桜川の最期
あの夜、僕は放課後に遊び疲れた桜川を尾行していた。
帰り道に一人になり、無防備に狭い路地に入った彼女に声をかけた。
「こんなところでアンタが一体なに?!」
強気な態度を崩さない彼女に、僕はナイフを取り出しながら言った。
「君はヘンなヤツ同士が群れている、と僕と涼月さんの関係を指して言ったよね」
「だからなに!?」
「僕は不思議に思ったよ。桜川さんの方がよっぽど群れているじゃないか」
「は? 意味わかんないし!」
「普段から群れている人間が、群れのトップになった人間が、たった一人になって一体何ができるのかな? それを見せてもらう」
「ちょ、ちょっと待てよ――待ってって。私が何したの? 来るなよ!!」
桜川を殺すのは随分と簡単だった。事前に業務用のブロック肉を買い、ナイフを突き立てて感触に慣れていてよかった。桜川の感触はそのブロック肉と大差なかった。骨を避けるのが面倒だったくらいで、あっという間に桜川は物言わぬ物体になった。
僕は血に塗れた上着でナイフの血を拭うと、そのまま上着を捨ててその場を去った。
別に捕まりたいと思ってはいなかったけれど、捕まってもやむを得ないと思ってはいた。人を殺すという目標を達成するというのはそういうことだ。
少し困ったことがあった。
案外、桜川の死体の発見が遅れたこと。
警察が僕の元に辿り着くまでまだ時間がかかりそうなこと。
そして、人を一人殺して満足するどころか、捕まるまではもっともっと殺したいという欲求に駆られてしまっている自分自身だった。