「桜川さんが亡くなったね。通り魔ということだったけれど」

「ええ。かわいそうです」

 涼月さんは即答した。自分をいじめていた女子の死について。

「本当にそれだけ?」

「はい」

 涼月さんは微笑む。その笑顔は純度百パーセントだった。それ以外に本当に何も思うことがないというような。

 いじめがこれからはなくなるから嬉しいとか、自分が手を下したかったとか、そういう混じり気が少しも感じられない、笑顔。

 まるでいじめられたこと自体が彼女にとってはどうでもいいことだったみたいに。

 その時、どうしたらこの笑顔は濁るのだろうと考えてしまった。

 どうしたら涼月さんは、揺らぐのだろう。

「そうだね、桜川さんはかわいそうだ」

 別に涼月さんのために殺したわけではないけれど。それでも自分がいじめていた女の子の心に、少しもさざなみを起こせない桜川の死は確かに意味がない気がした。

 そして、僕は決めた。

 次に殺すのは、涼月さんにしよう、と。

 もちろん、桜川のためではない。涼月さんを殺す時、どんな表情をするか、それを見てみたくて。


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