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いじめられっ子涼月さん  作者: 大居暗仔
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いじめられっ子いじめっ子

 涼月加穂はいじめられっ子だ。より正確に言えば、いじめられっ子だった。過去形。そう、彼女に与えられていたいじめは、強制的に打ち切られた。

 それは涼月さんに対するいじめの主犯格たる桜月乙葉がいなくなったからだ。正確に言えば死んだ。もう殺された後なのだ。

 涼月さんの方に話を戻すとすれば、僕は彼女がなぜいじめられるのかを、そもそも不思議に思っていた。少なくとも僕から見て、彼女はいじめられる対象からは程遠い人物に見えたからだ。

 端的に言って、涼月さんはとてもいい人だった。まごうことなき善人だった。現代には珍しい性善説を生きる人だった。

 嫌われやすい人間というのはいるだろう。残酷な話かもしれないが、どうしても人に対して不快感を覚えることはあるだろう。例えば性格に欠陥があるだとか、話す言葉が必要以上に汚かったりだとか、顔や体型が醜かったりだとか。

 しかし、涼月さんには一つも該当しない。肌は雪のようで、流れる黒髪は美しく、ちょっといないくらいに浮世離れした美人で、言葉遣いは丁寧で、何より心にどこまでも余裕があって、清らかで――いや、だからこそ浮いている、ということかもしれないが。

 涼月さんは十分人気者になりうるスペックを持っていたと思うけれども、彼女の周りにはあまり人がいなかった。というか、それは少し柔らかい表現かもしれない。涼月さんに話しかけるのは僕くらいのものだったのだから。それが僕にはとても不思議だった。

 しかし、不思議がっている場合でもないだろう。彼女は人気者どころか、いじめられていたのだから。

 涼月さんをいじめていた桜川の方は、性格も悪ければ口も悪く、顔はカースト上位なりにそこそこだったけれども、その性根の悪さが顔に現れていて、僕はとても可愛いとは思えなかった。しかし、常に人に囲まれていたのは桜川の方なのだった。

 時代性だろうか。あまり突出した属性はむしろ求められないというような。いい人よりは少し性格がひねている方が受け入れやすいし、芸術品みたいに美しいよりは、ほどほどの可愛さの方が親しみやすいという感じの。

 涼月加穂と桜川乙葉。あらゆる意味で対象的な二人だったが、その一方は既に欠けている。桜川は殺されたのだから。

 ちなみに桜川の遺体はまだ発見されていないらしい。彼女の死体が通報され、ニュースになり、朝礼の挨拶の中身になるのは、だからもう少し後のこと。

 第一発見者はまだ現れず、桜川はまだ一人ぼっちのまま。

 そんな彼女が死んだことを――殺されたことを。

 現時点で知っているのは、彼女を殺した犯人でしかありえない。

 いじめられっ子涼月さんに対する、いじめっ子桜川、なんてな。

 そう。その桜川乙葉を殺したのは、この僕、新野殉一なのだった。


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